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吸血姫ハ愛ヲ求ム  作者: 金柑乃実
2/23

知花編②

「あ、雨……」

朝から少し窓の外を覗いてみると、雨が降ってた。

「今日は日傘なしか」

でも傘なしというわけにはいかない。日光を浴びることがないわたしたちは体が弱くなっているらしく、雨に当たると風邪を引きやすくなるから。

クローゼットから雨傘を取り出す。正直、日傘よりこっちの方がかわいいから好き。

日傘は紫外線完全カットが1番だから、デザイン性は優先されてないし。

「知花、行くよ」

「はーい」

翼が呼びに来た声がして、慌てて部屋を出た。


「ねぇ、雷があたると痛いの?」

教室に着くと、黒塗りの窓の外からゴロゴロという雷鳴が聞こえてきて、翼に聞いてみた。

「知らない」

「だよね」

翼もわかんないか……。

どうなんだろ。雷は電気みたいだから、感電した時と一緒?ってことは、結構痛いよね。

恋は雷に打たれたような衝撃で始まるらしいけど、本当にそうなのかな?

じゃあ恋って痛いのかな?

「知花、また変なこと考えてる」

「変じゃないと思うけど……。ね、恋って痛いの?」

「わたしたちにとっては、痛いより苦しいの方が先よ」

「あ、そっか」

「そんな変なことばっかり考えてないで、授業が始まったらちゃんと集中しなさいよ」

やっぱり変なことなんだ……。

「はーい」

大人の恋愛は難しいね。


「知花、こんな雨の日に出歩いたら、風邪ひくよ」

「だから、翼はついてこなくていいって言ってるじゃん」

別に散歩しちゃダメっていう決まりはないから。

男子寮に近づくのは規則違反だけど、敷地内で森林浴するのは止められてない。

晴れの日にはできないから、日が沈んで暗くなった後かこういう雨の日にしか見て回れないのに、雨の日もダメなんて有り得ないよ。

「翼、知ってる?紅月七不思議」

「は?」

「わたしも全部は知らないんだけどね。学園内のどこかにある乙女像は夜になると涙を流すとか、木造の小屋がどこかにあって、そこは昔恋人同士が愛を誓って火をつけ、命を落とした場所とか。学園内に綺麗な花園があって、その中にある薔薇の花の前で愛を誓うと、その愛は永遠に続くとか」

