記憶
坊主と絵師と少年がいる伍の宮には、葦から仕立てた役神がいるが、それはシュンカへの想いをかさね、いつしかちがうモノへとかわっていた・・・。
前回『ゆらぐ』のつづきですが、それよりはまだ、あかるいはなしのはずです。。。が。
残酷な描写、BL方面つよめなので、ご注意ください。
――― 暁の章 ―――
かつん かつ かつ か かつん
朝の陽が、ようやく昇ったころに始まるその音で、アシは一日が始まることを意識する。
『意識』?
またしても、思いがけないものがあることに気付き、葦から仕立てられる役神は、自分を笑った。
そもそも、自分の本当の始まりは、元神官の絵師が眠る前に、この身を草から人へと立てるその時であるはずだ。 『 始まり 』などというものがあること自体、一日で役目を終えるはずの自分には、おかしな話だ。
だから、先日、「弐の宮のヒョウセツがおまえと話したいらしい」と、ひどく言いにくそうにセイテツに伝えられたときには、それは、当然だと受け止めた。
自分には本当は、一日しかもたないような術しか施されていないのだ。それが、勝手にいつの間にやら、どんどんと記憶を残し、感情を蓄えるモノへと変じつつある。
天宮内の変化に敏感な弐の宮の大臣が、そんな存在を見過ごせるわけもない。
なのに、不思議と未だにヒョウセツに呼び出されずにいる。
「・・・・・・」
かつん かつ かつん
この音を、シュンカがたてているのかと思うと、それだけで、安心する。
四の宮で、ひどいことが起こっていたときに、何も気付かず、何もできなかった自分が、いまだに、情けなく腹立たしい。
セイテツには、術で隠し覆った中での出来事なのだから仕方ないと言ってくれたが、コウセンはしっかりと感じ取っていたのだ。
自分には、――なぜか、あのときの記憶だけが、はっきりとしない。