本当の再会
私は草原から、戻って来た。傍にはルナさんを腕に抱くエリシュさんと、先生。シグレと、気絶しているメグルがいる。それから、過去に森で出会った氷の男。カルマに、カルマを睨みつける大勢の使用人達……。
今私の目の前で、カルマが彼に操られている人たちに向け、命令を出したところだ。それにより、町では惨劇が始まろうとしている。
それと引き換えに、彼は使用人たちから憎悪を向けられる事になってしまった。どうして、自分の身よりもそんな悲劇を望むのか、私には理解ができない。
「──家族を守るため、我慢に我慢を重ねて来た。できれば最後まで家族を守りたかったが……残念です。我が主、カルマ。いや、外道のクズ。こうなった以上、私は貴様を赦さない。赦す訳にはいかない。今この場で、殺す」
「ひっ」
執事の初老の男の人が、凄い気迫でカルマを睨みつけた。その迫力は、まるで鬼か何かが重なって見える程である。たぶんこの人、タダ者じゃないよ。
でも確かに怖いんだけど、カルマみたいにビビって腰を抜かすのはどうかと思う。
「覚悟しろ、このクソ野郎!」
「家族は失ってしまっても、貴方はこの場で殺す!絶対に、赦さない!」
初老の執事さんに続き、彼の使用人として働いていた人々が、口々にカルマに罵倒を浴びせて今にも襲い掛かりそう。それだけ、彼に対しての憎悪の念が強いという事だ。それだけの事を、カルマはしてきた。
かと言って、大勢で弱い者を取り囲んでリンチに至るのは、見るに忍びない。
別に私は、平和主義者という訳ではない。カルマはそうされるだけの事をしてしまった。そう割り切れる。だけども、だよ。そんな光景を、私は見たくはない。キレイごとだけど、そんな事をカルマのためにしないでほしいと思う。
「……大丈夫だよ」
「シェスティア?」
私が呟くように言うと、ルナさんを抱いているエリシュさんが私の名を呼び、首を傾げて来た。
「大丈夫。カルマに操られている人たちは、私が解放する」
「ほー。それは一体、どうやって?」
先生が興味深そうに聞いてきて、私はそれに口では答えず、行動で答えを出す。
まず、手をかざした。すると周囲の虹色の魔力が集まって来て、私の意のままに動いてくれる。そこに更に私の魔力も足して、魔力はどんどん大きくなっていく。
私の異変に気付いたその場にいた人たちの視線が、私へと注がれる。私はその視線に応えるようにして、一気に魔力を解放した。すると、四方にに虹色の魔力が飛んで行った。飛んで行った魔力は留まる事をしらず、あっという間にこの町全体を飲み込むまでに至った。それでもまだ、余力がある。やろうと思えば、この世界全体を包み込む事も可能な気がする。でも今は、これだけで充分だ。
「──世界の欠落」
それから私はシロさんに教わった魔法を発動させるため、その言葉を呟いた。その瞬間に、この町から魔法が失われた。全ての魔法は打ち消され、カルマに支配されていた人たちにかかっている、カルマの呪術も消え去った。
「これは……!」
エリシュさんが驚きながら、魔法を発動させようとしている。でもエリシュさんから魔力の光は漏れださない。私の魔力の中にいて、私がこの魔法を発動している限り、魔法は絶対に使う事ができないだろう。
「お姉さま。何をしたのですか……?」
「この町から、魔法を消し去ったの。今この瞬間。町から魔法は失われた。勿論、カルマの呪術もね」
「な、何を言っている!ボクの呪術は、魂に根付いて支配する物!生きた人間の血を用いた、完全なる支配だ!こ、この場にいる者達にかかっていた物も、一部そうだが……それを、全て打ち消した……?町全体の、ボクの下僕たちの呪術を……?ああ、あ、あり得るか!出来ない!絶対に不可能!殺せ、殺せ!下僕ども、暴れ回れ!」
