世界最強の一角
ラミーヤはその後すぐに医務室へと運ばれて行き、精密検査がされる事となった。呪術は私?が打ち消したけど、身体への影響は大きいらしい。事実、目が覚めてもラミーヤは起き上がる事ができず、ラピスに身体を預けっぱなしだった。
そちらにはラピスについて行ってもらい、一方の私とディシアとシグレは、先生に連れられて生徒指導室へとやって来た。
狭い部屋に、イスが複数置かれただけの寂しい部屋である。本来であれば、悪い事をした生徒が連れて来られてお説教を受ける部屋だけど、今回は違う。
「──それで、どうして君は氷属性ではなく、光の属性の魔法を使えるのかな?」
「……」
気だるそうに深くイスに腰かけ、先生がそう問うてくる。
私もイスに座り、別に怒られている訳ではないんだけど口ごもってしまう。
だって、ここで話したらエリシュさんとの約束を破る事になってしまうからね。それに、知られたらめんどくさそう。
ここに来るまでの間に上手く誤魔化せそうな言い訳を考えてたんだけど、何も思いつかない。
誰か助けて欲しい。私はすがるようにシグレに目を向けるけど、シグレは困ったようにキョロキョロとするだけで、何も言ってくれない。シグレもいい案は出ないようだ。
それではとディシアに目を向けると、ディシアも興味深そうにこちらを見ていた。こちらは先生側である。
「黙っていたら分からない。いいから話すんだ。それとも何か、やましい事でもあるのかな?」
「や、やましい事なんてナイデス……」
「では話せ」
「……そんな事を聞いて、先生はどうするつもりなんですか?」
「複数の属性の魔法が使える者は、この世に一人しかいないはずだ。だが君は使う事ができる。おかしいんだよ。いてはいけないのに、いるのだから。興味を持つなという方が難しい。もう一度聞くが、君は何故複数の属性の魔法が使えるんだ?」
イスにだらけて座ってはいるけど、その目は極めて真剣だ。
私以外にも、複数の属性の魔法が使える人がいるという部分は気になるけど、その事に関して聞けるような雰囲気ではない。
「……わ、分かりません。最初は魔法に関する知識も薄くて、使えるのが当たり前だと思っていましたから。どうして、と聞かれると、分からないとしか言いようがないんです」
誤魔化したら、もっとややこしい事になる。そう判断した私は、認めた。そして正直に話した。
「分かった。ではカラデシュ・アーテリーという名に聞き覚えは?」
「からでしゅ……?どこかで聞いた事があるような気はしますけど……あー、確か昔本で読んだ作者の名前だ」
それは昔、メグルが持って来た本に書いてあった作者らしき人物の名だ。苗字の方はボロボロになっていたので読めなかったけど、名前の方はかろうじて読めたんだ。その人物の名前が、カラデシュなんとかだった。
「本、だと?彼女が書いた本が、この世界のどこに残っていると言うのだ?……いや、待て。君の出身地は、どこだ?」
「私が住んでいた村に、名前はありません。でもこの国の、長閑で田舎の村の出身です」
「……ああ。そういう事か。煙の魔女が突然養女をうちの学校に入学させるとか、そもそも彼女が養女を作るとか、色々とおかしいと思っていたんだよ。今年の新入生は、厄介者ばかりだな」
先生はそう呟き、頭を抱えた。気分がいつもにも増して悪そう。その原因は、私の答えだろう。何がいけないのかは分からないけど、私の村の事で先生の気苦労が増してしまう原因があるのだろう。
だってあの村、今思うと色々変だったからね。
「だが、何故シェスティアは光の属性の魔法が使えるのだ?それは魔法学の基本として、おかしいぞ。ちなみに光以外の魔法も使うことが出来るのか?」
「あー……うん。使えるよ。でも秘密にしてね?今の保護者の……エリシュさんには、誰にも話さないように言われてるんだから」
こうなれば、もう隠すのも面倒だ。私はディシアの質問に対しても、正直に話した。
その代わり、秘密にしてくれるならもういい。
「そうすべきだろうね。こんな事はあってはならない事だ。事態を大きくしないためには、内密にすべきだ。……公衆の面前でなくて、良かったよ」
確かに、あの現場を見た者は限られる。生徒たちは暴れるラミーヤとディシアを前に、避難した所だったからね。本当に、助かった。
「それから、魂に根付いた呪術を消し去ったあの技術も気になる。あのような神業を成せる者も、この世に数名しかいない。この私にも出来ない事だ。この意味が君には分かるか?」
「……?」
先生に問われ、私は首を傾げた。意味と言われても、ピンと来ない。
「まさか、教諭にも出来ない事をシェスティアはやってのけたのか?」
代わりに反応を示したのは、ディシアだ。
