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吸血姫ハ愛ヲ求ム  作者: 金柑乃実
13/23

雪乃編④

「雪乃さん?」

「ここにいるわ」

目が見えなくなった美晴ちゃんと、同じ部屋にしてもらった。

わたしが静かにしてると、美晴ちゃんは必ず声をかける。

「よかった……」

「どこにも行かないわよ。わたしがどこかに行く時は、必ず美晴ちゃんも連れていくから、安心して」

「はい!」

その笑顔だけで、わたしの方が幸せになる。

テーブル上の筆箱からカッターを取り出して、腕に軽くあてて引いた。

薄く血が滲んで、それを美晴ちゃんに差し出す。

「美晴ちゃん、飲んで」

「あ、ありがとうございます!」

美晴ちゃんは両手でわたしの手を持って、傷に口をつける。

自分の血が啜られる感覚にはもう慣れた。

「……ん、今日もおいしいです!」

「ありがとう」

「雪乃さんの血がおいしいからか、最近薬を飲まなくても大丈夫になったんです!あれ、美味しくないし」

「飲まなくていいわよ。血がほしいなら、いくらでもあげるから」

「そんなことしたら、雪乃さんの血、全部飲んじゃいますよ」

それでもいい。……って思ってしまう。恋愛は怖いわね。

「あ、でも……、雪乃さん、カッター、貸してください」

カッター?どうして?美晴ちゃんの手に持たせる。美晴ちゃんは自分の手に傷を作った。

「美晴ちゃん?」

「これ、飲んでください」

「……わたしはいいのに」

「ダメですよ。いつもわたしばっかり雪乃さんからもらってるから、それじゃ雪乃さんが貧血になっちゃいます。飲んでくれないなら、わたし、もう雪乃さんの飲みませんからね!」

それは困る……。仕方ない。美晴ちゃんのためにも、あんまり飲みたくはないけど、少しだけなら……。

「……ん……」

ヌメっとした液体が、一瞬で口の中に広がった。同時に心の中に広がるこれは……幸福感?

わからない。でも、幸せ。喉も潤されて、お腹というか心が満たされる。

もっと飲みたい。もっと。全てわたしのものにしたい。

「……っ!」

……わたし……なに考えてた?美晴ちゃんを……。

「雪乃さん、もっと飲んでいいんですよ?」

「……もういらないわ」

「そうですか?じゃあ、またほしくなったら、言ってくださいね」

薬で補えるのは、あくまで血液の成分と、貧血を防ぐ鉄分だけ。

本物の血液を口にすれば、あれが偽物だってことはすぐにわかる。

薄味で、しかも個体。本物とは全然違う。

だから、本物を知ると薬を受け付けなくなる子もいる。

わたしは違うと思うけど……、でも、さっきのは……。


「美晴を殺しそう?」

「えぇ」

美晴を部屋に残して、1人で藍莉ちゃんの部屋を訪ねた。

「なんでまた。恋人でしょ?」

「だからよ。血がほしくなるわ」

「じゃあほしいって言えば?」

「……一応吸血行為は禁止されてるんだけど」

「今更でしょ。屋外でしか会えない男女のカップルは知らないけど、同性カップルは、風が匂いを運ばない室内でやってるわよ」

「なんかいやらしい言い方やめて。それはわかってるわ。紅音ちゃんが黙認してるから、わたしもそれにどうこう言うつもりはない。でも……」

「でも?」

「この前、美晴ちゃんの血をもらった時、もっとほしいって思ったのよ。このまま全てわたしのものにしてしまいたいって。さすがにこれは、危険だわ」

「そう?恋人なら当然なんじゃない?」

「ここの恋人たちは、常に同じことを感じてるって?」

「雪乃だって、初恋ってわけじゃないでしょ?前は男子寮の子と付き合ってたし」

「そんな昔のこと言わないで。あの時は……なんか違うの。任せてればいいというか、受け身だった」

「今は、相手が相手だからね」

盲目になってしまった美晴ちゃんに、全て任せることなんてできない。そもそも、美晴ちゃんから光を奪ってしまったのは、わたしの思い込みが原因だったんだから。

「いっそ割り切ったら?」

「割り切る?」

「あの子進行性なんだし、これから治る可能性はほとんど0でしょ。わたしたちと同じ。だったらここで2人幸せに暮らしましたの方が幸せじゃん」

「美晴ちゃんを殺したら、それも無理だと思うわ」

「だから、これから先、雪乃は美晴ちゃんの血以外を飲まないって、美晴ちゃんに約束するの。そうしたら美晴ちゃんもうれしいと思うし、万が一殺されても文句はないんじゃない?」

「……そういうものなの?」

「わたしに言えるのはそれだけ!ほら、帰って!」

藍莉ちゃんに恋愛相談なんてしたのが間違いだったか……。


「雪乃さん、どこに行くんですか?」

「いいから」

美晴ちゃんの手を引いて、寮を出た。目的地はすぐそばの温室。

「ここ……薔薇園?」

温室の中に入ると、美晴ちゃんもさすがに匂いに気づいたみたい。

「七不思議というか、ジンクスがあるでしょう?学園内の花園で愛を誓うと……っていう」

「聞いたことはありますけど、あれ、本当の話なんですか?」

「どうかしらね。花園というか薔薇しかない薔薇園だし、男子寮と女子寮の近くにそれぞれ1つずつあるから、学園内にも2つはあるし。そもそも一般の生徒は知らないはずの場所よ」

「じゃあ、どうしてここに?」

「そのジンクスを信じてみたくなったの」

「え?」

といっても、あのジンクスに出てくる薔薇がどの薔薇を指してるのか知らない。ここ、薔薇しかないし。

「……美晴ちゃん」

「はい」

「わたしは、あなたを永遠に愛することを誓います」

売店で買った玩具の指輪を、美晴ちゃんの指に通す。

「……雪乃さん……!」

「美晴ちゃん?」

びっくりした。突然抱きついてきたから。

「わたしも……わたしも、大好きです!雪乃さんしか好きになりません!」

本題は別にあったんだけど……もういいや。今言える雰囲気じゃない。

「雪乃さん」

「なに?」

「キスしていいですか?」

「……どうして?」

「付き合ってるのに、まだしたことなかったじゃないですか。それより深いことはしてるのに」

なんか言い方がおかしいけど、吸血ってことね。キスより深いかどうかは疑問だけど。

お互いの体液を交換するっていう点では、同じ部類じゃない?

美晴ちゃんの手が、顔を這う。

「美晴ちゃん?」

「雪乃さんは黙っててください。わたしからします」

美晴ちゃんからって……見えないんじゃ……。けど……なんていうか、手が……いやらしい。

「……っ、美晴ちゃん……っ」

「雪乃さん、かわいいです」

「か……っ、かわいいって……っ!」

「今、顔真っ赤ですよね?」

「そんなこと……っ!」

「わかりますよ。ここ、頬でしょ?すごく熱くなってます」

すごい……。目が見えてないとは思えない。

美晴ちゃんの指先が、やっと唇に当たった。

美晴ちゃんもそれを感じ取ったのか、嬉しそうに口角をあげる。

次には、それがわたし自身のものに当たってた。


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