モブ子 プロローグ
ぱちり、と目が覚める。
そこは、私が今まで知らない世界。
「あら、起きたの、ニケ」
私を抱く女性が優しく微笑む。
きょろ、と右手を見ると、可愛い紅葉の手。
ああ、なるほど。
なんか転生したっぽい。
私は前世では普通の、ごく普通の、女の子だった。
ちなみに女子大生。いえい。
でも、とあるカラオケ屋で火災に遭い、避難していたら近くの女子高生とOL風の女性の上に天井が落ちて、思わず「危ない!」って飛び込んで、意識が途切れた。
多分そのまま死んだんだと思う。彼女たちは無事に助かってたらいいな。
一緒に来てた友達は、ちゃんと避難してくれたと思う。私の親友はちゃんと避難した上で他の人の避難誘導もしてくれるやつだ。私が死んでも、しゃんと前を向いて生きてくれる素晴らしい親友だ。本当に、私には過ぎた親友だった。
で、私は剣と魔法の世界に転生してしまったらしかった。
まだ文明は発展途上で、中世とか近世の様相だ。
でもなんか生まれた家の生活は整ってるし、明日も危ういような感じではない。むしろ、裕福そうに見える。
両親の仲もよさそう。これはいい暮らしが出来そうだな!
と思っていたのに、何故かかなり嫌われてます。
あれぇ????
えっと、一先ず自己紹介。
私はニケ・クローデンスという辺境伯令嬢だ。北の要で、この領以北はヘルヘイムという別の国家になっている。ちなみにこの国はタルタロス。多分その辺に地獄とかジャハンナムとかいう国家もあるだろう。どうせならアテナって名前がよかったな、なんて思ったりした。
私は長女で、下には妹と弟が一人ずついる。順番は私、弟、妹だ。この国では男が世継ぎになる、とかいう決まりはないみたいで、一番上の私が嫡子だ。
他国と接している国境際で、しかも日常的に交戦があるような重要な領の後継なので、教育もかなりしっかり受けさせられた。この領が落ちたらこの国も侵略の危機にさらされるし、それにこの領の人たちも皆被害を受けることになる。そんなのは嫌だから、私は私なりに真面目にお勉強を頑張ったし、嫡子として認められる程度の成果は出してきた。
なのに何故か、かなり嫌われている。
とても夫婦仲も良くて、北の要を任されてるだけあり善政をする両親だけど、何故か私は非常に嫌われている。
何故だろう。
「それはお嬢様が可愛くないからですわ」
私付きの侍女のテミスが言う。昔から一緒だけど、この侍女は本当に遠慮というものをしない。
「私って可愛くないの? 母上に似て、それなりに美人だと思うんだけど」
私は『とびぬけて美人ではないけどブスとは絶対言わない』程度の美人の母に似て、それなりの美人だ。銀の髪に灰色の瞳。北に暮らしてるから色白でもある。どこが可愛くないと言うのだ。
「そういうことではありませんわ。その性格が、可愛らしくないのです」
テミスはびしりと言った。
はい、重々承知しています。
私は、元日本人らしく、争いが嫌いだ。
だから何かあればとにかく茶化す。シリアスになんてさせない。喧嘩などもってのほかだ。
ついでに、顔が常に無表情に固定されているのも日本人らしいかもしれない。いや、寒いから表情動かすために無駄なエネルギー使いたくないんだよ。
「だから、可愛げがないのですわ」
テミスは断じた。はっきりしているのがこの侍女の良いところだ。
「でもでも、嫡子として問題はないはずだよ」
前述の通り、私は嫡子として、きちんと学習している。将来領地を治められるように、がっつり学んでいる。魔法だって使える。回復魔法と結界魔法だ。
私は、北の要とはいえ、領主が先頭に立って戦うことはないと思っている。だってそれで領主が打ち取られたら終わりでしょ。すごく強い人ならともかく、私は女だし、前線に立つことはない。
だから、最低限護身出来るようにはならないといけないとは思ってるけど、求められるのは後方支援だ。そのため、味方を癒せるように回復魔法を鍛えた。大体私、RPG系でも回復役になるタイプなんだよね。回復役だったらソロでもやれるから。回復出来てれば、即死されない限り負けない。ついでに結界魔法で守れれば言う事なし。勝てることより負けないことが重要だと思う。
というわけで、しっかり考えて選択してるのに、何が不満だよ。
そう不貞腐れてみたら、テミスは大げさにため息をついた。
「そういう考えが、可愛げがないと言うのですわ」
何故だ。
しかして三つ子の魂百まで、私はなんだかんだそのまま成長して十五歳になり、学園に入学することになった。
私のことを嫌い、弟や妹のほうを過保護にしてる父母だけど、私が嫡子として十分なのは認めてくれているようで、ちゃんと教育もしてくれている。我が親ながら、そういう、好悪で決定を左右しないところは好きだ。そう言ったら、「領主として当然のことだ」「お前に好かれてもねえ」と父母から苦笑いされた。嫌ってるのを下手に隠そうとしないところも気に入ってる。
そんなこんなで、侍女のテミスを連れて、王都にある学園に入学した。
「ふおおおお!?」
「お嬢様、気持ち悪いです」
そこで、イケメン集団を見た。
テミスにそっと距離を取られながら、目を見開いていた。
だって、超イケメン集団がいる。
私、実は前世では発酵系女子、すなわち腐女子だったのである。
かけ算とかたし算とか大好き。攻めの対義語は受け。お気に入りのCPは意地っ張りな不良受けの腹黒な優等生攻め。優等生×不良たまらんです。できれば優等生→→→→→(←)不良ぐらいの溺愛っぷりが良い。あれはたまらん。私の話がわかって趣味があった人とは良い酒が飲めそうだ。飲もうぜ。
あああああ、もう、イケメンが集団とか、あれは妄想してくれってことですね? 薄い本にして欲しいんですね? おっと、私好みの良い受け様がいらっしゃるじゃないですか! 受け様マジ尊い。あの意地っ張りなところが落とされて攻め様にあんあん言わされるんですね。実にけしからん、もっとやれ。
ちなみに前世の親友は狡猾なおっさん攻めの腹黒年下受けがいいと言っていた。わかる、わかるぞう。あれもあれで尊い。リバも逆カプも美味しくいただける組み合わせだ。
そんな、男二人いれば大体なんでもくっつけてしてしまう私だが、その集団の中に一人だけ女の子がいることに気付いた。
女の子は黒髪黒目で、ちょっときつめだけどすっごく美人で、イケメンたちからちやほやされていた。
おやまあ、あれが逆ハーってやつなのねぇ。よくやるわあ。
そんなことを思いながら、テミスに「今夜のオカズが決まったね」と卑猥なハンドサインをして、ものすごく冷ややかな目で見られた。
優しい人が未完のまま三年近く放置してた話に「続きまだですか?」って言ってくれたので、「まだです!!当分書きません!!」って返事した上で、なんとなく気に食わなくて放置してた全く別の話を投げつけた、というのがこの話を投稿した経緯です。
なんか色々すまんやで