最後の願い
だから、出立前に、ようやく身体が思わしくないとアシに打ち明けられ、自分が手を添えることで、『楽になる』といわれたとき、シュンカは久しぶりに、―― 『人』の役に立てたという満足感を得て、 同時に、 ―― 心の隅が、痛かった。
自分が手を添えて、『治す』という行為は、本当はもう、―― してはいけないことなのに ―――。
「―― シュンカ?どうした?」
すぐ横から覗き込まれる。
また、落ち着かなくなる。
「 ・・・ううん。足元に気をつけないと、またアシに迷惑かけちゃうからっ」
肩に腕がまわされ、顔が寄る。
「迷惑などと思っていないさ」
「う、うん・・」
少し身を引く。
そうしないと、鼻先が相手の頬についてしまいそうだ。
一瞬。
それに、相手がわらったような気配。
「近かったか?どうにも、シュンカについていると、心地よくていかんなあ」
さっと離れたが、手はつながったままだ。
それも、何度も、握り方を変えられる。
そのたび、アシはだいぶ離れた、後ろの二人を気にするのがわかる。
「なあ、シュンカ・・・。もしかしたら、これが、最後かもしれない」
ふいに、声をおとしてそんなふうにきりだした。
「―― わたしは、もう、伍の宮どころか、天宮にいることはできないようだ・・・。シュンカから、『気』をもらえるのも、この機会が、最後だろう」
「そんな、違うよ、だって」
「スザク様を信頼しているのはわかる。だが、所詮わたしは役神なのだ。あの方がどんな説明をしたのか知らないが、きっと、シュンカに言ったのとは違うことになると。――もう、覚悟しているよ」
「スザクさまは、」
「いいんだ。―― ただ、最後に、お願いがある」
前をずっとむいたままの顔が、シュンカにむけられた。
「―― ・・・今夜、シュンカは、わたしと眠りたいと、お二人に言ってくれるかい?実は、もうわたしは、・・ずっと姿が尽きずに、このままなのだ」
「ほんと?――うん。わかった。ならおれも、アシのままのアシと眠りたいよ」
「――――そうか。シュンカも、そう、 ―― おもってくれたか 」
こちらをむいた、その、顔に ――― シュンカのうなじが、ぞわり、と逆立つ。
どうした?と優しい声の顔は、どう見ても、微笑んでいるというのに。
なんでもない、とこたえたシュンカを、片腕でひきよせた役神は、緩む口をその髪に埋めた。