取り乱すカルマからの指令も、もう届く事はない。全ては終わったのだ。
「ははは!」
「ヒヒヒ!」
一方で、高笑いをあげた人物がいる。エフテニーリャ先生と、氷の男の人だ。
「カルマ。本当に、もう全部終わりだよ。この子が、シェスティアが全てを終わらせた。君の企みは、もうなにもかもが破綻したんだよ。下手な小細工も、やけくそになってやろうとした行為も、全てがだ」
「……失礼ながら、エフテニーリャ様。我々にはどうも、今起きている状況がよく分かりません。説明をお願いしてもよろしいかな?」
楽しそうにする先生に対し、初老の男の人が声をかけた。
彼らは周囲の異変には気づいているようだけど、そこまで魔法が得意な訳ではないのか、状況がつかめていないようだ。
「いいよ。教えてあげよう。今シェスティアが言ったように、彼女がこの町から魔法を消し去った。それにより、カルマによって支配されていた者達も解放された。君たちの家族は、暴れ出したりなんてしていないし、生きている。もう自由だ」
「それは、本当ですか?」
「本当だ。八大賢の名にかけて、本当だよ。君たちと、君たちの家族は、自由だ。もう、カルマに操られる事はない」
初老の執事の人が、ホッと胸を撫でおろした。
それに続き、家族を人質にとられていた使用人たちの、歓喜の声があがる。自分たちだけの自由では喜ばなかった彼らだけど、家族も自由と知った彼らの喜びが爆発したのだ。
それだけ、彼らにとって家族が大切だという事だ。私もその気持ちはよく分かる。私も、家族が大切だから。
「……よくやったな。シェスティア」
歓喜の中で、エリシュさんが私の頭を撫でて、労ってくれた。
「お姉さまはやっぱり、最高です!凄いです!大好きです!最強です!」
シグレも、煤だらけになった姿のまま目を輝かせ、私を褒め殺しにかかってきた。
腕に抱き着いて来たそんなシグレの頬を手で撫でて、可愛い顔を汚す煤を取ってあげると、シグレは嬉しそうに笑ってくれた。
「んー……」
その時だった。気を失っていたメグルが呻り、覚醒が近い事を知らせて来た。
私はすぐに駆け寄ろうとしたけど、だけど本当のメグルと会って、何から話せば良いか分からない。その足が彼女に歩み寄るのを妨げ、私は2人の家族に囲まれたまま立ち尽くすだけだ。
「何をしている。君が、ずっと探していた家族のお目覚めだ。景気よくキスで出迎えてやれ」
「き、キス!?わ、私にもしていただきたいですが……でも、いいです。今は、我慢します……!」
「え、ちょ……」
そんな私の背中を押してくれたのは、2人の家族だった。
私をメグルの方へと近づけるため、エリシュさんは背中を押し、シグレは腕を引っ張ってメグルの下へと連れて来る。
いや、ていうかキスて。本気で言ってるの?この、目を閉じているメグルの、ピンク色の小さな口にキス?それで目が覚めたら、まるで私が王子様みたいじゃない。いや、今そうして目が覚めても、だいぶタイミングを読んでの事だから、若干ズルっぽいけど。
私はとりあえず、メグルの頭上に腰を下ろし、頭を撫でてみる。柔らかな、女の子の髪。ずっと求めていたメグルが、今目の前にいる。
さっきまでのお嬢様メグルは偽物で、偽物との再会はノーカンだ。ここからが本当の、感動の再会シーンとなる。はず。
「すぅ……メグル」
「ん……シティ……?」
緊張気味に、息を吸い込んでから名を呼ぶと、メグルが目を開いた。
うっすらと開かれた目は眠気眼で、まだ完全に目が覚めていない事を物語っている。でも確かに今、私の名を呼んでくれた。
それを聞いた私は、泣いた。でも泣いている姿をメグルには見られたくない。すぐに涙を拭い、笑顔でメグルを出迎えた。




