頼れる相棒
我が家に入って来たのは、私の父だ。父はやせ型の男で、面長の顔面と相まって更に痩せて見える。しかし、顔は悪くない。好みはあるだろうけど、私はカッコイイ方だと思う。髪の毛はロングヘアーで、後ろで朱色の玉が数珠つなぎになった工芸品のようなものでまとめて留めている。正直、この髪の長さはちょっと鬱陶しいと思う。コレが女の子なら全然良いんだけど、男がコレじゃあねという感じだ。
私はそんな彼の事を、パパと呼んでいる。実際私の父である。
「こりゃあ、どういう状況だ……?」
家の中の状況を目の当たりにしたパパは、頭の後ろをかいて困惑している。
私やメグルに目を配って説明を求めてくるけど、その説明が難しい。だから黙り込むしかない。
「グラちゃん!シティちゃんとメグルちゃんが、私を仲間はずれにするの!」
ママはいてもたってもいられないと様子で、パパの胸の中に飛び込んだ。パパは戸惑いつつも、そんなママを受け入れて優しく頭を撫でてあげる。
ママの目が隠れたこの瞬間が、チャンスだ。私とメグルはパパに向かってジェスチャーでメッセージを送り、どうにかするようにと訴えかける事にした。
私は手を頭の上で繋いで△を示し、それからママを指さして手をぐるぐると回した。
メグルは胸の前で拳を作り、パパに向かって拳を突き出すポーズをしている。
「……」
でも、全く伝わらなかった。パパは私たちに向かって良い笑顔を見せながら、親指を立てて見せてきたんだ。
正直に言えば、私たちのジェスチャーは意味不明だ。でも理不尽だけど、イラついて殴り飛ばしたくなったよ。親ならこれくらいの事、察してよねって話だ。本当に理不尽である。
「落ち着けよ、サラ。二人がお前を仲間外れにする訳ないだろ?一体なんて言われたんだ?」
「ぐす……どこに買い物に行くの?って聞いたら、私と関係ないって。私の誕生日とも関係ないって言うの。……私の誕生日?」
そこで思い出したかのように、ママがパパの胸の中で首を傾げた。
これはマズイ。私は拳を胸の前でぶんぶんと振り回し、パパに訴えかけるとさすがにコレは伝わった。パパもサプライズ誕生日パーティの事は知ってるからね。
「あ、あー!買い物な!買い物は、オレが二人にお使いを頼んだんだ!だからサラを仲間外れにした訳じゃなくてだな、何も気にする事はないんだぞ!」
「そうだぜ、サラさん!グラさんの言う通り、オレ達がサラさんを仲間外れにする訳ねぇだろ!な、シティ!」
「その通り!ママは何も気にする事はないから、何も気にしないで!」
こうなれば、勢いだ。ママに考える隙を与えないように、私たちは矢継ぎ早に叫ぶように言った。
けっこう、わざとらしい行為だ。でもママは鈍いのでコレでなんとかなるはず。
「そ、そう?じゃあ……良かったかな」
ほらね。ママはパパの胸から離れると、涙をひっこめて笑顔に戻ってくれた。その笑顔を見て、私たちは安心したよ。
ママにはやっぱり、笑顔が1番似合う。いつまでもこの笑顔を見て、この笑顔の傍にいたいと思わせてくれる。今日の誕生日会は、喜んでずっとこの笑顔を見せ続けてくれるはずだ。そんな日にママを泣かせてなんていられない。
「でも、誕生日って──」
「そろそろ買い物に行かないとマズイんじゃないか、シティ!」
「そ、そうだね!メグル、とろとろしてないで、早く行かないと!」
「いや、オレはとろとろしてねぇよ?」
ママは、私が口に出した誕生日という単語がひっかかっているようだ。ここでそれを追求されたら、誤魔化しようがなくなってしまう。だからパパがその言葉を遮って、私も続いた。
パパの言う通り、ここは早く買い物に行って切り抜ける必要がある。私は急いで残りのご飯を口に突っ込んで勢いよく咀嚼し、そして牛乳と一緒に飲み込んだ。
「ごちそうさまでした!行くよ、メグル!」
「おう」
「待て、シティ。金、まだ渡してないだろう?」
メグルと一緒に家を飛び出そうとした私を、パパがそう言って呼び止めた。
