感動の再会?
「はあぁ?何言ってるのか、全然分かんないですけど!」
「だから、オレはお前に助けられる義理なんて全くないし、放っておきゃ良かったんだよ!何で助けたりしたのか、こっちこそ理解不能なんだよ!」
「理解不能って……そんな事なくない!?こっちは必死でメグルを探して、ようやく見つけたんだよ!?そして気持ち悪い男に、気持ち悪い性格にされたメグルを解放して元にあげたんだよ!?何が理解できないって言うのさ!」
「全部だよ!全部、全く理解できねぇ!」
「お、お二人とも落ち着いてください!」
言い争う私とメグルの間に、シグレが割って入って止めようとしてきた。だけどメグルを挟んでも私とメグルは睨み合い、怒りの視線をぶつけあって火花を散らす。
感動の再会──になるはずだったのに、まさかの喧嘩が始まってしまった。こんな事になってしまったのは、メグルに原因がある。私の名を呼んで、目が覚めたかと思ったら急に私にブチ切れてきたのだ。信じられないよ、この凶悪オレっ娘女。なんでオレを助けたとか、なんでオレを殺さなかったとか、私が苦労して来た事を、目覚めて開口一番に全否定ときたもんだ。こっちがどれだけメグルを探し求め、最後にはどれだけ苦労してカルマから解放したと思ってるのさ。
だからこっちも、ブチ切れた。そして言い争いになり、今に至る。
「シグレ君の言う通りだよ。いったん落ち着きたまえ」
シグレに追従し、先生が私とメグルの頭の上に手を置いて間に割って入って来た。
メグルはすぐに反応し、その手を振りほどこうとするけど、振りほどく事ができない。メグルは怒鳴っているから、一見元気そうには見えるけどフラフラだ。解放されたてのせいか、どこか地に足がついていない感じである。
本来なら、そんな彼女を労って看病してあげたい。でも彼女は今、私に喧嘩を売ってきている。だから何もしてあげられない。むしろ怒鳴り返して泣かせてやりたいと思う。
「離せ、風賢エフテニーリャ!てめぇ、あんな男に敗けて簡単に操られやがったみたいじゃねぇか!八大賢の名も廃れたもんだなぁ、ええ!?」
「酷い言われようだねー。でも言っとくけど私、別に操られてなかったからね?」
「は?」
「へ?」
先生の言葉に、私とメグルは耳を疑った。操られてなかった?カルマの言われるままに動いていたのに?いや、別に命令されて動いていた訳ではなかったようだけど。でもカルマは、先生を手に入れたとかなんとか言っていたじゃない。
「え?気づいてなかったの?ショックだなー。八大賢の魂を、そう簡単に支配できる訳ないじゃないかー。君も、まがりなりにも八大賢の娘なんだから、あんな悪い男に騙されて手駒にされたりしちゃダメだよ」
「ふ、ふざけんな!完全に、操られてただろうが!操られてなかったなら、なんで奴を殺さなかったんだよ!」
「別にさっさと殺してもよかったけど、彼が死んで、彼の支配下に置かれている者達が解放されるとは限らない。主を失った者達が暴走する可能性があったから、とりあえず様子を見ていた。それだけ」
「そ、それだけって……じゃあ、エリシュさんも?」
「私は囮だ。奴がどういう手法を使って人心を支配するか、それを見極めていたんだよ。あわよくば私もエフテニーリャのように演技で済ませたかったが、そういう訳にはいかなかった。奴は八大賢には及ばずとも、煙の魔女程度の力は上回ったと言う訳だ」
「……はあぁ」
私は深いため息を吐いた。
前から言っているし、思っている事だけど、そう言う事は先に言っておいてくれないかな。心臓に悪すぎなんだよ。
「ひ、ヒヒ!」
そこへ気持ちの悪い笑い方を浮かべる氷の男がやってきて、私は思わずメグルの背後に隠れた。メグルも自然と私を庇うように手で覆ってくれて、それから私達は喧嘩中だという事を思い出し、互いに変な空気になってしまう。
「そ、その男の人は?エリシュさん、その人の事嫌いなんですよね?」
「ああ。殺したいくらいには嫌いだ。だが、念のために応援として頼んでおいた。使える駒は、使っておかなければ損だからな」
「こ、ここ、駒とか、酷いなぁ。ボクと君の仲じゃないか」
「……」
「おっと。無言で魔力を解放するんじゃない。エリシュも落ち着きたまえよ。さすがにこの場で、煙の魔女と氷賢ゴールデウスが戦い出すのは、色々とマズイ」
「ひ、氷賢!?ていうか、ゴールデウス!?この人が!?」
「そうだよ。知らなかったの?いや、知るはずないか」
先生は知ってて当たり前のように言ったけど、色々と引っ掛かるところがありすぎる。まず氷賢という事は、この人が先生と同じように、世界を滅ぼすくらいの力を持っている人だという事。言われてみれば、どこか先生と雰囲気が似ている気がする。