信じられない物を見るような目で、私の事を見て来る。
「おいおい。ディシアに勝ったら、シェスティア君に私の正体を教えると言う約束はどうなったんだ?」
「そういえば、忘れていたぞ。シェスティア。教諭は八大賢と呼ばれる存在の一人なのだ。こう見えても世界最強の魔術師の一角であり、風賢を務めている」
「は、八大賢って……!」
存在するかどうかも分からない。ただ、たった1人で世界を滅ぼす事が出来てしまうような存在だと、聞いた事がある。
本で読んだり、授業でも習った事がある。その魔力強さ故に、国の運営にかかわる事も、戦争に加わる事も、子孫を残す事も禁止された存在。それが八大賢。
そんな八大賢の先生が出来ない事を、私はやってしまった。かなりインパクトがある。
「今回君は、私の目の前で私にも出来ない事をやってのけてしまった。呪術の件と、複数の属性魔法を操るという行為。初めて出会った時に私に披露した、あの魔力量もそうだ。君という存在は、八大賢に近すぎる。それは全人類にとって、大きな脅威だ」
「っ……」
八大賢だという先生に、そこまで言われると委縮してしまう。
先生の言いたい事は分かるよ。八大賢は世界に脅威を与えないよう、ルールで縛られている。でも私は縛られていない。それなのに、先生曰く八大賢クラスの力を持っている。自覚はないけど、八大賢の先生に直接言われると、その言葉は重い。
「お、お姉さまは脅威なんかではありません!とても優しく、聡明なお方ですので、だから大丈夫です!」
「……それがせめてもの救いだね」
シグレの言葉を、先生は認めるようにそう言った。
そんな、優しくて聡明だなんて言われて褒められると、ちょっと照れてしまうじゃないか。
「引き続き君は、この事を隠して生きていくんだ。他の者もバラしてはいけないよー。それでこの件はよしとするが、これからも君は私の監視下にいてもらうからね」
「は、はい」
それはつまり、これまでとあまり変わらないという事を意味する。なら断らない理由はない。
途中少し雲行きが怪しくなって、もしかしたら牢獄にでも入れられるんじゃないかとか考えていたけど、杞憂だった。
「さて。問題はラミーヤ君の方だねー……」
「アイツが自分の意思で余を襲いに来たのなら、問題はない」
「ない訳じゃあないけど、単純な事で済む。八大賢に喧嘩を売った罪は、相応に重いからねー。組織に所属してるなら、その組織ごと潰す事になる。個人の意思なら、退学なり、始末するなりしてそれでおしまい。でも彼女を操っていた呪術……」
「何者かがこの余の命を狙い、刺客を送り込んだ事になる。それが何者なのかを調べる必要がある訳だが、意思を支配するようなレベルの呪術を操る者となると、国家レベルの関与が疑われる事になる」
「その通りだねー。面倒だー。非常にめんどくさいー」
先生とディシアが話している事に、私はついていけない。先生はともかくとして、ディシアはさすがお姫様なだけあって、こういう事も話せるんだね。感心だ。
「今回の件、こちらでも調べてさせてもらう。まぁしかし、このレベルの呪術の使い手は限られる。認めるかどうかは別として、すぐに見当はつく事になるだろう」
「うん。でも手は出さなくていい。私の方でなんとかすべき事だからねー」
「分かっている。しかし、まさか教諭に喧嘩を売る者がいるとはな。余がわざわざ国から遠く離れたこの学校にやってきたのは、教諭の保護下に入る事が目的であったというのに……その目論見は外れたという訳だ」
「大外れだ。ここまでコケにされたのは、久々だよ……。全く、人間は本当に愚かだ。定期的に力を見せつけなければ、すぐに忘れてしまう。救いようがないよ」
どうやら先生は、相当お怒りのようだ。イスに座るその姿はだらしがないけど、魔力が溢れ出ている。八大賢である先生を怒らせた人物は、今すぐにでも逃げるべきだ。
でも私は関係ないし、話にも飽きて来たのでシグレと手を繋いで暇を持て余す。もう帰っても良いかな。
「じきに分からせる機会は来る。という訳で余達は行かせてもらうぞ。シェスティアが話に飽きているようだからな」
「ふぁ」
私はあくびまで漏らしだしていたのを、ディシアに見られてしまった。そんな私に気を遣ってそう言ってくれたのは嬉しいけど、これじゃあ私まるで子供じゃない?と思ってしまった。
「ああ、うん。もういいよ。話は終わりだ」
「という訳だ。行くぞ、シェスティア」
子供っぽく思われるのは嫌だけど、私はディシアに手を引かれるままにイスから立ち上がり、生徒指導室を後にした。
後の事は、私が関わるべき事ではない。偉い人や、大人に任せるべきだからね。子供は関わらず、余計な口出しをしないのが一番だ。
あ。結局子供だった。




