気の毒なはなし
「――わしは、なあ、シュンカを呼んだのだ。くそ坊主」
玉座を前に、ひれ伏す子どもの横に、突っ立ったままの男が腕を組み、だからどうした、と聞き返した。
「おれの従者を呼んだのだから、おれを呼んだも同じだろうが」
「・・・まあ、いいわ」
立派な椅子の上で、白い猫があくびをすると、「シュンカ、黒森へゆけ」と命じた。
黒森?と言葉をなぞったこどもが横にいる男をみあげると、眉間にシワを寄せた坊主が黒森ならセリが火を止めただろう、と言う。
「―― だがなあ、燃えた森は、すぐには戻らん。それを、すぐに戻せる子どもがいるのを、黒鹿の長がききつけてな」
「売り込みやがったな?」
にらみつければ、猫が人の声で笑い、悪いか?と居直った。
「黒鹿の角がいくつもらえると思う?下界の薬師が聞いたら、すぐにも買い付けにくるぞ」
「下界には、すぐに売る気もねえくせに」
「手に入りにくいものほど、人間は高値で買おうとする。もう少し、うまく世を渡れ」
ふん、と鼻をならした坊主は「帰るぞ」と子どもに言う。
玉座を見上げ、坊主を見上げ、とまどうシュンカに、猫が甘えるような声で鳴いた。
「・・・なあ、シュンカ。黒鹿は困っておるのだ。焼けた土と木々では、今までのように暮らせぬからなあ。少ししか残らなかった緑では、この先冷え込む厳しい時期を、越せるかどうか、わからんというのだ。 ――気の毒な、話だよなあ?」
「はい」
素直にうなずく子どもの後ろ首を掴み上げ、坊主が不機嫌な声をだす。
「黒森は、西の領土だ。そんなとこに行く気はねえよ」
「あいかわらず、薄情な男よ。ところで、―― おまえの宮に、存神になりかけの者がおるだろう?」
「・・・なりかけてんのかは、知らねえが、確かにもう、役神じゃねえ」
シュンカが驚いて坊主をみる。坊主が何かを言いかけたが、玉座の猫の言葉に遮られた。
「――わかっておろうな? 早いとこ、捨ててこいよ?」
「捨てる!?」
「では、シュンカ、黒森の件、頼んだぞ」
いつものように猫がぐにゃりといなくなり、シュンカはただ、坊主の言葉を待つように、じっと動かなかった。