もう一個引っ掛かったのが、その名だ。ゴールデウスという名は、私が通っている学校の名前と同じである。
「わ、私達の学校も、ゴールデウスという名ですが……」
学校に付いては、おずおずと手を上げてシグレが質問した。
「あの学校は、この男が作った学校だよ。もっとも、初代の数人を輩出して生徒が全く来なくなり、私に全てを押し付けて逃げ出したけどね。ちなみにその初代の生徒の一人が、エリシュだ」
「あー……」
エリシュさんから、男の修行についての話は聞いている。そりゃあ、来なくなるよ。
先生は、そんな学校を受け継いでまともな教育カリキュラムを作り出し、しっかりとした学校として立て直したという訳だ。凄い人じゃん。普段はあんまりやる気を見せてくれないからやる気がないのかと思っていたけど、ちょっと見直したよ。
「え、エリシュ、様……」
その時、エリシュさんの腕に抱かれたままだったルナさんが目を覚まし、エリシュさんの名を呼んだ。それに対し、エリシュさんは愛おしそうにルナさんの頬を撫でながら、優しく声を掛ける。
「ん。気づいたか、ルナ。苦労をかけて、すまなかったな。もう全部終わったぞ」
「……良かったです。元に戻ってくれて」
ルナさんも、エリシュさんの頬に手を伸ばし、二人の顔の距離が急激に迫っていく。
うん。完全に、恋人同士の再会状態である。本来なら、私とメグルがそうなるはずだったんだよ。いや、二人みたいにちゅーをする勢いで迫ったりはしないけど。……たぶん。
「……お話し中、誠に申し訳ない。少し、よろしいですかな?」
そこへ、初老の執事の男の人が、頭を低くして私達に話しかけて来た。
更なる男の登場に、私はもうなりふりかまわず身を潜め、隠れる事にした。
「仕方ねぇな……」
メグルはそう呟いてそれ以上何も言わないでくれて、とりあえず私とメグルの喧嘩は一時休戦となった。
でも問題は、エリシュさんとルナさんである。二人は今まさに、キスをしようとしていた所である。そんなタイミングで話しかけられ、ルナさんは正気に戻って慌ててエリシュさんから顔を背けた。
ルナさんはエリシュさんと違い、時と場所をわきまえる人だからね。本来であれば、人前でキスをしようとなんてしない。今は少し寝ぼけていて、それでエリシュさんにされるがままだっただけだ。
でもこのタイミングで話しかけるとか、このおじさんけっこう勇気があるね。というより、空気が読めないのかな。もしかしたら、次の瞬間氷漬けにされちゃうかもよ。
「構わん。話せ」
「ありがとうございます。カルマなのですが、どういたしましょう。逃げられぬよう、こちらで拘束しておりますが……」
エリシュさんは意外にも怒ることなく耳を傾け、初老の男が氷漬けにされる事はなかった。
カルマは、カルマから解放された人たちの手によって、現在拘束中である。その際手荒に扱われたのか顔が腫れているけど、それ以外に傷は見られない。ただ、酷く憔悴していてすっかり元気がなくなってしまっている。
「好きにすればいい。彼の手によって家族を失った者もいるだろう。赦せないのなら集団で彼をリンチし、殺せ」
「勿論、我々の中にはそうしたいと思う者もいます。しかし、それでよろしいのですかな?」
「まぁ……君たちを救った、シェスティアはそうなる事を望んではいないだろうね。何せ彼女は、非常に甘い」
さすが私のおばあちゃん。よく分かってらっしゃる。確かに私は、そうなる事を望んでいない。でもそれはカルマが可愛そうだからとか、そういう理由じゃないんだな。皆でカルマをよってたかってリンチするとか、そんな所を見たくないだけである。
カルマは殺されても仕方ない事をした。でも……ホント、見たくはないんだよ。カルマが殺される所も、皆に虐められるところも。私はそんなシーンが見たくて、皆を解放した訳ではないんだから。
「……我々の総意は、我々を救ってくださった少女に従う事。彼女がカルマの死を望まないのであれば、我々がこの場で彼を処罰する事はありません」
「だとよ。どうすんだ、シティ」
「望みません」
「シティは、カルマの死を望んでいない。そう言う訳だから、とっとと失せろじいさん。シティは男が苦手なんだ」
メグルは私の言葉を彼に伝えた上で、ちょっと言葉遣いが乱暴だけど、私のために彼を遠ざけてくれた。
それは昔のようで……とても居心地が良いんだけど、あの時と何も変わっていない事にちょっと腹が立つ。でも本当に、メグルが帰って来たんだなと実感する。
それが嬉しくて、私はメグルにバレないよう、メグルの後ろでひっそりと笑った。




