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吸血姫ハ愛ヲ求ム  作者: 金柑乃実
16/23

紅音編①

森の中を1人で歩いていた。

手には売店のハンカチで作った白い薔薇の造花。行先は、森の中の木造の小さな小屋。

毎月21日の恒例だった。3年前からずっと。あの人がいなくなった3年前から。

月明かりしかない木々の間に、やっと小屋が見えてきた。

元々は茶色い丸太でできた小屋。今は焦げて黒くなってしまってるけど。

その姿が、ここで過去に起こったことを現している。

黒い小屋のドアの前に、白い薔薇の造花を置いた。しばらく手を合わせて、それで終わり。

「……また来月」

誰もいない小屋に声をかけて、また来た道を戻っていった。


「紅音ちゃん、また昨日、あの小屋に行っただろう?」

「……だからなに」

聞きなれた低い声。もう耳にタコどころかイカができるくらい。

いっそタコでもイカでもできてくれた方がいい。この人の声を聞かなくて済むなら。

「あの小屋は脆くなっているんだ。近づくと危ないから、近づかないように言ったはずだよ」

「誰にも尾けられてないわ。他の生徒には知られてない」

「そういう話じゃなくて……」

「話がそれだけなら、寮に戻る」

「まだ終わってないよ」

「珍しいお茶の葉を手に入れたから飲みに来るように言ったのはあなたでしょう?それがお茶を一口も飲ませないで小言?用事がないと判断してもいいと思うんだけど」

「わかったよ。じゃあお茶を淹れよう」

その手に持った茶葉の缶は……。仕方ない。今日は付き合ってあげよう。


「また遅刻だよ、紅音」

「……だから、どうしてわたしの部屋にあなたたちがいるの?」

話を終えて寮に戻ると、藍莉と雪乃がいた。このメンバーに美晴が加わってもうかなり経つ。

「午後からはお茶会って言ってるでしょ」

「必要ないわ」

「紅音ちゃん、いいじゃない。こういう楽しみくらいないと」

「だったらあなたたち3人でして」

「はいはい、紅音。これ飲んで落ち着いて」

藍莉になだめられるのはなんか嫌だ。

「紅音ちゃん、理事長に呼び出されたから機嫌が悪いのね」

「だったら行かなきゃいいのに」

「行かなかったら寮まで訪ねてくるわ。面倒よ」

「確かにね」

「理事長ならやりそうだわ……」

大人しく呼び出しに応じているのは別の理由があるけど、それはこの3人に教える必要が無い。

……あの人が持ってる紅茶を飲みに行ってるだけなんて、特に藍莉に知られたらなんて言われるか。バカにされることは間違いない。

「あ、そうだ。紅音、さっき医務室で聞いたんだけど、近々新しい子が入ってくるって」

「そう」

「藍莉ちゃん、それは女子寮にってこと?」

階級が上がって“スピカ”に入るってことも有り得るから、雪乃は気になったみたい。

女子寮に新入生って、1年ぶりくらい。男子の方が発症率が高いわけでもないのに?

「そう聞いたよ。しかも18歳」

「18歳?!」

美晴がそれを聞いて驚いてる。本来、吸血鬼症候群は10歳未満、それも小学校にも入らないような小さい子が発症するはず。

進行性というわけでもないのに、18歳まで普通に生きてきて突然発症?

……なんか変。おかしい。

「藍莉、他に情報は?」

「えーっとね……あ、名前はミヤビちゃんって言ってたかな。普通に漢字の雅。無口で気難しい子だから、気にしてあげてねって」

「それ、紅音ちゃんと同じタイプってこと?」

「雪乃、どういう意味かしら?」

「あ、ごめんなさい」

「いや、事実でしょ。気難しいのが2人となると、大変ね」

「わたしは気難しくないわ」

「いい加減認めなさいって、紅音」

認めるわけがないでしょう。違うんだから。


「あぁ、雅さんのこと?今は病院で検査中だから、明日にはこっちに来れるかな」

「いつも無駄に呼び出すんだから、そういう必要なことくらい教えてくれないと困るわ」

「今日話そうと思ってたんだよ」

理事長室のソファで、ティーカップに口をつける。やっぱりここの紅茶が1番美味しい。

「その子、どういう子?」

「静かで大人しい子だったよ」

「……気難しいって聞いたんだけど」

「確かに、見る人が見ればそう見えるかもしれないね」

「18歳って聞いたわ。どこの階級?」

「第一か第二になるだろうね」

第一が“ベガ”、第二が“スピカ”だから……

「相当悪いのね」

「ただの階級だよ」

重症度を現していることは、今でも教えてくれない。

「あぁ、そうだ。紅音ちゃん、来月誕生日だろう?何か欲しいものはあるかい?今年は豪華にしよう。友達と大きなパーティーをしてもいいよ」

誕生日……。来月、19歳になる。タイムリミットが近づいてくる。

「……墓石」

「え?」

「ここじゃ使わないわね。じゃあ綺麗な骨壷でいいわ。わたしが死んだ後に使うから」

「何を言っているんだい?紅音ちゃん。まだまだこんなに元気じゃないか」

「吸血鬼症候群は20歳を越せない。“ベガ”にもなれば治る可能性も0。そんなことくらい、もう知ってるわ」

「紅音ちゃん……」

「それとも、20歳を越せるだけの人間の生き血とでも言った方がいい?」

これにはこの人も答えられない。わかってる。こういう苦い空気が流れること。

「……今日はもう戻るわ」

カップに入ったお茶を全て飲み干して、席を立った。


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