悪役令嬢2 プロローグ
私が気付いたのは、七歳の時だ。
『初めまして、アルテミス嬢』
第二王子から挨拶された時、一気に記憶がよみがえってきた。
私は前世では、単なる事務職の社会人だった。
でも、カラオケの火災に巻き込まれて、果敢な女性が『危ない!』とかばってくれたけど動けなくて、煙に巻かれて意識を失い、そのまま……。私と一緒に庇われた女子高生は、『誰かに助けを……!』って助けを求めに行ってくれたから、そのまま生きてくれればいいと思う。こんなことなら一人カラオケなんかするんじゃなかったわ。
頭の中を情報が流れ込み、倒れそうになったが、従者のハデスが「大丈夫ですか、お嬢さん」と抱き留めてくれたので転倒せずに済んだ。
でも、第二王子を見ていると、どうしても現実逃避をしたくなった。
ここは、前世に私がプレイしたことがある女性向け恋愛シミュレーションゲーム、通称『乙女ゲーム』の世界だ。
しかも、私はよりによって悪役令嬢のアルテミス・ミーア。
バッドエンドでは斬首されてしまうキャラクターだ。
このゲームは『神話に恋して』というふざけたタイトルのゲームだ。神話の名前の登場人物が多いのもそのせいだ。国名は遊びすぎだと思ったけど…。
内容はありふれた乙女ゲームで、中世で魔法がある世界で、いろいろなイケメンをヒロインが落としていくゲームだ。
登場人物は、まずはヒロイン、デメテル・アフロディーテ。
ヒロインは貧乏男爵の娘だけど、可愛くて成績優秀、さらに『豊穣』という特別な魔法が使える。努力家で一生懸命な子だ。
次に攻略対象が、第二王子、宰相の息子、騎士団長の息子、天才魔術師、それに隣国の皇子と、隠しキャラで第一王子のホロメスが攻略できる。
私は第二王子の婚約者で悪役令嬢だ。高慢ちきで嫌なお邪魔キャラ。だから最後には斬首されてしまうんだけど、……そんなのは嫌だわ!
だから私は、なんとかフラグを折るために頑張った。
婚約者の第二王子は、もう婚約自体は決められていたので、出来るだけ不快にさせないように、政略結婚なのはわかってるから、何かあったら身を引く、と言っておいた。でも第二王子も親切で、全然婚約破棄とかされそうではない。たまに怖いけど、なんなのかしら。
宰相の息子は、第二王子の親友でもあったので、その縁で出会ってしまった。避けようと思っていたのに……。でも何かと気にしてくれたり、第二王子とのことを案じてくれている。
騎士団長の息子は、パーティーで偶然出会ってしまった。しかも、女の子に絡まれているところを助けられる、という出会いだ。誠実でいい人で、本当にいいお友達だわ。
天才魔術師は、日本の知識でいろいろ作っていたときに目を付けられて、お父様から彼の世話係をして欲しい、と押し付けられた。ひねくれた子だったけど、多少はマシになったわね。
他国の皇子は、やっぱり日本の知識でいろいろしていたら目を付けられて出会う羽目になった。でも気に入られたみたいで、『嫁に来い』と言われた。苦笑いして断ったけど。
第一王子とも、実は会った。弟の婚約者が気になる、とか言われて。とても理知的で、将来の国王にふさわしい方だったわ。これなら、ヒロインも転生者で冤罪をかけられて、なんてことがあっても大丈夫ね。
というわけで、一応斬首されないように頑張ったけど、どうなるかはわからない。斬首じゃなくて国外追放もありえるから、その時のために力をつけて、学んで、お金を稼ぐために日本の知識も流用したけど、大丈夫か不安だわ。
いよいよ今日は運命の入学式。気合を入れていきましょう。