決闘 その2
私に向かって突進を始めたディシアが、自身に魔法をかけながら近づいて来る。
「力の上昇。素早さの上昇」
発動した魔法は、ディシアの力とスピードを上げた。2つの効果は合わさり、ディシアが足に力を籠めて踏ん張った地面が沈み込み、足跡を残す。
自己強化系の魔法は、8つの属性の魔法のどれにも属さない。物を浮かせたりする魔法と同じで、魔法を使える人なら誰でも使う事ができる。
ちなみにご丁寧にもディシアが魔法の名前を唱えたけど、コレはメラヴィス語ではない。無属性の魔法にはメラヴィス語が存在しないのだ。ただ、唱えなければ魔法を発動できない人も多い。特にメラヴィス語を必要としない複雑な魔法は、頭の中のイメージをまとめる事が大切となる。言葉を唱える事によって、そのイメージを固めて発動しやすくするのだ。
ちなみに私もエリシュさんから習って使えるようにはなったんだけど、あまり適正がなかったようで、使い物にならなかったんだよ。使っても、せいぜい並みの大人くらいの力が発揮できるくらいだから。使いどころがあまりない。
「……」
まずは近接戦を仕掛けようとしてきたディシアに対し、私は展開している魔力の範囲を広げ、そこにディシアが侵入するのを待つ。
力と素早さを上昇させた彼女のスピードは異常だ。地面をへこませながら、一瞬にして私との間合いを詰めて来た。そして魔力の中に侵入した。
侵入した瞬間に、ディシアにかかっていた強化魔法が解除される。そのスピードはがた落ちになり、彼女は思わずその場で足を止めた。
私の魔力にディシアが触れた所で、私のマジックキャンセラーにより彼女の魔法を強制的に打ち消したのだ。
「なっ……!?」
驚きを隠せない彼女に向かい、私は手を構えた。
「氷の矢」
私の周囲に、いくつもの細い氷の矢が出現した。私の魔力を糧として生まれたその矢は、出現すると一斉にディシアに向かって飛んでいく。
まるで、軍隊による弓の一斉射撃のようだ。それほどの数の矢をたった1人で飛ばす事ができるんだから、魔法って本当に恐ろしい。
「突き進む火炎」
迫り来る氷の矢に対して、ディシアは炎の剣を私に向かって突き構えた。
そして彼女が唱えた魔法が発動した瞬間、炎の剣が巨大化し、その炎がこちらに向かって突き進んでくる。
炎に呑まれた氷の矢は、一瞬にして消滅。地面も削り、こんなのまともに人間がくらったら、消し炭確定だ。
「あ、行く手を阻む氷の壁!」
慌てて氷の壁を生み出す魔法を発動。突き進んでくる炎は、その壁にぶつかってなんとか止まったものの、炎の威力が高すぎる。ぶつかった瞬間から氷の壁にヒビが入り、しかも炎の熱によって氷が溶けだしている。
もしかして、もしかしなくても、炎と氷の相性って、氷が不利なんじゃないだろうか。
それに気づいた時ばかりは、エリシュさんを恨んだね。だって、私はエリシュさんとの約束で氷の魔法以外は使わないようにしてるから。二種類以上の属性の魔法を使える人間は、聞く話によるとこの世界で私だけだからね。下手に注目を集めないためにも、必要な事だと分かってる。
だけど氷じゃなくてもよかったじゃん。火にもっと相性の良さそうな、水とかにしておいてよ。
でも、文句を言っている場合ではない。今はこの炎をなんとかしなければいけない。
とは言え、打ち消すのも難しい。既に発動している魔法を打ち消すのは、出来ない事はないけどけっこう強い魔力と体力がいるんだよ。メラヴィス語を必要としない無属性の魔法なら割と簡単に消せるんだけど、メラヴィス語で唱えられた属性魔法は、術者と自然から魔力が供給されているせいか、それを上回って圧倒する魔力が必要なのだ。でもそもそもメラヴィス語を唱えないマジックキャンセラーで、メラヴィス語を用いた魔法を打ち消すのは難しい。
アイスエジェクトみたいな設置型の魔法なら、割と簡単に打ち消せるんだけどね。
