気付けない坊主
「あのなあ。シュンカの『力』があったからできたんだ。おれだけじゃあ、尽きかけの役神戻すなんて、できねえよ」
セイテツの視線に気付いたように、しがみつく背をスザクが叩けば、真っ赤な顔をシュンカがあげ、おれ何もやってません、と首を振る。
「やったんだよ」
坊主がぽんと頭を叩いた。
さらに赤くなって黙ってしまったシュンカに、セイテツは納得しながら、シュンカが握る小瓶に眼をくれた。
――シュンカは、スザクへの想いを意識している。
アシが、ここへきて、急激に想いをつのらせた原因は、このへんにあるわけか。そうしてそれを、利用された ―――。
「・・まったく・・おまえたち二人がいたからできたことだなあ。おれは、――スザクに言われたとおり、あっさりとアシを消すことはできなかったよ」
やはりもう、歳なのかねえ、と頭をかけば、シュンカが今度は絵師に駆け寄った。
「アシは、『伍の宮のアシ』なんです。――だから、おふたりとも、アシを、消さずにおいてくれたんですよね?」
「・・・そういうことにしておくか。本当は、ちょっと叱ってからでないと、ゆかせられないと思っただけなんだがねえ」
シュンカが握るそのビンを取りあげた絵師は、《中のもの》に聞かせるように振ってみせた。
「おい、シュンカ。ケツが風邪ひく前に、着物をちゃんと着ろ」
今の格好を思い出したように赤くなって慌てたシュンカは、着物を拾いにゆく。
「・・・あのさあ、スザク。色々と、アシがシュンカにしたことを、おれが謝るよ」
「ああ?謝んなら、シュンカに言えや」
「そっか・・やっぱりまだ、気付いてないっていうか、気付けないっていうか・・」
ぶつぶつと絵師が頭をかき、まあそれなら、と当のシュンカを手招きした。
近寄ったシュンカにセイテツは腕をまわして背をいやらしく撫で、下界の女にするように、とっておきの笑顔をうかべて、相手の名を呼んだ。
「なあ、シュンカ?」
「 はい?」
「ごめんな」
見上げる顔にそのまま微笑みかけ、顔をかたむけた。
「――――――」
「テツ。そういうのは、てめえの女としやがれ」
鼻先に、手入れのいい、坊主の刀が、ひやり、と冷たかった。
めったに抜かないくせに、今の速さって、何なのだ?と、おもいきり大声で聞いてやりたかったが、やめた。
シュンカにとがめられ、むっつりと刀を納める坊主が、気の毒になったからだ。
自分が、不機嫌だということにも、この馬鹿な男は気付いていまい・・・。




