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第23話 生まれ育った場所への帰還(2)

 礼拝堂からコルネリアとシスターたちをにらみつけている気配に気づいたのは、見られていたコルネリア自身であった。

 その小さな影を見つけると、近寄るでもなく、話しかけるでもなくぺこりという感じで深くお辞儀をする。


「──っ!!」


 そんなコルネリアの意外な反応を見て、その小さな影は目を丸くしながらも、ふん、と言った様子でそっぽを向く。

 何か良くないことをしてしまったのか、とコルネリアは思ったが、彼女のお辞儀とその視線の先にいた小さな影を見て納得がいったようにニアが声をかけた。


「ヒルダ、あなたの先輩なのよ、きちんとご挨拶しなさい」

「ふん、しないわよ、バーカ」

「こらっ! そんな言葉を使っては……っ! 待ちなさいっ!!」


 小さな影──子供のヒルダを追いかけるようにしてニアがコルネリアから離れていく。

 ニアと入れ替わるようにコルネリアの傍にはレオンハルトがゆっくりと近づいて来る。

 そんな彼女にコルネリアは少しため息を吐いてから、申し訳なさそうな表情を浮かべて呟いた。


「何か嫌われるようなことをしてしまったのでしょうか」

「いいや、そうじゃないと思うよ。ここに来る子はたくさん事情を抱えているからね。何か理由があるんだと思うよ」

「そうなのかもしれません」


 コルネリアはレオンハルトの言葉を聞くと、意志の強い目をして一つ頷き、ヒルダのほうへと向かって行った。


 ニアに注意されてもコルネリアのことをにらむことを止めず、ヒルダは木の陰から近づいて来る彼女を見つめる。

 威勢のよさとは反対に常に隠れて相手の動向を確認している。


(何かに不安を抱えているのかも)


 そんな風に感じたコルネリアは、ヒルダを怖がらせないようにと、ある程度の距離を取りながら彼女に話しかける。


「ヒルダさん、こんにちは。コルネリアと申します。よろしくお願いします」

「ふんっ! 知ってるわよ、死んだことにされてた落ちぶれ聖女さま」

「ヒルダっ!!」

「ニアさん、本当のことですから、いいんです」


 コルネリアはしゃがんでヒルダに目線を合わせると、そっと語り掛ける。


「あなたのこと、少し伺っていました。私のせいで悲しい思いをさせてしまい、すみません」


 ──そう、コルネリアは事前にこのヒルダのことについて事情を聞いていた。

 というのも、このヒルダという勝気な少女が今この教会で預かっている子供の中で最も強い力を持つ聖女だったからだ。

 彼女は幼い頃のコルネリアほどではないにしろ、近年稀に見るほどの強い力を持った子であったが、貴族や王都の富裕層たちは彼女のことを冷たい目で見ていた。

 それはルセック伯爵がコルネリアのことを「災いをもたらした聖女」として強く批判をして、噂を流したから。

 散々コルネリアの神聖な聖女の力を利用して、そして力尽きたら用済みとして死んだことにしただけでなく、彼女の評判までを落とした。

 その評判を信じた貴族たちや商人などは教会の聖女たち、特に一際力の強かったヒルダの聖女としての素質を疑って、陰口を言うようになった。

 もちろん、王族の息のかかった教会や孤児院であるがゆえに、おおっぴらには非難しないが……。


 つまり、ヒルダとしては自分たちが苦しい思いや批判を向けられるようになったのは、コルネリアのせいだといっていたのだ。

 コルネリアもその事情、そして自分自身が突然聖女の力を失ってしまったことに対して、そしてそれが理由で子供たちに非難の声が向けられることに心を痛めた。


「ヒルダさん」

「さん、なんてつけないで。気持ち悪い」

「じゃあ、ヒルダ。あなたが苦しい思いをしていること、私のせいです。謝ります」

「ふんっ!」

「あなたはいつも聖女の力を人を守るために使っていると聞きました。お年寄りの荷物を運ぶため、風邪で倒れた子供たちの介護、怪我をした人の治療……。あなたは立派な聖女、ううん、立派な人間ですね」

「……なにが言いたいの?」


 コルネリアはヒルダの手を取ると、優しい微笑みをヒルダに向ける。


「私はレオンハルト様……ヴァイス公爵様に救われました。彼はたくさんの愛情を私に向けてくださいました、だから今度は私がそれを返す番です。彼に、そしてあなたたちにその受けた愛を返していきたいのです」

「……なに、偽善者なの?」

「今はそう思っていただいて構いません。ですが必ず、あなたたちに非難の声が向かないようにしてみせます。必ず」


 ヒルダは決意の目をしたコルネリアをじっと数秒見つめると、長い髪をさらっと靡かせて背を向ける。


「やれるものならやってみなさい」

「……っ! ええっ!」


 ニアはそんなヒルダの態度に謝罪をするも、コルネリアは首を振って去っていくヒルダの背中を見つめる。

 自分の影響で誰かが傷ついている、誰かが不幸になっている、悲しんでいる──

 そんな事実を受けて、コルネリアはなんとかしたい、そう思った。


 レオンハルトから受けた教会での仕事、そして孤児院での子供たちとの交流の中でそこに住む彼女たちの環境をよくすることが何より最優先事項だと考えた。

 コルネリアはまず今日の訪問で自分の故郷を見つめ、現状を知り、そしてどんな問題があるのかを確認した。

 それと同時に、コルネリアは避けて通れない存在を認識する。


(お父様……)


 ルセック伯爵とコルネリアの再会が近づいていた──




◇◆◇




 薄暗い礼拝堂の中で、レオンハルトとシスター長は神妙な面持ちで話をしている。


「シスター長の……?」

「はい、この老いぼれの手は今日薔薇の手入れで大変に傷ついておりまして、それがこのように」

「治った、と」

「はい、コルネリアと再会して触れ合った瞬間から痛みが引きました。おそらくは……」

「聖女の力が戻ってきていると……?」

「そう、考えられます」


 レオンハルトはステンドグラスから差し込む光を見つめて、目を細めた。


「コルネリアの聖女の力……」


 聖女の力を取り戻し始めていることを、コルネリアはまだ気づいていなかった──

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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