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めんどくさい


 前世で殺された時と同じようなシチュエーションになったけど、今回私は生き残る事ができた。そしてあの時とは色々と状況が違くて、私の味方をしてくれる人がいたんだ。

 オマケに繰り広げられようとした戦いは先生によって止められて、けが人も出なかった。めでたしじゃないか。そう思いたい。


「離さんか、教諭!余の邪魔をするなら、いくら貴様とて許さんぞ!」

「それは私に対する脅しとみていいのかな?」

「っ……!」


 初めは、剣を握って離さない先生に対して怒っていた偽メグルだけど、そう言われて急におとなしくなった。何かにビビったかのように、魔力の解放をやめて炎の剣を消し去る。

 それから私を睨みつけて来た。


「やめないか」

「くっ……!」


 あのクソ生意気な偽メグルが、先生に頭を軽くたたかれても何も言い返さない。

 もしかしてこの先生って、凄く凄い人なの?それこそ、帝国なんて目じゃないくらいに。


「帝国のお姫様が、ビビった?」

「もしかしてあの噂って、本当なのかな?」

「ああ、あるかも。だけどもしかしたらあの子の言う、帝国のお姫様っていうのが嘘っていう可能性もあるよ」


 その様子にギャラリーがどよめきはじめた。それくらい、凄い光景だという事だ。


「今余を偽物扱いした奴、殺すから名乗りでよ!この際だから言っておくが、ルラ・ギュスターという名は偽名だ!余の名はディシア・ゴーン・ウォルフメルツ!正真正銘、ギュストラム帝国国王の娘である事を宣言する!」

「だからバラすなって。いやもう遅いからいいんだけど。全校生徒宛てにこんな手紙まで出して、本当に正気の沙汰じゃないよ、君は」


 先生が手にしているのは、一通の手紙だ。内容は分からないけど先生の言い草から考えて、それが例の、私と帝国のお姫様が対立しているという内容の手紙だろう。


「ふふ」


 先生に正気の沙汰じゃないと言われ、何故か照れる帝国のお姫様。

 そこは怒るべき所だよと言いたいけど、黙っておこう。


「せ、先生!本当にその子……いや、そのお方は、帝国のお姫様なんですか?」


 男子生徒が、意を決して先生に向かってそんな疑問を投げかけた。


「あー……そうだよ。この子は正真正銘、帝国のお姫様だ」


 そして先生は気だるそうに呆気なくそう答え、偽メグルの正体が本当にお姫様である事が宣言された。

 先生がそう証言した事で、生徒たちが知りたがっていた彼女の正体は、確信へと変わる。コレで益々私が孤立する道へと進むことになる訳だ。


「で、どうするんだこの状況」

「余は事実を言ったまで。それに全ては余をコケにしたあの女が悪い。だから余はあの女を赦さない。奴隷として飼ってやると言うに、断ったから殺す。至極単純で分かりやすいだろう」

「まったく……」


 やる気なく、頭を抱えるエフテニーリャ先生。

 その視線は何故かこちらにも向けられた。それじゃあまるで、私が悪いみたいじゃないか。

 いや、我慢できなかった私にも責任はあると思うよ。だけど向こうは絶対に、自分が悪いだなんて思っていない。だからここで自分の非を認めたら負けだ。


「私はただ、人違いで彼女に話しかけただけです。それをその子が勝手に一人で怒って、つっかかってきたんですよ。しかも聞けば、変な手紙までバラまかれて孤立させられて……キレていいですか?」

