表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/99

──この世界に生まれる前 その1


 実を言うと、私は転生者である。

 前世での私は才色兼備で、周囲からは憧れの目で見られていた。自分で言うのもなんだけど、超天才。12歳にして高校卒業レベルの勉学を身に着けていたので、飛び級で海外の大学にでも行こうかと考えていたりもした。容姿の方は、転生後にも負けず劣らずの黒髪ロング清楚美少女だ。誰もが私の将来を想像し、ため息を漏らすほどの美しさだったんだよ。

 そんな全く問題のなさそうな、完璧ともいえる人生を歩んでいた私だけど、問題があった。当時の私は問題ともなんとも思っていたけど、それは私の人生を大きく狂わせる程の大問題だったのである。


「──ふざけるなっ!」


 その日の朝、私の怒鳴り声が自宅である屋敷の中に響き渡っていた。

 私の父は、大企業の社長である。家には潤沢すぎるお金があり、その財産に比例するように家は巨大。多くの使用人が敷地内にいて、私のために働いている。

 私が怒鳴りつけたのは、そんな使用人の中の1人に対してだ。運転手として雇っているこの男は、あろうことか昨日急な休みを取り、おかげで私は代わりの運転手の運転で帰る事になってしまった。いつもとは違う、慣れていない運転手。その運転手が選んだ違うルートで帰る事になり、私の機嫌は損なわれた。


「す、すみません、お嬢様。娘が学校で怪我をしてしまい、そのため病院に──」

「そんなの理由にならない!貴方のせいで私は別のルートで帰る羽目になった。その責任を、どうとるつもり?」

「す、すみません……」


 中年の気弱そうな運転手が言い訳をした事に、私は内心更に腹をたてていた。素直に謝るなら、ルートが変わって私の機嫌が損なった事以外被害がなかった訳だし、今回は見逃してあげようと思っていたのに。

 しかしこの男はあろうことか、言い訳をしてきた。娘が学校で怪我をした?そんなの私とは一切関係のない話だよ。もっともらしい理由と、この私とを結びつけようとするその意思が気に入らない。

 まぁ例え言い訳をしてなくとも、結局は不機嫌となった私が至る所は同じだ。見逃してあげようなどという寛大な心を、この時の私は持っていないのだ。


「──クビ」

「え……?今、なんと?」

「クビ。もう来なくていい」

「そんな……!代わりの運転手が、しっかりとお嬢様を送り届けたはずですっ。何も問題はなかったのではないのですか!?」

「私の機嫌を損ねたのが何よりも問題なのよ!それと、何を大きな声を出しているの!?誰が口答えをしていいと言った!?お前はただ謝り続けてればそれでよかったのに、余計な事を言うならこうなるの!分かったら頭を垂れて私に謝罪をしなさい!謝った所でもうクビは取り消さないけど、バカで愚かなお前に出来る事はもうそれしかないの!」

「く、クビだけは……お願いです。どうか、ご勘弁を……!」


 慌てて床に頭を擦り付け、私に土下座をしてくる運転手。だから、もう遅いんだって。口答えをしてきたこの男を赦すつもりは、もうない。

 私は足元にあるその男の頭の上に、足を置いた。そして体重をかけ、ぐりぐりと踏みつけていたぶる。いくら子供とはいえ、靴を履いたうえで踏まれればそれなりに痛いはずだ。


「えー、どうしようかなぁ」

「っ……!」


 私に踏みつけられながらも、その体勢を維持する運転手。どうやらクビだけは、本当に嫌なようだ。情けなくて、思わず笑みが零れてしまう。でもこれではまるで、私が悪役のようだ。私は被害者だと言うのに、本当に嫌な役回りだな。


