第20話 独り占めしたいだなんて
レオンハルトの元に近づこうとしたコルネリアの目に映ったのは、自分の夫が見知らぬ美しい女性と微笑み合っているところ。
それも何故か女の勘からか他の女性と違う雰囲気を醸し出しているように思えた。
それまでの社交的な挨拶のそれとは全く別の、クリスティーナとの会話の雰囲気とも違うような大人な雰囲気を感じた。
(もやもやする……)
コルネリアの中で嫉妬という感情が巻き起こって、そしてそれはどんどん大きく膨らんでいく。
今までこんな気持ちを感じたことがなかったコルネリアは戸惑いを覚えていた。
(どうして? どうしてこんなに嫌な感じがするの? ざわざわして落ち着かなくて……)
そう思っていたコルネリアは、その思いを感じていた時にはすでに足が二人のほうへと向かっていた。
「ああ、それでさ、辺境の地である……っ! ──コルネリア?」
レオンハルトは自分の袖を掴む小さな手の存在に気づいた。
一方、レオンハルトと話していた美しい女性もコルネリアの存在に気づき、そしてすぐさま彼女の意図や気持ちに気づいた。
「レオンハルト様、辺境の地の詳細に関しては後日手紙でお送りいたしますわ」
「ああ、申し訳ないが頼めるか?」
「かしこまりました」
そして紅がくっきり差された形のいい唇が弧を描いた。
レオンハルトと話していた女性は自分よりも少し小さい身長のコルネリアに深々とお辞儀をすると、コツコツとヒールを鳴らして去って行く。
コルネリアはその上品かつ美しい、流れるような所作に思わず見とれてしまって動けなくなっていた。
「彼女は僕の部下でね、一年前から辺境の地に赴任して様子を教えてくれているんだ」
「そうだったんですか……」
コルネリアは自分の中にあるドロドロとした嫌な感じの気配の存在になんとなく気づいてきた。
(私、レオンハルト様を独り占めしたいと思ってしまった……)
そんな風に思ってしまったコルネリアは自分が嫌になり、レオンハルトから思わず目を逸らしてしまう。
「すみません、少し外の風にあたってきます」
「え? ああ……」
コルネリアはそう言いながら、そっと彼の元を離れた。
このままだとなんだか情けない顔をして、そしていつか彼を責めてしまいそうなそんな気がしたからだった──
◇◆◇
レオンハルトはバルコニーに出て、玄関を出て行ったコルネリアを目で追っていた。
「なんか喧嘩でもしたの?」
入口で挨拶をした以来の再会だった彼女──クリスティーナと並んで話を続ける。
バルコニーの手すりに身体を預けると、そのまま月を眺めてふうと息をはく。
「なんか悪い事でもしたの?」
「いや、なんだろうか、その、いや、でも」
「もうっ! はっきりしなさいよ」
「嫉妬……をされた気がする」
「え?」
「マリアと話をしていたところを見られて、それで彼女はそっと近づいて僕の袖を握ってなんとも嫌そうな顔をしていた」
その様子を聞く限りおそらく可愛らしい嫉妬なんだろうと確信したが、レオンハルトとしては納得がいかないらしい。
「僕の自惚れだったらどうしようか」
「……へ?」
「いや、だってコルネリアが僕を好き……?ってあるのかな」
クリスティーナはその言葉を聞いて、ああ、この二人はどちらも不器用で相手を想うが故に自分のことを本気で好きになるなんてことはないと想っているのかもと気づいた。
彼女はふふっと笑いながら、言葉をかけた。
「もう、あなたはいい加減その臆病な根を直しなさい」
クリスティーナはそう言いながら手をひらひらとして去っていく。
「臆病な性格……」
彼女の残した言葉をつぶやきながらそのまま玄関にいるコルネリアを見つめる。
(うぬぼれてはいけない、そう思っていたが……)
彼はコルネリアの気持ちを確かめるため、彼女のもとへと歩き出した──
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