「ダメだよ。というかもう若干キレてたじゃないか。これ以上この場を荒らす事は、双方許さない」


 先生が許可しなくとも、私と偽メグルは睨み合って互いに譲歩する事はない。この場ではなくても、いつかぶつかり合って再び衝突するだろう。

 その時、また陰湿な手を使って来なければいいんだけどなと、それだけが心配だ。


「あーもう、分かった。それじゃあ君たち、戦いたまえ」


 突然先生が掌を返し、私達に戦うように促して来た。それに素早く反応したのは、偽メグルだ。ニヤリと笑い、魔力を解放。再び炎の剣を手にする。

 こちらも、先生がそう言うなら仕方がない。魔力を解放して戦う準備を整える。


「こらこら、ここでじゃない。君たちは狂人か?」


 そして衝突する前に、また止められた。


「戦えと言ったのは貴様であろう!」

「この場を荒らすなと言ったばかりだろう……。明日、しかるべき場で正式に模擬戦を行ってもらう。それで勝った方が正義だ」

「……決闘して白黒つけろと。そういう事ですか?」

「そうだよ。君たちくらいの年齢は、殴り合って勝敗を決めるくらいで丁度良い。だからもうめんどくさいから、そうしろ」


 今この人、ハッキリとめんどくさいって言ったよ。ハッキリそう言われると、こちらも申し訳ない気持ちになる。だけど教師自ら殴り合いの喧嘩を容認するのは、どうなんだろう。


「ふはは!いいだろう!余が勝利した暁には、貴様を奴隷として貰い受ける!」

「何言ってるの?嫌に決まってるじゃん」

「何!?貴様逃げるつもりか!?」

「そんな事に、自分の身を賭けるなんてバカらしい。私は戦わないから。でも、賭け抜きでなら戦ってあげる。そしてボコボコにしてあげる」

「ぬぐぐ……!この臆病者め!負けるのがそんなに怖いか!」

「怖いよ。貴女は怖くないの?」

「余に怖い物などない。余は帝国の姫。次代の帝国を引き継ぎ、最強の国家を築き上げる者である。何物にも臆さず、突き進むのみである!」


 そんな考えの人間がトップになる国なんて、ろくな国にならない。現状で奴隷で溢れかえるろくな国じゃないのに、その国はもっと腐る事になるだろう。いくらまだ子供とはいえ、彼女の考え方はトップにたつ人間として相応しくない。

 それを誰かがここで教えてあげなければ、彼女の身を亡ぼす事に直結する。そんな考えの人間に、下の人間は絶対についてこない。むしろ反発されて、その時が彼女の終わりとなる。だからそうなる前に、自らの考えを直すべきだ。人間死んでから後悔しても、何もできないんだよ。一部の奇跡がおきた時を除いてね。


「賭けは無し。それでよければ戦ってあげる。腕に自信があるんでしょう?それじゃあ私を、その力で圧倒して屈服させて見せてよ。陰湿な事はしないで、正々堂々とね」

「……良いだろう。賭けは無しだ。余の圧倒的な実力で、貴様を屈服させてみせよう。死んでも文句は言うなよ?」


 といういきさつがあり、私と彼女は戦う事になった。

 シグレは心配そうにし、ラピスは怯えている。そしてギャラリーはそんな私達の決闘が決まった事に沸き上がり、そんな状況の中で私と偽メグルは睨み合う。まるでボクサーの試合前みたいな光景だよ。


「ところで、先生の噂ってなんですか?」

「……」


 先ほど野次馬達から聞こえて来た話の内容を、私は先生に問いただした。それに対し、先生は無言である。

 代わりに、知っているかもしれない偽メグルの方へ視線を向けると、彼女はニヤリと笑い返して来た。


「勝ったら教えてやる」

「よしっ、やる気出て来た」

「勝手に人を巻き込んで、賭け事に持ち出さないでくれないかなー。賭けは無しにするんじゃなかったの?」

「コレは賭けではない。ただの虚礼だ。それに余が負ける訳がない。そうだろう?」

「……まーいいけど。でもね、ディシア。足をすくわれないように、注意して戦った方がいいと思うな。コレはこの学校の校長先生としての、アドバイスだよ」

「ふはは!余は幼き頃から戦いの訓練を積み、その実力は帝国随一と言われている。負ける要素がない!」


 先生が余計なアドバイスを言い、だけど偽メグルはそれを笑い飛ばして油断を見せてくれている。彼女は腕に相当な自信があるようだからね。本当に強いんだろうと思う。それなら油断して全力を出してくれない方がいい。

 ちなみに私は、正直勝てるかどうか分からない。実戦経験の少ない自分の実力は未知数であり、本当に分からないんだ。だから賭けは抜きにして、それをゴリ押した。彼女が乗ってくれて助かったよ。おかげでもし負けたとしても何もないんだから、気楽に戦える。

 ただ、勝てたら先生の噂とやらの正体を聞く事ができるのは楽しみだ。頑張ろう。


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