いかんな
自分の手が届くところに、シュンカがいると思うだけで、なぜか心が軽く、返事はなくとも、何度も声をかけにゆき、その存在を確かめた。
『ひらいて』元に戻ったとき、心から喜ばなかったのは、自分だけだとわかっていたので、これは、
――誰にも、言ってはいない。
お茶をいれ、シュンカと目が合ったから、意識して口もとを緩める。
シュンカも、同じような顔を返すが、この微笑みも、いくつか種類があることにこの頃気づいた。
この子は意識していないだろうが、自分に向けられるものと、坊主に向けられるものでは、異なるのを、知っている。
「どうしたの?」
「いや・・。ほら、お茶で一息ついて、ゆっくり食べたほうがいい」
湯飲みをシュンカの前に置いたとき、いきなり叫び声とともに、湯飲みの中から、蛙が飛び出した。
『 っつあちいいい!!お茶じゃねえかよお!あんのクソ猫!――・・・って、今のナシ。伍の宮 シュンカ 』
「は、はい!」
『 帝がおよびだてじゃ 』
「お、おれですか?」
帝の遣いである蛙は向きをかえ、アシをじっと見る。
『 ・・・おまえ、セイテツの仕立てる役神か? 』
「はい」
『 ・・・いかんな・・ 』
蛙はアシをにらんでから、出てきたお茶をにらみ、水を用意するよういいつけ、そこへ飛び込み消えた。




