存神(たもつがみ)
「帝に、『捨てて来い』といわれたが、実際、存神とはどんなものなのだ?」
「おまえら人間が、宝物殿に祀っておろう。それに、あれは、下界でただひとつ、帝がかかわる場所よ。だから人間どもが未だに供物を捧げるのだろう?」
「まあ、そうなんだが・・・」
言われれば、確かに特別な社なのだ。
人間は、古くから天宮と接点があるその場に、感謝の意味を込めてか、供物をささげ、祭もおこなうようになった。
だが、祀られた存神については 正直、宝物を守る役目の神だという以外、その存在を考えたこともなかった。
身近な役神どもと違い、その姿は神官も坊主も見たことがない。
「あれはな、 ――役神からはずれた神だ」
サモンならば知っておろう?とアラシが聞く。
「・・・わたしが父上から聞いたものと、アシとでは、・・・かなり異なる」
困ったように口元を隠したサモンを示し、セイテツが肩をすくめる。
「サモンが知らないのなら、コウセンもセリも知らないだろう? 阿吽も知らんと言うし・・。ひょっとして、帝にだまされているかもしれないしなあ」
ありえるだけに、シモベもごろごろと喉奥で笑う。
「まあなあ。たしかに、―― 本来、役神はあそこまで人間くさくは、ならなんだ」
伍の宮のアシを知るアラシは、片方の目玉を閉じた。
「―― 役神というのはな、つかわれてこそ、役神ぞ。シャムショにたむろい、役所に集う者らこそ、《ただしい》役神じゃ。 長い時間をかけて役神になったものを、神官どもが記してまとめて把握し、それぞれの仕事をさせる。 仕事が終われば、役目も終わる。よう務めたと終わらせてやるのも、神官どもの大事な仕事よ。 あれのはじめはな ――――」
閉じた目玉がぎょろりと開く。
「 いつの頃よりか、『力』のある人間どもが、必要な役神を、仕立てて、つかうようになったのだ」