そうこう考えている間に氷の壁が限界を迎え、砕けた。障害物がなくなった炎が、一気にこちらに迫ってくる。
迫り来る巨大な炎を前にして、私は冷静だ。まだこの炎に飲み込まれない手がある。
私は炎に向かってそっと両手を構え、魔力を集中。魔法を発動させる。
「貫く氷の矢」
私の両手の前に、アイスアローよりも大きな氷の矢が出現した。それが迫り来る炎に向かって飛んいき、炎とぶつかろうとする。でも氷の矢は、アイスアローより大きとはいえ、ディシアの魔法よりはだいぶ小さい。コレではぶつかった瞬間に飲み込まれ、消え去るのが目に見えている。
「侵食する氷<アイスヴァイオレーション>」
氷の矢が炎とぶつかる寸前に、私は重ねて魔法を発動させた。
その瞬間に私に迫って来ていた炎の先端が凍り付き、その氷は炎の出所に向かって侵食。更にそこに氷の矢がぶちあたると、凍り付いた炎を氷ごと打ち砕き、その中を進んで行く。
「おおおおぉぉ!?」
観客の声が湧き、決闘場が歓声で包まれる。
咄嗟に思いついた魔法のコンビネーションだけど、どうやら上手くいったようだ。私も歓声に混じって声を上げたい気分である。
「……」
ディシアはこれ以上の抵抗が無意味と悟ったのか、放っていた炎を解除した。それにより巨大な炎が姿を消し、氷の矢が一気にディシアへと迫る。
形勢は、一気に逆転した。先程の私の立場にたったディシアが、どういう対応を取るのか見ものである。
ちなみに彼女は今、私の魔力の範囲内にいる。強化系の魔法は使わせないし、何か魔法を発動しようものなら、発動させる前にその魔力の塊を解除してやる。
「すぅ……」
いやでも、危なそうなら魔法は解除させてもらう。だからそんな、息を吐きながら構えなくていい。無理をして怪我をさせたくはないんだよ。ましてや、殺したりしてしまったら取り返しがつかない。
でも、そんな私の心配は杞憂だった。
ディシアは炎の剣を一旦消し去っていたけど、剣を構えるような仕草をしてから、居合切りをするようにして振りぬいた。その瞬間に炎の剣が再び出現し、ディシアにぶつかる寸前で私が放った氷の矢を斬りつけた。
すると、氷の矢は一瞬にして跡形もなく消え去り、同時に熱風が巻き起こる。その熱風は一瞬だけ決闘場中を駆け巡り、元の気温に戻った。
「……」
私の魔法によって湧いていた観客だけど、今のディシアの一撃を見て静まり返る。
ディシアの何気ない一振りの動きが、キレイで目を奪われてしまったのだ。私もそうなんだけど、私はそれよりも考えなければいけない事がある。今ディシアは、魔法を使っていない。魔道具で生み出した剣は使ったけど、それにしたってあの氷の矢を剣の一振りで消し去るとか、そんなの反則だよ。
「ふはは!中々やるではないか、メスガキ。正直言って、最初のぶつかり合いで勝負がつくと思っていたのだが、コレは予想外だ」
「予想外だとか言いつつ、随分と楽しそうだね」
「楽しい?余が?……ああ、そうかもしれんな。同年代の女子が余と対等に戦ってくれているのだ。楽しくない訳がない」
私もその気持ちは分かる。今のぶつかり合いと駆け引きは、楽しかった。
ただ、私はついて行くのに必死だ。いつ負けてもおかしくなくて、ディシアのように笑う余裕はない。
「それに貴様のマジックキャンセラーの腕前、見事だ。やはり余は貴様が奴隷としてほしい。今からでもおとなしく余に許しを請い、奴隷になると誓うつもりはないか?」
「残念ながら、全くないかな。そっちこそ、無駄に意地を張ったりしないで、その強情で傲慢な態度を少しだけでも改めるつもりはない?」
「ない!」
私も即答だったけど、ディシアも即答だった。
そのディシアの後方の観客席に、私はラミーヤの姿を見つけた。私を無視しつつも、見に来てくれたんだ……。
頑張らなければいけないよね。気合の入った私と、ディシアの戦いは、まだ続く。




