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吸血姫ハ愛ヲ求ム  作者: 金柑乃実
21/23

紅音編⑥

流血シーンあります。

イライラする。

何にも満たせない飢え。何にも潤せない渇き。苦しいとはまた違う、何とも言えない不快感。

それから逃れたくて、理事長室にお茶を飲みに来た。

「お茶」

一言言ってソファに座ると、その人は苦笑いしてお茶を淹れてくれた。

「随分苛立っているね。来週には誕生日だと言うのに」

あ、そうだった……。誕生日、来週だったんだ。

「誕生日は関係ないわ」

「そうかい?あぁ、そうだ。せっかくの19歳の誕生日、盛大にパーティーを開こうと思うんだけど、どうかな?」

「勝手にして」

その人は意外そうな顔をした。

「……この茶葉がいいわ」

「え?」

「誕生日プレゼント。多ければ多い方がいいわ。全て飲み終わるまで死ねなくなるわね」

「そうか……!」

嬉しそうな顔。そんなに嬉しいの?わたしのおねだりが?変人だわ。

「……紅音ちゃん」

「なに?」

空気が変わった。何を言うの?

「最近、薬の量が増えたらしいね」

「……!」

なんで……あぁ、補充しすぎたか。

「何かあったのかい?」

「……別になにも」

「そうは思えないよ。あの転入生と一緒にいる時間が長いようだし……」

「彼女は同じベガよ。友達になっても不思議ではないでしょう」

「それはそうなんだけどね……」

なんで……なんで気づくの?なんでそんなことを聞くの?

雅は関係ない。雅はただの友達。恋愛なんて、もう……!

「紅音ちゃん」

「……っ、触らないで!」

喉が……。苦しい。違う。喉だけじゃない。全身から水分が抜けたような、激しい渇き。

今近づかれたらダメ。たぶん、襲ってしまう。

薬……はダメ。こんなところで飲んだら、きっともう気づかれる。

「紅音ちゃん、こっちを見なさい」

「……っ!」

呼ばれた方を見ると、その人の腕から赤い液体が流れ出ていた。

「飲んで」

「いや……!」

「飲まないと収まらないだろう?その渇きは、もう薬じゃ」

「うるさい!」

伸びてきた手を叩き除ける。

「余計なことしないで!あなたはわたしの親でもなんでもないでしょう!」

「紅音ちゃん……」

苦しい。苦しい。もう嫌だ!

「……っ!」

目の前のカップを掴んで、一気に流し込んだ。こんなもので収まるはずがない。

そんなの知ってる。一瞬、一瞬だけでいい。一瞬だけ収まってくれれば……。

「……はぁ……っ」

深く息を吐くと、ようやく落ち着いてきた。

19年間伊達にこの病気と付き合ってきたわけじゃない。

薬を飲まなくても一時的に渇きが収まる方法は知ってる。

「……紅音ちゃん、落ち着いたかい?」

「……」

カップに新しいお茶を注ぎながら、その人が言った。

「……こういうことは言いたくないけど……。紅音ちゃん、自分ではない人を想うというのは素晴らしいことだよ。でも……、今じゃなくていいんじゃないかな?今はまだ優先するべきものがあるだろう?」

「……知らない」

もう一度お茶を飲んで、理事長室を出た。


寮に戻って薬の瓶を開けた。掌に出てきた錠剤を全て口に入れて、水で流し込む。

『今じゃなくていいんじゃないかな?』

知ってる。そんなの、わたしがよくわかってる。

どうせ死ぬ運命。恋愛なんて無駄なだけだって。

でも、止められない。どうしたって、自分でコントロールすることなんてできない。

コントロールできるなら、その術を教えてほしいくらい。

そうしたら、こんな無意味な感情から逃げられるのに。

こんなに苦しい思いをしなくて済むのに。

ベッドに座って、そのまま倒れ込んだ。見慣れた天井が視界いっぱいに広がる。

「……もう……嫌だ……」

疲れた。


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