モブ子4 情報収集
兵は神速を尊ぶ。
というわけで、つぶやきを聞いた直後、お昼を誘った。多分何もわからないテミスもばっちり合わせてくれ、昼食の準備を整えてくれた。素晴らしい侍女だ。これで男同士の熱い友情に関心があったらなおいいのにな…。
お昼休み、中庭で待っているとデメテルさんが来た。
何故か校舎の陰に、こっそり隠れたハデスがいるんだけど、これは脈ありなんでしょうね。リア充爆ぜろ。
「急にお呼び出しして失礼しました。また、来てくださってありがとうございます。私はニケ・クローデンスです。あなたは、デメテル・アフロディーテ男爵令嬢ですね。特別な魔法を使われるという……」
「め、滅相もない!」
デメテルさんは慌てて、それからそっと窺うように見て来た。
「あの、何のご用件でしょうか……?」
「そうですね。……テミス、悪いけど席をはずして。内緒話がしたいの。そこの、過保護な従者さんも一緒にお引き取り願って」
「えっ!?」
デメテルさんは見守りたいのハデスに気付いてなかったみたいだ。
テミスは「はい、お嬢様」とばつが悪そうなハデスと一緒に退場してくれた。多分、声は聞こえないけど姿は見えるぐらいのところで監視してくれているだろう。
さて、部外者はいなくなったし。
「ところでアフロディーテ様、某配管工ブラザーズでは誰がお好きですか?」
「え、え!? 転生者!?」
話が早くて結構だ。
ちなみに私は某丸のみ乗り物恐竜が好きだ。でっていう!
「そういうことです。ところで、ターンライト男爵令息の婚約者がって、どういうことですか? 予知でもなさるのですか?」
「予知!? 違う違う! ……って、もしかして、知らない?」
「何を?」
デメテルさんは私を見て、本当に知らないと思ったようで、大きく「よかったー」と息をついた。
「これ、ゲームの世界なんだよね。乙女ゲームって知ってる?」
「……音ゲー?」
「違う違う、乙女ゲーム。ギャルゲーの女の子版っていうか……」
「……ああ、わかりました。友達に好きな子がいた気がします。それで、これがその世界だと?」
「うん。あのね、これ、私がヒロインで……」
デメテルさんの話によると、まずヒロインがデメテルさん、悪役令嬢が公爵令嬢、攻略対象がアポロン様、オルペウス様、アレス様、ディモス様、隣国アメンティのセト皇子、それに隠れルートとして第一王子のホロメス様がいるらしい。
イベント起こして云々して、卒業時に誰に告白されるかとかでエンディング。
エンディングは各キャラにハッピーエンドとバッドエンドがあり、その他に逆ハーエンド、ノーマルエンドがある。隠れルートや隠れキャラへ行くには逆ハーエンドだとか、一定の条件をそろえないといけないらしい。
ヒロインは悪役令嬢の妨害にあいながら頑張っていく話、らしいのだが……。
「ミーア公爵令嬢、悪役ではありませんよね?」
「……うん。むしろ優しい……」
「攻略対象って人たちもあの方にべったりですし、本当にそんなゲームなんですか?」
「違うの! 本当は違うの! でも、多分あの悪役令嬢も転生者で、バッドエンド回避のためにフラグ折ったんだと思うの!」
「で、恋愛フラグを立てっぱなしで放置してる、と」
「それ、上手くないからね!?」
えー。
まあ、でも、シナリオを知ってたら乗っ取ることは出来るのか。
じゃあ……。
「四つほど、聞いて良いですか?」
「ど、どうぞ……」
なんでかデメテルさんに怯えられた。おかしい、これでも私はお調子者の剽軽者で通ってるのに。何が怖いの? この鉄壁の無表情? あ、これだわ。
まあいいか。話を進める。
「一つ目、第二王子のハッピーエンドとバッドエンド、ノーマルエンドを教えてください」
