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檻の中の女の子


 場所は移り変わり、私とシグレの部屋だ。そこに今、私はメグルと2人でいる。

 服装は、ドレスから普段着に着替えている。メグルの服は、ルナさんが用意してくれた、何故かサイズぴったりの服に変わっている。ミニスカートの女の子らしい服である。

 私の知るメグルなら嫌がる服かもしれないけど、調子の戻らないメグルはあっさりとその服を受け入れて着替え、現在に至る。


「……」

「……」


 この部屋に来てから、少しの時間が経っている。でも私もメグルも黙り込んだまま、話そうとしない。

 あの口喧嘩が尾を引いていて、話し出しにくいのだ。

 せめて、他に誰かいれば仲介してもらい、話す事ができるかもしれない。だけどエリシュさんの提案で、久々の再会だし当人の2人切りにしてやろうという事になり、この部屋に閉じ込められた次第だ。

 あの人、割と余計な事を言い出すよね。私とメグルが彼女の目の前で口喧嘩してた事を、忘れているのではないか。それとも、からかって遊んでるのかな。せっかくあんな男に支配されそうになった所を助けてあげたのに、恩をあだで返すつもりじゃないよね。


「……シティは今、この家。この部屋に住んるのか」

「っ……!そ、そうだよ。シグレと一緒に、ね」


 メグルがそう話を振ってくれて、私は一瞬驚いたけどすぐに答えた。


「シグレ……お前の妹、だったよな。前髪の長い」

「そう!凄く良い子で、可愛いんだよ。メグルを助けるのにも、色々協力してもらったんだ」

「そう、だな……。あの子には悪い事をしちまった。後で謝らねぇと」


 メグルは頭を掻きながら、顔をしかめて言った。

 確かに、シグレはメグルに燃やされかけたからね。体のあちこちに傷ができてしまい、痛々しい姿となってしまった。

 でもね、メグル。私の顔、見て。私の美しい顔は、メグルに殴られた事によって腫れて痣ができて、酷いものだよ。ま、それはメグルもなので、お互い様だ。

 私は大人だし、それを責めるつもりはない。


「……そのシグレだけど、メグルが私に家族を作らせるために、カルマに頼んで送りこんだんだって?」

「っ!」


 そう尋ねると、メグルが悲壮な表情を浮かべた。歯を食いしばり、目の端から涙を零しながら、私を真っすぐに見据えて来る。でも私と目が合うと、すぐに目を逸らしてしまった。というか、私に向かって頭を下げて来た。


「本当に、ごめん!全部、全部オレの我儘のせいで……!」

「な、何!?急にどうしたの!?」


 私は慌てメグルに駆け寄り、その身体を支えて頭を下げるのをやめさせようとする。だけど彼女は頑なに頭を下げ続け、その行動を止めようとはしない。


「オレのせいで、シティを巻き込んだ!シティの家族を奪う事になった!どんだけ詫びても詫び足りねぇ!」

「お、落ち着いてよ。メグルのせいじゃない!」

「いや、元を辿ればオレのせいなんだよ……オレが、カルマの口車に乗ったせいで故郷に住めなくなった。シティの住む国、村に来る事になった。挙句にグラさんとサラさんが死んじまって、ディルエも死んで、サベルのおっさんも酷い目に合わせてっ……!アイツの企みに乗せられて、オレは本当にバカだ!」

「……メグルは……カルマの口車に乗って何がしたかったの?」


 メグルのせいではない。彼女にそう訴えても、たぶん今のメグルの耳には届かない。だから私は、まずそこを尋ねた。私はメグルの出自を、どう育って来たのかも知らない。それを教えてもらわなければ、どうも先に進めない気がする。


「オレは……物心がついた頃、東の方にある小さな町で暮らしてた。そこは活気に溢れた町で、年中祭りをやってるようなにぎやかな町だった。だけどオレは、外に出る事を許されなかった。小さな家に閉じ込められて、そこで家庭教師を雇って、最低限の知識だけを教わって育った。その家庭教師の口が悪くてな。それでオレは、こんな口の利き方になっちまった。でも、他に交流のある人間がいなかったんだよ。あの時のオレにとっては、この喋り方が全てだった」


 メグルは私に言い訳をするように言いながら頭をあげたけど、私から目を逸らしてしまった。


「続けて」


 私は話の続きをメグルに訴える。まだまだ、メグルの生い立ちを私は知れていない。


「……オレがその家に閉じ込められてた理由は、分かるだろ。オレの親父が、炎賢ランドグリースだからだ。その事は、町のお偉いさんとオレの家庭教師しか知らない極秘情報で、まぁオレは……周囲に自分の存在を隠す事で、かろうじて生きる事を許されてたんだ」

「メグルは、自分のお父さんの事を知ってたの?」

「ああ、知ってた。親父は本当にたまにだけど、オレに会いに来てたんだ。無口で愛想のないおっさんでな。だけどハッキリと、自分が炎賢で、オレの親父だと言っていた。それで、オレが世界のルールを破って生まれた子だとか、生きるべきじゃない人間だとか、そういう事をわざわざオレに教えて来るんだよ。正直言って、嫌いだ。だけど、その通りだった」

「違うよ。メグルは生きてても良い。生きていてくれたから、私はメグルと会えた。メグルがいなかったら……私はたぶん、自分の殻に閉じこもったままだったと思う。だから、その言葉は否定させて。それで、続きをどうぞ」


 別に、その点を論争するつもりはない。どれだけメグルやメグル以外の人が否定しても、メグルは生きていても良いんだから。だから言い切ったうえで、メグルの話に耳を傾ける。


