雨宿り
ケーキの材料を買い、店長のおかげで浮いたお金で小腹を満たすと、私とメグルは帰路についた。時間は、まだお昼前。ここまでは予定通りだ。むしろ、順調すぎると思う。こういう時って一見順調に見えて、トラブルに巻き込まれたりするんだよね。
そんな私の予感は、的中する事になった。
市場を出て歩き出し、少し経ったところで急に空が暗くなると、雨が降り出したのだ。あんなに晴れていたのに、ちょっと信じられない。私とメグルは雨が降るなんて全く思ってもいなかったので、雨具も持ってきていない。
仕方がないので、私とメグルは木の下で雨宿りをする事になった。
「あんなに晴れてたのに、普通降るかよ。プレゼントは無事か?」
「大丈夫。ケーキの材料の方は?」
「こっちも平気だ」
私はママへのプレゼントを。メグルはケーキの材料を、身を挺して雨から守っていたので、無事だ。
雨が降り出したとき、森が近くて助かったよ。何もない田んぼのど真ん中で降り出されたら、どうにもならないからね。不幸中の幸いっていうやつだ。
「こりゃあ、しばらくは雨宿りだな」
「うん……」
本当は、早く帰りたい。誕生日の支度もあるので、今頃仕事で出かけているはずのママが家に帰ってくる前に、準備を終える必要がある。でも、今この場を動くと荷物が無事では済まない。どうしようもなくなってしまった。
「ま、その内やむだろ。今は焦っても仕方ねぇよ」
メグルは、空を見上げて早く雨が止むように祈る私とは正反対で、慌てた様子を見せない。木の幹を背にして地面に座り込むと、濡れた髪を手でかき上げてオールバックにした。
すぐに元の形に戻ろうとする力が作用し、形が崩れたけど……こういうの、なんていうんだろう。カッコイイ……は、合ってるけど、少し違う。色気があふれ出て、そう、コレは……セクシーだ。メグル、すっごくセクシー。
見た目は男でありながらも、メグルの長い睫毛とよく見ると可愛らしい顔つきは、女の子っぽさも感じさせる。男の色気と、女の色気。両方を感じる事ができて、ちょっと得した気分だ。
メグルは将来、どんな子になるんだろう。やっぱり男っぽくなるのかな。それとも、どんどん女の子っぽくなっていくのだろうか。楽しみだな。
「何してんだ?座れよ」
「うん」
メグルが自分の隣の地面を、手でポンと叩いて、そこに座るように促してきた。私は返事をしてそこに腰を下ろすと、メグルに肩を預けて空を見上げる。
葉っぱで遮られながらも、その隙間から見える空はやはり暗い。雨脚は弱まるばかりか、強くなってきた気がする。
「うぅ、寒……」
メグルは寒そうに身体を震わせ、呟いた。
私も、雨によって体温が下がってきた。肌寒さを感じ、自分の身体を抱くけどあまり効果はない。
「ちょっと待ってろ」
メグルはそう言うと、掌を上に向けて私の前に差し出した。
メグルのその手に、魔力が集まっていくのを感じる。静かだった木々が少しだけざわめき、何かがおころうとしている事を私に告げた。
私はその手をじっと見つめていると、そこに小さな光の粒子が集中していくのが分かる。それがある程度まで集まったところで、炎へと姿をかえた。
何もない所から、炎の出現。それを実現させたのは、魔法と呼ばれる技術だ。ファンタジーな小説とか映画とか、アニメとかでよくあるアレだ。この世界では、メグルのような子供が使用できるくらい魔法が当たり前のように存在し、私たちの生活と深く結びついている。
「はぁー、あったかぁい」
「へへ」
メグルが作り出したその炎に、両手をかざして暖をとる私を見て、メグルが笑った。
更にメグルは、その作り出した炎を地面に投げ捨てると、その炎が大きく激しくなり私たちを温めてくれる。燃やすための燃料もいらず、火力は魔法を使っている本人次第。魔法って本当に便利。
でも、いさざか炎が強すぎる気がするよ。炎は私たちの背よりも高く燃え上がり、大きな火柱を作っている。
「あ、アツッ。あつ、熱い!熱いよメグル!」
「あ、わるい」
熱が強すぎて、身体に痛みを感じる程だ。これじゃあ、落ち着いて温まっていられない。私は慌ててメグルに訴えると、メグルが火を弱めてくれた。
あっという間に焚火サイズになった炎は、私たちを程よく温めてくれて心地よくなる。これくらいなら、落ち着いて温まれるよ。
「これなら、大丈夫だろ?」
「うん、ありがとう」
「へへ」
メグルは改めて嬉しそうに笑い、私と同じように火にあたる。
雨は止みそうにないけど、とりあえず風邪はひかずに済みそうだ。
それからしばらくは、沈黙が続いた。会話はなく、耳につくのは雨が降る音だけ。居心地が悪いわけではなく、好きな沈黙だ。