「分かった。考えておいてあげる」

「あ、ありがとうございます!」


 結局男は、最後まで頭を上げる事はなかった。考えるだけだと言っているのに、赦されたとでも思ったのかずっとお礼を言っていて気持ちが悪い。

 とまぁ、当時の私はこんな感じだった。今思うと、かなりヤバイ子供だったよね。

 ちなみにこの時はまだ、男性恐怖症を発症していない。だから、言いたい放題のやりたい放題だ。

 誰もが私を遠目に美しいと言い、誰もが恐れを抱き、誰もが敬った。当時の私は不完全ながらも完全であり、子供が持つべきではない大きすぎる権力を持った、クソガキだったのだ。

 その事を教えてくれる人は、誰もいなかった。


「──だから、お父様。運転手をクビにしたいの。いいよね?」


 その日の夜、私はお父様に電話で運転手をクビにするように電話で連絡をした。お父様の返事は、勿論オーケー。お父様は私達家族に対する不敬を、絶対に赦したりはしない人だから。私が少し話を盛って報告すれば、すぐに言う通りにしてくれる。

 さっきも言った通り、私はあの運転手を赦すつもりはなかったのだ。こんな電話一本で、あの男のクビが決まってしまった。ざまぁみろ。路頭に迷うが良いよ。


「それでね、今日学校で──あ、うん……。おやすみなさい」


 今日学校であった事を話そうとしたけど、お父様は冷たく言って半ば強制的に電話を切ってしまった。

 まだ日が高いうちに連絡をしようとしても連絡がとれず、日が暮れてから電話をしてもあまり時間を取ってもらえない。私とお父様は、家族と言うより血縁者。しばらく直接会っていないので、もう顔もあまり覚えていない。会ったとしても、あまり会話はしない。勿論甘えたりもさせてくれない。褒められた事もない。

 たまに、お父様にとって娘である私が、どういう存在なのかと気になる事がある。その答えを聞くのは、ちょっと怖すぎるな。

 まぁ、別に良いんだけどね。今の生活はとても快適で、私は絶対なる権力を持った特別な人間なのだから。これ以上、何も望む物はない場所に私はいる。


 次の日、運転手の男は姿を現わさなかった。本当にクビになったのだ。さすがはお父様。仕事が速い。

 私が気に入らない人間をクビにするのは、コレが初めてではない。これまでも何人もクビにし、その姿を消していった。有能な私の傍にいるのは、有能な人間だけでいい。無能で立場をわきまえていないクズは、いらないのだ。

 その翌日知った事だけど、あの男の娘と私は同じお嬢様学校の、同級生だったらしい。そしてあの日、娘が怪我をした原因を作ったのはこの私だ。怪我をさせたのは、故意ではない。廊下で話をしていて邪魔で、そこを後ろから押したらバランスを崩して勝手に掲示板に突っ込んだのだ。その際に、掲示板に刺さっていた画鋲が浅かったらしく、少し飛び出た画鋲にオデコをひっかけ、それで切れてしまった。そこまで大した怪我ではなかったかもしれないけど、女の子にとって顔の傷は命が傷つくようなものだ。私も女だから、それはよく分かっている。

 だから、その日から彼女が学校に来なくなってしまった事に、さすがの私も罪悪感を感じていた。でも、特に行動を起こした訳ではない。父親はクビにされたままだし、娘は学校に来ないまま時が流れていく。


「──そう。これからは、気を付けなさい。でも、次はないから」

「は、はい。すみませんでした……!」


 しばらく経ったある日の、屋敷の出来事だ。執事がお皿を私の目の前で割ってしまったシーンである。

 あの親子の件以来、私も少しはおとなしくなっていた。ちょっとしたミスなら、1回くらいは見逃したり、見逃さなかったりする程の懐の狭さを見せている。

 まだまだ、改心とまではいかない。心の中では自分が一番偉い人間だと思っているし、他人を無能と見下しているから。

 人間、そう簡単に変わる事はできない。特に私のように歪んでしまった人間は、人生を初めからやり直すとかしない限り、歪んだままなんだよ。

 その歪んだ性格が、ある日私を事件に巻き込んだ。その事件が、私を転生させるきっかけとなる。すなわち、その日私は死んだのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 文句のつけようのないクソガキっぷりですね...
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