「……バカみたい」

「その話が嘘か本当かは知らないけど、本当にあるのかは調べてみたいじゃん」

「どうせ全部作り話でしょ。だいたい、7つもないのに、なんで七不思議なのよ」

「それは知らないけど……」

「最後のに至っては、七不思議というよりただのジンクスだし」

「そんなに嫌なら、部屋で待っててよ。わたし1人で調べてきて、結果教えてあげるから」

「……いい。一緒に行ってあげるから、早く諦めてよね」

「それなら、わたしが諦めることより、乙女像と木造の小屋と花園が見つかることを祈った方がいいよ」

絶対に諦めないからね。


「知花、もう帰ろうよ」

「やだ。1個もないとか、絶対ありえないから」

「だから、そんなのただの作り話だって」

もう夕食の時間が近づいてきてる。

もう帰らなきゃいけないのはわかってるけど、諦めたくない。

せめて1個だけでも見つけたいのに……。今度いつ雨降るかわかんないし。

「翼は先帰ってて」

心配そうな翼に笑顔を向けて、1人で歩き出した。

「……知花を1人にしたら、とんでもないことやらかすでしょ」

え、わたし、そう思われてたの?まぁ、翼がついてきたいのならいいんだけど。

「どこにあるのかな……。けっこう広い範囲で探したと思うんだけど」

「学園の敷地の面積もよくわかんないし、知花が今日回ったのは学園内でもごく一部かもよ」

「えー……」

それはないって言いたかったけど、いつも寮の部屋の窓から見るとき、学園を囲んでるはずの壁がみえないから、その可能性もあるんだよなぁ。

「……わかった。今日はもう諦めるよ」

仕方ない。今度は、寮の書庫で学園の見取り図とか探してからにしようかな。

すぐ後ろの茂みが、ガサガサと揺れた。

「え?」

森の中だから動物くらいはいてもおかしくないんだけど、ここにきてまだ一度も鳥以外の動物を見てない。

「誰かいるの……?」

恐る恐る声をかけてみる。すると、ガサッと一層強い音がして、

「驚かせてごめん」

人間の声がした。少しかすれてる、男の子のような声。

茂みの中から現れたのは、同い年くらいの男の子だった。

「あなた、ここの生徒?」

「そうだよ。男子寮の」

「わたしたち女子寮だよ。初めまして」

男子に会ったのは初めて。当然だけど。

「はじめまして。ボク、大志」

「タイシ、くん。わたしは知花。こっちが友達の翼」

「知花ちゃんと翼ちゃんか。ここで女の子に会ったのは初めてだよ」

「当たり前だよ。恋愛禁止だから、男女の接触を避けてるんだもん、ここ」

「初めて会った女の子が、君たちみたいな優しくてかわいい子たちでよかった。ねぇ、君たちは何歳?」

「14だよ」

「あ、一緒なんだ」

大志くんも14歳なんだ。 この時期って、男の子は声変わりの途中なのかな。

「あ……」

寮のチャイムが鳴ってる。もう夕食の時間だ。

「もう行かないと」

「ボクも。ねぇ、また明日、夜にでも会えない?ボク、日が沈むとよくこの森を散歩してるんだ」

「いいけど、ここ広いでしょ?見つけられるの?」

「それはどうとでもなるんだよ」

「そっか。わかった。じゃあ、また明日」

「また明日」

お互いに手を振って、この日は別れることにした。


「知花、明日、行かないよね?」

その日の夜、翼がわざわざ部屋に確認しに来た。

「なんで?行くけど?」

「考え直して」

「なんで?」

「規則で決まってるでしょ。男女の接触は禁止。なんのためにひとつしかない校舎を、わざわざ時間ずらして使ってるの」

「でも、散歩中にたまたま会ったってことにすれば、きっと先生たちにもバレないよ」

「すぐバレるに決まってる。知花は嘘が下手だから」

「そんなことない」

「とにかく、本当に偶然会うならともかく、あの子に会うのを目的に行くのはやめて。怒られるのよ。罰だってあるかも」

「大丈夫。絶対見つからない」

「そんな自信、どこから来るの……」

「なんとなく。とにかく、明日も行くから。翼、誰にも言わないでよ」

禁止されてることをする時って、ドキドキというかワクワクする。

ここの日常は刺激がなくてつまらないから、たまにはこういうのがあってもいいと思うんだ。


「乙女像に木造の小屋に花園?……聞いたことないなぁ」

毎日夜に大志くんと会うようになって数日。

初対面の時と比べると、すごく仲が良くなってなんでも話せる仲だった。

大志くんは、わたしの疑問を聞いてくれる。答えは見つからなくても、一緒に考えてくれる。

だから、大志くんに会うのはいつも楽しみだった。

「ここの七不思議らしいよ」

「ボク、この辺りはかなり探索してるけど、そんなの見たことないよ。校舎の裏とか寮の裏とかは見たことないから、そこにあるのかな?」

「大志くんは、本当にあるって思う?」

「そんな噂になるくらいだからね。誰かが作った話にしても、どこかにそのモデルになるようなものはあるんじゃないかな」

やっぱり、翼と違って否定しない。

「知花ちゃんは、花園で愛を誓うとか、そういう話が好き?」

「好きか嫌いかはよくわかんないけど、素敵だなっては思うよ。こんな山奥に閉じ込められて暮らしてきて、綺麗な花園の一つや二つはないと、納得できないしね!」

「あはははっ!確かにそうだ!」

「大志くんは?もし好きな人がいたら、その人と一緒に行きたいと思う?」

「好きな人なんて、よくわからないからなぁ。でも、知花ちゃんとなら、そういう場所に行くと楽しいだろうなっては思うよ」

綺麗な笑顔を向けられて、思わずドキッとした。

「あははは……」

慌てて取り繕うように、バッグの中から薬を取り出して、口の中で噛み砕く。

「あれ?」

ケースを振ると、もう残り少なくなってた。

「最近減りが早いんだよなぁ……」

「大丈夫?」

大志くんが心配そうな顔を向けてくれる。

「あ、大丈夫大丈夫!ただこれをよく飲むようになったってだけで、他のことは何も変わってないから。お薬だけなら、寮の売店で補充できるからね」

「無理はしないでね。心配だよ」

「ありがと、大志くん」

薬の量が増えたって、やっぱり悪くなってるのかな?

ちょっと心配だけど、他のところは何も変わってないし、大丈夫だよね?

大志くんに心配をかけたくない。


売店の入口にある機械にケースをセットして、スイッチを押す。

赤いランプがついて、ジャラジャラっていう音がして、緑色に変わる。

「知花」

ケースを取ったところで、翼に声をかけられた。

「どうかしたの?翼」

「来て」

「翼?」

翼、怒ってる?なんで?まだ大志くんと会ってるから?

翼に掴まれてる右の手首、痛いんだけど。

「もうやめなよ」

部屋に連れてこられてすぐ、翼が怖い顔で言った。

「なにが?」

「彼と会うの」

「なんで?」

「……知花、最近よく補充してるでしょ」

「うん。飲みたくなるから」

「それ、無駄だよ」

「無駄?」

「誰かを好きになったら、異常に血が飲みたくなる。それは好きな人の血液でしか潤せない渇き。こんな偽物で潤せるわけがないじゃん!」

「……!」

珍しい……。翼がこんなに声を荒らげるの。どうしたの?なんで怒ってるの?

「翼……?」

「……わたしのお姉ちゃんもそうだった」

「え?」

「人を好きになって、でもその人を傷つけたくないって血を拒み続けて、……死んだ」

嘘……そんな話、初めて聞いたよ……。翼にお姉ちゃんがいたことだって、初めて……。

「知花、今ならまだ引き返せるよ。あの人と会うのやめて。これ以上あの人を好きになっちゃダメ」

翼に掴まれてる肩。痛い。こんなに力が強いのに、どうして弱く見えるんだろう?

「……無理だよ」

「知花……!」

「大丈夫。たぶん、違うよ。だって、恋は雷に打たれるような感覚なんでしょ?わたし、そんなの感じたことないもん。だから、たぶん恋愛じゃないよ」

「違う!」

「翼、落ち着いて」

「知花まで……、知花までわたしから離れて行かないでよ!」

翼が泣いてる。こんなに大きな声を出して。今まで、寂しかったんだね。

お姉さんを失ってから、ずっとひとりぼっちだったんだね。

「わたしはどこにも行かないよ、翼」

初めて翼がかわいく見えた。


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