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第6話 零れ落ちた雫

 クリスティーナは細い指でカップを持つと、喉を潤すために紅茶を一口飲んだ。

 息を少し大きめに吸って、静かに、ゆっくり話し始めた──


「レオンハルトが子供の姿になるのは知っているわよね?」

「──っ! ご存じだったのですか?」

「ええ、私と国王、そしてリュディーも知ってるわ」


 確かに屋敷以外で知っている者がいるのかどうかは聞いていなかったため、身近な存在である彼女らが知っていても不思議ではない。


「リュディーの調査によると、恐らく『シュヴェール騎士団』の仕業でないかと」

「シュヴェール団……?」

「過激な反王国派の人間たちで、彼らのリーダーであるローマンは元王国騎士団の人間なの」

「どうして……」


 シュヴェール騎士団は数十人規模ではあるものの、ローマンを中心に騎士や傭兵の経験者が多く在籍している。

 そのため、なかなか王国も手を焼いており、ここ数ヵ月はより数多くの犯罪が彼らによって引き起こされていた。


「そのローマンはなぜそんなことを……それに、その方とレオンハルト様に何か関係が?」


 クリスティーナは少し黙ったまま、空を見上げた。

 そして、口を開いてこう告げる。


「3年前にシュヴェール騎士団討伐作戦が繰り広げられたの。その責任者だったのが、レオンハルト」

「──っ!」

「当時はレオンハルトが王国騎士団の騎士長で、リュディーが副長だった。歴代最高の強さと権威を誇っていて、ローマンをついに追い詰めたの」


 「あと一歩のところまで……」と小さな声で呟いて唇を噛みしめたクリスティーナは、スカートの裾を握り締めて悔しさをにじませながら続けた。


「ローマンは追い詰められて卑怯にも一人の人質をとって逃走した。それで王国騎士団は迂闊に手出しできなくなった」

「それで……それでどうなったのですか?」

「ローマンと数人の幹部以外は捕縛できたわ。彼らも深手を負って引き下がった」


 クリスティーナは悲しい表情をやめず、その目には涙を浮かべていた。

 コルネリアはそっと彼女の背中をさすると、「ありがとう」と返事をされる。


「では、作戦は成功したのですね」

「ローマンももう剣を握れないほどの傷を負って、シュヴェール騎士団の脅威は過ぎ去ったわ」

「レオンハルト様たちも無事に?」

「ええ、リュディーが地下室に立てこもったローマンを追い詰めるために怪我を負ったけど無事よ」

「よかった……」


 そう言うと、クリスティーナは静かに首を振った。


「でも間に合わなかったのよ」

「え?」

「…………リュディーが駆け付けたときにはもう、人質はローマンに殺されて亡くなっていたの」

「──っ!!!!」


 コルネリアは息が止まるような思いがして、絶句する。

 目を閉じたクリスティーナの頬に涙が伝う──



「人質の犠牲を重く受けとめたレオンハルトは騎士団長の任を降りた。そのあと怪我が原因でリュディーも前線から外れることになったの」


 自分の夫とその友人にそのような辛い過去があったことを知り、コルネリアは胸が苦しくなった。


「そして、半年前に恐れていたことが起こったのよ」


 壊滅したかに思えたシュヴェール騎士団が息を吹き返して、ここ数ヵ月の犯罪をおこなっているのだという。

 王国は早急に王国騎士団を派遣して鎮圧に向かうも、どの現場でも苦戦を強いられている。


 コルネリアは自分の頭の中で導き出した結果をクリスティーナに話す。


「もしかして、レオンハルト様の呪いは……」

「そう、ローマンが復讐のためにしているのではないか、というのがリュディーの調査結果」


 リュディーの調査では、シュヴェール騎士団の人間が他国の魔術師と密会した形跡があったという。

 さらにその魔術師というのが、「呪い」を専門とする黒魔術師であると……。


 レオンハルトに向けられた強い復讐の念が、彼の身体を蝕んでいることがわかり、コルネリアは手を握り締める。


「まだ確定情報ではないけど、彼らが何か絡んでいるのは確実ね」


 コルネリアはミハエルから伝えられていたことを思い出す。


 『呪いを解くには、かけた本人が解除するか。もしくは……』


「聖女の力で解除する……」


 コルネリアはそう呟いた──


ここまで読んでくださりありがとうございます!!

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