それにしても、こうして2人で肩を寄せ合い、雨宿りをしているとまるでドラマのワンシーンのようだ。隣にいるのはカッコイイ美少年風の女の子だけど、私の美しさもあって凄く絵になっているはずだ。ちょっと第三者的な視線で見てみたい。
「──……天気を晴れにする魔法とか、あればいいんだけどな」
ふと、メグルがそう呟いた。雨は未だに降り続き、止む気配すらない。
確かに、天気を晴れに出来たら今すぐ家に帰れるし、濡れる事もない。洗濯物も乾くし、良いことばかりだ。でも、そんな魔法は聞いたことがない。たぶん存在しないんだと思う。
だけど、私はある事を思い出した。
「シティ?」
私が空を見上げながら立ち上がると、メグルが何事かと私の名を呼んでくる。
「もしかしたら、晴れにできるかも」
「は?晴れって……天気を?」
「そうだよ!ちょっとコレ、持ってて」
「お、おい!」
メグルが制止してくるのに構わず、私はママへのプレゼントをメグルに預けると、木から離れて雨ざらしになった。せっかく温まって来ていた体が、再び冷えていくけど私は気にせず笑顔をメグルに向ける。
私の顔を見たメグルは、私を追いかけようとしてたけど止まった。そもそも、彼女にはママへのプレゼントを渡したので木の下から出る事はできないけどね。
「……何する気だ?」
「いいから、見てて」
私はメグルに答えると、天を見上げた。そして空に向けて両手を開き、魔力を解放する。
その瞬間、私の身体から光が溢れ出した。私のように白く美しい光の粒子は、空へと向かって浮かび上がり、消えていく。
もっとも、この光景が見えているのは私だけだ。メグルも魔力の気配は感じているだろうけど、通常魔力を目で見る事はできない。でも私には見える。理由は分からないけど、昔からそうなんだよね。
「すげぇ……」
私を見ているメグルが、呟いた。
それって、私に向かって言ってる?魔力は見えていないはずだよね。じゃあ何が凄いのかはよく分からないけど、私は作業を続ける。
どんよりとした真っ暗な空へと吸い込まれて行った私から解放された魔力は、やがて空全体を包み込んだ。すると、徐々に雲が白く変わっていき、その雲も段々と姿を消して太陽の光が差し込むようになる。やがて雨は止み、青空が一面に広がる快晴となった。
私がコレが出来る事に気づいたのは、初めて魔法を使おうとした時だ。あの日は魔法の本を見て、興味本位でそれを真似て魔法をを放とうとしたら、魔力が空へと吸い込まれていって晴れるに至ったんだっけ。あの時は本意ではなかったし、目的の魔法が発動しなかったので失敗したくらいに思っていた。
オマケに私の魔力に気づいた両親から、何故か人前でむやみに魔法を使わないように言われちゃったんだよね。まぁその日からは両親に教わったり、密かに独学で練習したりはしているので、今はけっこう上達してるんだよ。
「ふぅ。晴れた!」
「……」
「……何?」
メグルは、せっかく晴れたと言うのに私を見て呆然としていた。口を半開きにし、こう言ったらなんだけど、アホみたいな顔だ。
「……お前の魔力、一体どうなってんだ?あんな量の魔力、大人でも出せねぇよ。いや、そもそもオレの魔力を遥かに超えてる時点で、おかしい。お前は一体、なにもんだ?」
「なにもんだと言われても……あー」
だからパパとママは私に、人前で魔法を使う事を禁止したのか。確かに、大人も子供もしょぼい魔力だなぁと思ったりはしていた。ただそれは、手加減しているものだと思っていたけど、メグルの話をきく限りはそうでもないっぽい。
ちょっと強めに魔力を放った私は、メグルの目から目て異常らしい。というか、メグルの魔力を超えてたらダメなの?
「いや、昔からおかしいとは思ってたけどな。今は確証を持って言える。お前、変だわ」
「いや、そんな変ではないと思うよ……?むしろ、凄く可愛い事を除けば普通?」
「普通じゃねぇ。普通の人間は天候を操作なんてできねぇし、あんな膨大な量の魔力を放つ事もできない。いいか?お前が今やった事は、異常なんだよ。これからはその自覚を持って行動しろ」
「は、はい……」
メグルにまで、暗にへたに魔法を使うなと、そう言われてしまった。
でも既に両親に言われている事なので、私はそれを心得ている。それでも使ったのは、メグルの前だからだ。メグルならもう身内みたいなものだし、関係ないと思う。それだけは、主張させてもらおう。
「分かればいい──……」
メグルが言い終わったら言わせてもらおうと思ったけど、そのメグルが私を見たまま固まった。
いや、見ているのは私ではない。どうやら私の後ろを見ているようだ。その視線に誘われるように振り返ると、そこに1人の男の人が立っていた。




