アシはアシ
日が落ちてからたどり着いたその里は、運よく山崩れから逃れられた場所で、全ての建物と人が残っていると、天宮からの旅人を、あつくもてなしてくれた。
普段、このような時には浮かれて酒を飲むセイテツも、今回ばかりはその気もなく、早々に休みたいと申し出た。
提供されたのは、里人が集まるための広い家屋で、人が亡くなった時は、そこで弔いもするという。
なにもない、広い場所なので、寝床を急ごしらえで繕おうとした里人へ、坊主は、いらぬと片手をあげた。
セイテツも、身体に掛けるものがなにかあればじゅうぶんとこたえ、野宿に慣れた自分達と違うシュンカがいるのに気付き、あわててひとつ寝床をつくってもらおうとすれば、「ひとつだけならございます」と奥を示される。
がらんどうのその奥に、小部屋が二つあり、片方には、亡骸と遺族が夜を共にできるよう、床があるという。
「狭いらしいが、シュンカなら問題ないだろ」
里人が運んでくれた肌掛けを渡し、セイテツが笑ったとき、どうにかシュンカは口を開けた。
「――あ、アシと、一緒に、ねたいのですが」
「―――――」
自分でも、ひどくぎこちない発音だったと思うそれに、絵師が固まった。
「――おい、おまえが吹き込んだのか?」
横に平然と立つアシをするどくにらむ。
「――わたしが言えと命じたとしたら、どうしますか?」
「おい、アシ。おまえ」
「セイテツさま!お、おれが、そうしたいと思ったんです」
「・・・シュンカ・・いいかい?アシは」
「アシはアシです!!」
「・・・・・」
このままでは、なんだか役神が怒られそうだと判断したシュンカは大声で言い切った。




