空を狂わす
――― 明るむ 章 ―――
ひと月ほど前までの天候が、まったく天の災いで、あれほど荒れたのかと聞かれれば、アラシはそうだというしかなかった。
「―― わしら、天を預かる僕のあずかりしらぬところで、空をうごかす術などできようはずはない」
大臣たちが卦をみるアズマヤの横。
黒い鱗を輝かせ、地に身体をつけたアラシは、「―だがな」と長い首を垂らし、ぶふう、と鼻息をもらす。
「―・・・どこかで、力を溜め込む、禁術をしていたのならば、納得もできる」
「溜め込む?って・・・まさか・・」
セイテツがスザクと眼を交わす。
「近頃、妖物も、とんと姿を現さなくなったのなら、気をつけたほうがよかろう。 ―― 土釜をしている者がいるのかもしれん。それならば、下界の地の磁が狂うからな。空もあれほど狂うだろ」
「あの雨は、狂ったからか・・・」
サモンが眉をしかめ、納得したようにつぶやく。
「 だが、おまえら。 ―― わしを呼んだのはそんなことを聞くためではあるまい?」
大きな顔を地につけたまま、アラシは目玉だけを動かした。
この場にいる男三人が眼でうなずきあい、実はなあ、とセイテツが切り出した。
「おれが仕立てる役神が、・・・存神になりつつあるようだ」
ほお、とシモベは思わず羽を動かし、辺りに風が舞う。
「今どき、珍しいことよ」
アラシと同じことを、ヒョウセツも言った。
そうして、黙り込んでしまったのだ。
『嫌な予感というのは、当たってほしくないのですがね』などと、普段どおりに澄ましたことを口にしながら、いつものように、決定的な断を、口にはせず。