「そ、そんな感じで、オレは閉じ込められながら暮らしてた。ある日、カルマがどこからともなく現れた。奴はいつの間にか家の中にいて、そしてオレにこう言ったんだ。外に出たくないか?こんな所で、一人で毎日退屈に過ごすんじゃなくて、他の子どもたちのように外を自由に駆け回り、自由に生きたくはないか、って」


 そんなの、そうに決まっている。カルマはそこを突いたんだね。カルマがカルマの目的のために、メグルを手に入れるための作戦はその時始まった。


「……オレはそうなりたいと、答えた。自由に生きたい。こんな狭い場所で過ごすんじゃなくて、広い世界を見てみたい。生きていても、良いって……そう言われたかったんだよっ」

「うん」


 せっかく生まれて来たのに自由になれず、その上生きる事を否定される気持ちって、どんなだろう。私は味わった事のない気持ちだけど、絶対に悲しいはずだ。拳を震わせるメグルを見れば、その気持ちを察する事ができる。


「オレの願いを、カルマはあっさりと受け入れた。そしてオレを、あの狭い家から……町から連れ出した。その際にカルマはオレに、家に火をつけさせた。コレは必要な事だと言われたよ。オレは自由になるためだと思って、言われた通りに火をつけた。その火はまたたくまに町中に広がったんだ。その時は、オレのせいで町が燃えたんだと思って、本当に取り返しがつかない事をしてしまったんだという自責の念にかられ、カルマについて必死に町から逃げ出した。でも今思えばアレは違う。オレが家に放った火以外は、カルマが手引きした事なんだと思う。オレにそうやって罪の意識を根付かせ、二度とこの町に戻ってこようなんて思わないようにするために、な。でも火をつけた事に変わりはない。そう分かった所で、オレはもう戻れはしなかった」

「でも誰が、メグルの正体をバラしたりしたの?メグルが八大賢の娘っていうのは、秘密にしてたんだよね?」

「犯人は、町のお偉いさんだ。オレが町から逃げ出す際に、カルマから金を受け取るのを見た。情報を売ったんだと思う。それから、町から逃げ出すのも手引きしたんじゃねぇかな。町の警備は、小さい割にかなり厳し目だった。警備が手薄になるよう、協力した奴がいるはずだ」


 警備が厳しかったのは、たぶんメグルがいたからだろう。メグルを閉じ込める檻を、その町で形成していたんだ。


「で、カルマは国境を越えたある村にオレを連れて来て、その村の中でならオレが自由に過ごせると言った。その村の事は全く知らなかったけど、のどかで良い村だと思った。でもすぐに普通じゃないと思ったよ。村全体が妙に殺気立ってて、血なまぐさいからな。あと、全員が全員で当然のように魔法を使ってるのもおかしい。カルマに尋ねたけど、適当にはぐらかされた。でもオレは気づいた。この村は、結局オレを閉じ込めるための檻なんだ、ってね。場所が変わっただけで、オレには自由がない。実際村のお偉いさん達は、オレの魔力について興味津々だった。あの目は、子供を見る目じゃねぇ。武器を見る目だ」


 私の村は、戦士の村。カザリクと呼ばれる部族の事を考えれば、その目的が分かる。

 私の村も、結局カルマと変わらない。メグルを戦士として育てるつもりで、受け入れたんだ。


「だけどな……グラさんは、違った。あのおっさんだけは、オレを普通の子供として扱ってくれたんだ。オレの正体を知った上で、村に受け入れると言ってくれた。オレを武器としてではなく、子供として扱ってくれた。オレみたいのに、自分の娘のシティと会って欲しいとか言って頼んで来たんだぜ。あのおっさんは、絶対におかしい。でも、すげぇ優しかった」

「うん。そうだね」


 メグルと、パパと私で過ごした時間を思い出し、私は柔らかく笑った。

 メグルがパパを優しいと言ってくれて、嬉しい。何より、パパがメグルを武器として見ていなかった事が嬉しくて、誇らしかった。


「そこで出会ったグラさんの娘は、すげぇ生意気な奴だった。いきなりつっかかってきて、喧嘩しちまった」


 その娘とは、勿論私の事だ。私もその時の事は、昨日の事のようにハッキリと覚えている。思い出して、ちょっと笑っちゃった。


「でもな……初めて会った時、正直に言うとすげぇ可愛い子だと思った。オレとは住む世界が違う。権力とかそういうのを抜きにして……お姫様みたいだと思った」


 メグルが恥ずかし気にそう言うので、私も照れてしまった。

 いや、そりゃあ私は可愛いよ。お姫様だと思われても、それは仕方ない。でもそれをまさかメグルに言われるとは思ってもいなくて……照れた。


「私も、同じような事を思ったよ。凄い生意気で、私とは住む世界が違う。でも……カッコ良くて、王子様みたいだなって思った」

「なんだそりゃ。オレは女だぜ?」

「分かってるけど、だってメグル、カッコ良かったんだもん」

「っ!つ、次だ。ここから起きた事で、オレはオレが赦せなくなった」


 お返しとばかりに私が褒めると、メグルは顔を赤くして慌てて話を逸らした。

 あの時よりも髪が伸び、女の子らしくなったメグルだけど、まだまだ凛々しくカッコイイ。そんなメグルの照れる仕草は、ギャップを感じて可愛さを倍増させる。

 でもメグルはすぐに真顔に戻り、これから話す事の大切さを私に伝えて来た。私も、なんとなく察したよ。ここからは、メグルが私の前からいなくなったあの日の話だ。


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