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第10話 どうしようもなく好き

 コルネリアの力の暴走が収まった数日後、再び二人はレオンハルトの部屋で過ごしていた。

 あの後、駆け付けたテレーゼによって、コルネリアは寝所へと戻り、レオンハルトは妻を心配しながらも会議のため王宮へと向かった。

 夫婦のすれ違いは表面上は解決したように思えたが、やはりレオンハルトの心のざわめきは消えなかった。

 それはコルネリアも同じで、嫉妬で暴走してしまった自身を責め、どこか浮かない様子で数日を過ごした。

 お互いが自分を責めた状態のまま時は過ぎ、聖女の力が暴走した日から二人が会えたのは三日後の夕方だった。


「コルネリア」

「はい」


 どこかぎこちなく答える彼女に、レオンハルトはコルネリアに触れたい気持ちを抑えながら声をかける。


「僕が嫌いになった?」

「いいえ」


 それはずるい、とコルネリアは思った。

 嫌いなわけではない。

 いっそ嫌うことができたらどれだけ楽になれるのだろうかと思った。


(そんな風に考える私は……もう聖女でもレオンハルト様の妻でもない。ただの醜い女だわ)


 目をわずかに潤ませながらレオンハルトと目を合わせようとしない彼女に、彼は目の前に跪いた。


「──っ! レオンハルト様……」

「コルネリア、もう一度言わせてほしい。あの時は『好きかもしれない』と言ったけど、今は違う。コルネリアが好きだ」


(レオンハルト様……!)


 ルセック伯爵家から身請けした時に言った言葉──

 コルネリアに差し出された優しい手が少し震えている。


「本能的に求めてしまうんじゃない。今はもう君を真っ直ぐに見ている。本能じゃない。確かな僕の意思で君を求めている。好きで好きでたまらない。……もう一度、僕の傍で笑ってくれませんか?」


 その真っすぐで清らかな言葉の一つ一つが、コルネリアの心の中でくすぶっていた暗く重い心を溶かしていく。


(ああ、私はなんてバカなんだろう……。そうだ、こんなにレオンハルト様が真っすぐに愛を伝えてくださっている。それを拒否しているのは私。苦しめているのは私だ……)


 コルネリアはそう気づき、レオンハルトの頬に優しく自らの手を添えた。


「コルネリア……」


 目をつぶってなんとも愛おしそうに、その手に自らの手を重ねる。

 あたたかく重なった二人の手は、一生懸命に何か自分の気持ちを伝え合うようにそれぞれの存在を確かめた。


(私は怖がってただけ。全部、自分から踏み出すのをためらっていただけ。私は、もう、迷わない……)


「レオンハルト様、こっちを見て」

「ん? ──っ!!」


 レオンハルトが目を開いた瞬間、視界は全てコルネリアに覆い尽くされていた。

 彼女の優しい唇が、レオンハルトの唇に重なる──


 ゆっくりと離れた二人は何も言わずに見つめ合う。


「レオンハルト様、大好きなんです。私は。すごく。もうどうしようもないくらい好きで、好きで、あなたの恋人だった人に嫉妬するほどに」

「うん」

「でも、今あなたの隣にいるのは私です。妻の私です。だから、もう逃げません。あなたの過去も全て受け入れて、私はあなたを好きになります。レオンハルト様の全てを私にください」

「──っ! ああ、いくらでも渡す。コルネリアになら、全てをあげる……」


(ああ、これでいいんだ。大好きな気持ちを伝えたら。レオンハルト様も私を思ってくださっている。これ以上の幸せなんてない)


 お互いの気持ちを確かめ合った二人は額と額を合わせて微笑み合う。


「レオンハルト様」

「なに?」

「ふふ、大好きっ!!」


 コルネリアはそう言って満面の笑みを浮かべた。


「──」

「──」


 どちらからともなく伸ばされた手は互いの身体を引き寄せて、少しずつ唇が近づいていく。


「レオンハルト様……」

「コルネリア……」


 二人のささやきがお互いの耳に届いたその瞬間、コルネリアの手の中からレオンハルトの身体をするりと抜けていく。

 その身体はみるみるうちに小さくなり、服を被せられた状態になってしまう──


「「あっ!」」


 二人揃って声をあげた後、コルネリアは慌ててクローゼットにあったレオンハルトの子供服を持って彼に渡す。

 そして彼女は必死に目を逸らして彼の着替えを見ないようにした。


 しばらくして服が着替え終わったのか、彼は目を必死に閉じて逸らしているコルネリアのドレスをちょんとつまむ。


「こっち、向いていいよ」

「いいのですか?」

「ああ」


 コルネリアが振り向くとそこには新月の夜で子供の姿になった彼の姿があった。


(何度見ても、可愛い……!!)


 コルネリアはじっと小さなレオンハルトを見つめて彼をロックオンする。

 その獲物を狙うような目に危機感を覚えたのか、レオンハルトは心の中で「まずい」と叫んだ。


 彼女が彼を抱きしめようとしたところをするりとかわして逃げていく。


「ああっ! 待ってください、レオンハルト様っ! どうして逃げるんですか!」

「だって、また僕を撫でまわすじゃないか!」

「人聞きが悪いですよ。よしよし、するだけです!!」

「それが撫でまわしてるんだ!!」


 そんな風に言い合いながら部屋の中を走り回るが、結局小さな身体で追いかけっこに勝てるわけもなくあっさりと捕まってしまうレオンハルト。


「ああ~! 可愛いです~! レオンハルト様っ!!」

「おい、先月よりなんか愛情過多じゃないか?」

「そんなことないです。これが正常です」

「いや、むしろこれが正常と胸を張られても困るんだが……」


 まあ、いいか、なんてレオンハルトは彼女の可愛がりを甘んじて受け入れることにした。


(なんたって、久々に触れ合えるんだから。それに、コルネリアを苦しませ僕の罪だ)


 コルネリアは夜中までレオンハルトをぎゅっと抱いて離さなかった──


いつも読んでくださりありがとうございます!!

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