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吸血姫ハ愛ヲ求ム  作者: 金柑乃実
19/23

紅音編④

翌週、藍莉がしつこいから、納骨堂に行った。あんまり行きたくはなかったんだけど。

藍莉は納骨堂に着いた瞬間、その前アルカイド像の掃除を始めるから、雪乃と美晴にも周囲の掃除を任せて、わたしと雅で中を掃除することにした。


久しぶりに中に入った……。

いつかはお世話になるから、掃除くらいはするべきだと思ってるんだけど、やっぱりここの独特の空気は苦手。

雅はさっそくほうきを持って掃除を始めてた。

まだここに来て数日で、ここへの思い入れもないんだろうな。

というか、今まで家族と暮らしてきたのなら、雅はここに入らないのかもしれない。

同じ“ベガ”だと思うとこれからもずっと……って感じるけど、やっぱり違うのよね。親がいないわたしとは。

「雅、それぞれの骨壷に供えてある花を処分して。全部古いもののはずだから」

1年に一回、年末の大掃除の時だけここに来る。その時に花を供えることになってる。

全部造花だけど、せっかく掃除をするなら、新しく供えてあげた方がいい。

雅は黙って花を片付け始めた。

最低限しか喋らないのはいつものことだけど、あれ以来、少しだけ喋ってくれるようにはなった。わたしといる時は、だけど。

「おい」

もう聞き慣れてきた低い声に振り返る。

「ここの花、どうすれば?」

雅が指したところを見ると、そこだけ生花が供えられていた。

それも、全く枯れてない、綺麗な花。

「……藍莉ね。勝手に処分するでしょう。そこはしなくていいわ」

「知り合いなのか?」

「昔のもう1人の“ベガ”よ」

「……お前も知り合いじゃないのか?」

「そうね」

知り合いというか、大好きな先輩。でも、ここには来たくない。

なんとなく、ここにはいない気がするから。だってここは男女別にわかれた納骨堂。

20歳を迎える1か月前、タイムリミット直前に好きな人と命を絶つ決断をした彼女が、こんなところで我慢してるはずがない。

……まぁ、彼女がどうやって死んだかなんて、藍莉も知らないことだから、藍莉が毎日のようにここに来てるのは仕方ないことだと思う。

「……あなたは、ここでいいの?」

「なにが?」

「死んだ後にまで男女別にわけられる。……わたしたちは、死んでからも恋愛ができないわ。それでもあなたは、その偽りの姿でい続けるの?」

もちろん雅がここに入る可能性はないけど。

「……いつから気づいていた?」

「確証はなかったわ。カマをかけただけ。やっぱり男なのね」

「……」

「どうして女のフリをしてるのかなんて聞かないわ。どうでもいいから」

「助かる」

「このこと、誰か知ってる人は?」

「誰にも言ってない」

「理事長も?」

「あぁ」

あの人が知ってたら、女子寮に入れるはずはないか。

「これからも誰にも言わないの?」

「そのつもりだ」

「そう」

雅がそれでいいって言ってるなら、わたしがいろいろ言えることでもない。


授業が終わってすぐに理事長にお茶を飲みに行って、それから寮に帰ってくると、ちょうど雅が寮から出てきた。

「雅、どこかに行くの?」

雅は用心深く周りを見てから

「納骨堂」

と短く答えた。

「なんで?」

雅が納骨堂に行く理由なんてないでしょう。

「……お前が言ってただろ。いつか世話になるから掃除くらいはって」

確かにそうしなきゃとは思ってるって話はしたかな?

「雅はご家族がいるでしょう。あそこに入るのは家族がいない子たちだけよ」

「……死んだ後、家族が先祖代々の墓に入れないと思うからな」

「……そう」

どういう意味とかは聞かない方がいい?

「興味無いのか?」

「あるけど聞いていいの?」

「……別に」

さすがにここで話す気はないみたいで、森の中に入っていく。

「雅、今まで家族と暮らしていたわけじゃないの?」

森の中に入って歩きながら聞いた。

「いや」

「じゃあどうして家族の元に帰れないなんて言うの?」

「……俺の家、女系の占い師一家なんだ。俺を産んだ時、母親はもう産めない体だって言われたらしくてな」

「だから女装?」

「あぁ」

でも、それなら雅がいないと家族は納得しないんじゃないの?

「2年前、奇跡的に妹が生まれた。それから俺は厄介者だ。俺が病気だとわかった瞬間、すぐにここに送り込んだ。俺が死んだ後、骨を引き取るヤツらじゃないと思う」

「そう」

「それより、俺もお前に聞きたい」

「なにを?」

わたし、何か変なこと言ってたかしら?

「お前は理事長の娘じゃないのか?お前こそ、ここに入る理由がないだろ」

藍莉か雪乃から聞いたのかな。そこまで教えるなら全部教えればいいのに、あの2人は……。

「実の娘じゃないからよ」

「どういうことだ?」

「わたしは生まれつき病気だったの。おかげで母親に抱かれた記憶もないわ」

「それで、最初からここに?」

「そう。普通は3歳以上で発症するから、3歳以下の子どもは手が空いてる教師に育てられる。わたしの時はたまたま理事長しか暇人がいなかったから、理事長に育てられた。それだけのこと」

「なるほどな。だから理事長の娘か」

「あの2人はおもしろがってるのよ。父親だなんて思ってないわ」

「……そうは思えないけどな」

雅まで何言ってるの……。

「そういえば、雅、あなた男としての名前も雅なの?」

「いや、タイガ……大きいに雅で大雅だ」

なんだ、一応そっちの名前もあるのね。彼を大切に思う人もいたってこと?

「大雅ね。覚えておくわ。これから使うかどうかもわからないけど」

日傘の中で長い黒髪の隙間から見えた彼の横顔は、少し嬉しそうに見えた。

本来の名前を知ってもらってうれしいから?それとも、また別の理由?

そんなの、わたしにわかるわけがない。

でも……なんだろう、これは。心から溢れ出る笑顔は、こんなに綺麗なものなの?


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