「えっと、……ハッピーエンドで第二王子と結婚して臣籍に下る。バッドエンドで悪役令嬢に不敬罪で爵位を奪われて国外追放される。ノーマルエンドでは……何もなく卒業して終わり、だったかな」
「なるほど。二つ目、セト皇子のハッピーエンドとバッドエンド、逆ハーエンドを教えてください」
「ハッピーエンドでセト皇子に嫁いで、バッドエンドで無理やり側室にさせられて監禁される。逆ハーエンドは全員に告白されたところで終わり」
「第一王子のハッピーエンド、バッドエンド、それにルートの概要」
「ハッピーエンドで国母になる。バッドエンドで一番高感度の高かったキャラに下賜される。ルートは、逆ハーで悩んでるヒロインが偶然出会って、そんなに素晴らしい女性なのかって興味を持たれてって感じ」
「わかりました。最後、国際情勢は卒業時まで変わってませんか? どこかから攻められたとか、どこかに攻めこんだとか」
「……平和だったと思うよ。全部攻略したわけじゃないけど、……うん、戦争はなかった」
「ありがとうございます。お礼に何かあるなら、出来る範囲で聞きますよ。ゲームのことは知りませんし、あまり権力もありませんが」
「うーん、じゃあ……あなたは本当はキャラに出てなくて、ただのモブキャラだったと思うんだよね。あ、気を悪くしたらごめんね?」
「気にしないでください。それで?」
「うん…それで、今日アレスに近づいてたけど、落とす気、なの?」
「落とす?」
落とすって、惚れさせるってこと?
ありえなーい。
「ないない、それはないです。純粋に、軍事演習がしたかっただけです。私は辺境伯の娘なので、北で戦争が起きたらすぐ戦うことになりますし、今でさえ北はしょっちゅう小競り合いしてますから」
「あ、だからさっきもそういうことばっかり……!」
「そういうことです。全然狙ってませんから安心してください」
「い、いや、ゲームのシナリオ通りじゃないなら、それはそれでもいいんだけど……」
デメテルさんはちょっと口ごもって、ちらりと私を見て、
「あと、……私が転生者でゲームを知ってるって、悪役令嬢には言わないでくれる?」
と言った。
「知らないと思うけど、えっと、悪役令嬢転生っていう小説とかがあって、そこでは悪役令嬢がヒロインに追放とかされないためにフラグ折って回って、チートになってるの。多分、ここの悪役令嬢もそのパターンだと思う。でも、……私は今の貧乏男爵の暮らしが気に入ってるし、攻略対象に取り入る気もないし、変に転生者だって知られて警戒されても面倒だから、黙ってて欲しいの。お願い!」
「そういうことなら黙ってますが、……さっきみたいに呟いてたりしていたら、気付かれますよ?」
「うう……反省してます……」
お昼も食べ終わったので片づけて、立ち上がる。デメテルさんに「もう食べ終わったの!?」と驚かれたけど、ほぼそっちがしゃべってたしね。あと私は比較的食べるのが早い方なので。
「では私はこれで。情報ありがとうございました」
「うん、よろしくね」
デメテルさんと別れて歩いていると、テミスが来た。多分ハデスもデメテルさんのところに行っているだろう。
「いかがでした」
「彼女と彼女の周りは微妙。ミーア公爵令嬢の周りには行かないように。特にあの取り巻きは要警戒」
「国家騎士団長のご令息様はよろしいのですか?」
「仕方ないよ、知らなかったから。これからは気を付ける。軍事演習で適当に釘を刺しておくよ」
「お嬢様も参加なさるんですか?」
「うん。父上は離れられないから多分送ってくるのは私の兵だし。テミスは参加しないでね」
「勿論です。奥の手は取っておくものですわ」
「まあねー。演習ごときで切り札出さないって」
はあ、ゲームかあ。
これがゲームだと思ってるなら、本当におめでたいことだ。