小さなビン
床の上ではアシだった蟲が、まだ腹を抱えたまま、荒く息をしている。
静かに寄ったセイテツが、ぱらぱらと塩をかければ、じゅう、と焼けるような音で蟲の顔が溶け、割れ去ったはずの、アシの顔がまたあらわれた。
「 セイ て ツ さま 」
「・・アシ。もう、おまえは尽きる」
「・・・あア・・ソウ な ラば 」
おわり、ならば、それでいい ――。
かけよったシュンカが名をよびながらおおいかぶさった。
意識が、 ――役神なのに、いままでずっとたもっていたそれが、ようやく、
――すう、と、消えかかる。
セイテツさま、と固い声がした。
「――アシは、明日にはまた、セイテツさまが、仕立ててくださるのですよね?」
絵師の、返事はない。
「・・・では、アシは、・・・コハクのように、もう、これきり、なのでしょうか?これきりで、もう、アシには会えないのでしょうか?コハクのように、父や母や、リンのように、いきなり・・・なくなるのですか・・・?」
「ああ。そうだ」
「スザク!?」
いつかのような、まったく思いやりのない声に、今度こそ言い聞かせてやると決めた絵師は、次に出された穏やかな声に、きっかけを失う。
「――それでいいか?」
「い、いやです!!」
「――そうか。なら、シュンカ、少し、『力』を貸せ」
坊主が、懐から出した小さなビンを見て、セイテツは驚いた。
「そ、・・れって、おいスザク」
「いいか?シュンカ。今からおれが経を綴る。おまえは、ちょいと、このビンを持て」
「はい」
なんの疑問も挟まずに、シュンカはスザクに従う。
「アシの、今のこの形は消える。だが、慌てるなよ?」
「はい!」
じゃらり
数珠を持ち直し、坊主が静かに腕をふりあげた。




