京編⑤後日談
「みゃーちゃんが……死んだ……?」
大好きな人が死んだことを聞かされた。
「そう。京は、あなたに生きてって言ってたわ」
「なんで……なんでもっと早く教えてくれないんですか?!」
「虹香……」
「わたし、みゃーちゃんにちゃんとお別れ言ってないのに……!」
「……つらいだろうけど、これも運命なのよ、虹香ちゃん。京ちゃんの分も生きるのが、わたしたちの使命なの」
嫌だ。みゃーちゃんが死んだなんて、嘘だ。そんなの、絶対嘘!
みゃーちゃんがいなくなって、何回も朝と夜が来て、時間が経つごとに、頭の中がすっきりしてきた。
『絶対、なにがあっても、生きてよ?』
あの時、そう言った、みゃーちゃんの顔、はっきりと覚えてる。
『京は、あなたに生きてって言ってたわ』
藍莉さんから聞いた、みゃーちゃんの遺言。
みゃーちゃんは、いつでもそうだった。食べることが好きなのも、生きるためだった。
ねぇ、みゃーちゃん?生きてって伝えたかったの、わたしだけ?
……違うよね。みゃーちゃんが1番好きだったあの人にも、きっと伝えたいよね。
わたしが、伝えてあげるね。
毎日夜8時、校舎の近くの栗の木の下。
みゃーちゃんから聞いてた、あの人との待ち合わせ。
そこに行くと、人がいた。
みゃーちゃんから聞いたとおり、ガタイがいい男の人。
「怜央さん?」
声をかけると、その人はびっくりして振り返った。
「キミは……」
「みゃーちゃん……、京は、いなくなりました」
「……いなくなった?」
「亡くなったって聞きました。……でも、わたし、みゃーちゃんが死んだなんて、思えません」
「どうして?」
「だって、みゃーちゃん、生きることが一番だったんです。あの子が、簡単に死ぬはずありません。どこかで生きてるんじゃないかなって思うんです」
「……確かにね」
「みゃーちゃん、最後に、生きてって言ったらしいです。わたしに当てた言葉らしいですが、本当はわたしだけじゃなくてあなたにも伝えたかったんじゃないかなって思って、それを伝えに来ました」
「……そっか。キミは、虹香ちゃんだね。京ちゃんから聞いてたよ」
「みゃーちゃんが、わたしのこと話してたんですか?」
「うん。すごく大切な友達だって。友達以上に大好きな人だって。キミに気持ちを打ち明けられた時も、応えてあげられないのが悔しいって言ってたかな」
みゃーちゃんが……そんなこと……。
「……でも……、みゃーちゃんの1番は、あなたでした……」
わたしは、この人には勝てなかった。
「栗の花の花言葉、知ってる?」
「え?」
「“贅沢”だ。栗の木の花言葉は“公平”とか“平等”とか」
「……だから……?」
「彼女は贅沢な人だったから、オレたち2人からの愛をほしかった。そのおかげで、オレたちはどちらも傷つかずに彼女との時間を過ごすことができたし、代わりに彼女は、公平に、平等に、オレたち2人を愛してくれた。そう思うんだ」
「……栗の木を待ち合わせにしたのは、あなたじゃないですか」
「そこまで知ってるんだ。確かに、これは無理やりか。でも、そう思うのは勝手のはずだ」
「……わたし、あなたとは仲良くしたくないです」
「残念だな。オレは、ぜひ仲良くなりたいと思ったんだけど。彼女のことを話せるのは、キミだけだからね」
「あなたと喧嘩したら、みゃーちゃんが悲しみますから、しばらくはみゃーちゃんの代わりにここに来てあげます」
その人は楽しそうに笑ってた。