そうだった。お金も持たずに家を飛び出したら、何も買えずに帰ってくる事になる。
足を止めた私はパパの方を振り返ると、パパは手に財布を持って構えていた。私はそれを見て、ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。全身から汗が出て、心臓が高鳴る。
先ほどまでの、騒がしくも和やかな家族の光景がこの瞬間だけはなくなって、代わりに緊張感が生まれてしまう。
パパが、一歩踏み出して私に近づこうとする。私はビクリと身体を震わせ、視線を落としてパパを見ないようにした。足音はゆっくりと、私を刺激しないように近づいてきて、やがて私の前で止まった。
「……ほら。落とさないようにな。あと、くれぐれも気を付けるんだぞ。危ない事は絶対にしないこと。いいな?」
パパは優し気に言いながら、私の手をとってお金を握らせてくれた。
でも、その声からちょっとだけだけど、悲しそうな感情を読み取ったのは私の気のせいだろうか。ううん、きっと気のせいではない。こんなに可愛い娘に、近づくだけで緊張されてるんだから、絶対に悲しいよ。
「き、気を付ける」
「メグル。シティを頼んだぞ」
「任せとけ。行くぞ、シティ」
「うん!」
メグルに呼ばれ、私はパパから逃げるように離れて駆け出した。
メグルはさっさと家を飛び出してしまい、私もそれに続こうとしたけど、玄関で踏みとどまって振り返る。パパとママを見ると、2人ともニコやかに笑ってくれていた。
ママはともかくとして、パパは私からこんな態度を取られて悲しいはずだ。それでも笑顔で私を見送ろうとしてくれているのが、私は嬉しかった。
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
「おう。いってらっしゃい」
お出かけをする時の挨拶を交わし、私は家を飛び出した。
外ではメグルが待っていてくれて、私と合流するとともに走って目的地へと向かって進み始める。
色々と危なかったけど、なんとかママに秘密にできた。できてたよね?できてたと思いたい。
「ははは。ちょっと危なかったなぁ!」
先を進むメグルが、笑って楽しそうにそう言った。
笑いごとじゃないよ。こっちはヒヤヒヤで、生きた心地がしなかった。たかが誕生日会の事を内緒にするくらいでと思われるかもしれないけど、私はこの誕生日会を成功させるために、命懸けてるんだよ。
「……ぷふ」
でも、さっきの出来事は面白かった。パパも、私もメグルも、ママを誤魔化そうと必死でおかしかった。私も思い出し、釣られて笑ってしまった。
「サラさん、喜んでくれるといいな!」
「ママならきっと、喜んでくれるよ!」
私は確信めいたものを感じている。あのママが、サプライズの誕生日パーティを喜ばない訳がないのだ。それも、今回はメグルまで一緒に祝ってあげて、まるで子供が1人増えたみたいで賑やかな物になる。私までわくわくしていて、夜が楽しみでしょうがない。
私は先を走っていたメグルを追い越しながらその手を掴み取ると、その手を引っ張りながら足を速めて市場へと向かう。最初は私にリードされる形だったけど、すぐに逆転されてメグルに手を引っ張られた。メグルの方が身体能力が上だからね。勘違いしてほしくないのは、私が運動音痴って訳じゃなく、メグルが凄いのだ。
彼女は足が早いのは勿論の事、バク転や宙返りなどができ、私とは基本的に身体の作りが違うのだ。だからという訳でもないけど、私の頼りになる相棒だ。メグルとなら、どんな事だって出来る気がしてしまう。
「それもそうだな!ああ、本当に楽しみだ!」
「うん!」
私とメグルは、同じ想いでいる。ママを喜ばせたい。ママの笑顔を見たい。その一心だ。もちろん、パパも同じだ。3人で協力し、今日のために色々準備してきたんだからね。
今日は皆で、最高の誕生日するぞ。




