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真夏はサイダーに焦がれて

掲載日:2021/06/15

 学校帰りに立ち寄ったスーパーで、ラムネを買った。

 夏の売れ残り、処分品で安かったから。

 家に帰って飲んでみると、いつも飲んでいるサイダーと同じ味がする。

 試しに冷蔵庫の中からサイダーを取り出し、空になったラムネの瓶に移して飲んでみた。

 同じ味だった。

 

 ネットで調べてみると、ラムネの中身はサイダーだと書いてある。

 容器の違いだけで、名前が異なるらしい。

 

 小説と似ている。

 同じ話でも、単行本だったり、文庫本だったり、容器の違いで値段も倍以上違う。

 

 この話を彼女の爽夏さやかにすると、小学生でも知ってるよ、と馬鹿にされた。

 

 それから時は過ぎ、冬生まれの僕は年を一つ重ねる。

 

 爽夏さやかは僕の誕生日に、手作りのスノードームをくれた。

 

 手の平に収まるサイズのコンパクトなもので、中には家が建っていた。

 よく見ると、家の横にブランコがあって、その前に男女の人形がいる。

 

 振ってみると、雪が舞った。

 

「それ、将来の私たち」


 爽夏さやかはそう言って、僕にキスをする。

 

「サイダーの味がするね」


 スノードームを見ると、雪はまだ止んでいなかった。

 

 閉じ込められた世界の中で、僕たちは二人、雪に振られている。

 

 夏生まれの彼女の為に、僕も手作りのプレゼントを考えていた。

 姉に相談すると、

「スノードームのお返しなら〝ハーバーリウム〟がいいかもね」

 とアイデアを貰った。

 調べてみると簡単に作れそうだったので、早速制作に取り掛かる。

 

 瓶、ドライフラワーを集め、僕と爽夏さやかの代わりになる人形を探した。

 素材は一週間ほどで揃えられたけれど、爽夏さやかの人形だけが、中々決まらない。

 彼女の誕生日まで半年以上あるし、気長に探そうと思っていた。

 

 翌年、夏を迎える前に、彼女は僕の前から姿を消した。

 

 教室の女生徒からまた聞きした話によると、親の転勤で北海道に転校したらしい。

 

 僕には一言もなかった。

 

 SNSも更新されていない、メッセージを送っても返ってはこない。

 突然、何も届かなくなってしまった。

 机の上にあるスノードームを眺め、振る。

 僕と爽夏さやかは雪の中にいる。

 僕たちの将来だと言って、贈られたものだ。

 

 一瞬、床に叩きつけて壊したくなった。

 

 思い切り腕を振り上げたところで、視界の端にハーバーリウムが映る。

 作りかけのハーバリウムの中には、僕と同じで独りぼっちの人形がいる。

 スノードームを机の上に戻し、ハーバリウムと並べる。

 

 足りない。

 

 夏の花を入れたハーバリウムには、爽夏さやかがいない。

 気付くと涙が出ていた。

 

 いきなり部屋のドアが開き、姉が入ってくる。

 僕の泣き顔をみた姉は、

 

「私の誕生日にも作ってよ、それ」


 そう言って、作りかけのハーバリウムを指差す。

 

 翌月、姉の誕生日がきた。

 僕は気を紛らわせるつもりで、姉へのプレゼントを作る。

 

 容器の中に世界を詰め込んでいく。

 カラフルな砂と花で彩を与え、瓶の中にそっと封じ込めた。

 初めてにしては、会心の出来だったと思う。

 

 姉へ贈ると、とても喜んでくれた。

 姉はそれを撮って、SNSに上げる。

 

 暫くして、教室の女子から話しかけられる機会が増えた。

 僕の作ったハーバリウムを、姉がSNSで自慢したせいだ。

 

 興味を持ってくれた子と一緒に作ったハーバリウムを部屋に飾る。

 

 出来はいい。

 

 ただ、何かが足りない。

 

 僕が一人ぼっちで寝転んでいるハーバリウムも同じだ。

 

 中に空洞がある。

 

 作りかけのハーバリウムがすっかり埃を被った頃、僕は地元の大学に通っていた。

 数カ月経って、夏休みに入る。

 何度目かの独りの夏は、やっぱり何か足りなかった。

 自室でサイダーを飲みながら、スノードームを眺めている。

 

 携帯が震えた。

 

 更新の止まっている爽夏さやかのSNSから、メッセージが届いていた。

 

『学食の前で待ってる』


 送り間違いか?

 聞き返しても返事は返ってこなかった。

 期待外れでもいい、僕は大学まで走った。

 閑散とした学食の、大きな建物の入り口にポツンと立ってる人がいる。

 近づいていくと、向こうもこっちに歩いてきた。

 

「なんだか、見ないうちに随分と大きくなったね」


 爽夏さやかがいる。 

 髪は伸び、背も大きくなって、成長したと判る。

 

「君に会いたくて、私もこの大学に入学してたんだ。怖くて言い出すの遅くなったけど」


 爽夏さやかは携帯を取り出し、画面を見せてくれる。

 

「このハーバリウム、いつ完成するの?」


 映っている写真は、埃を被った作りかけのハーバリウムを背景に、姉が自撮りしたものだった。

 画面を覗き込み、いつの間に撮ったんだろうと考えていると、不意にキスされた。

 

「サイダーの味がするね」


 不器用に、僕の中身を確認しているのだろう。

 

「今から、一緒に完成させよう」

 

 僕は爽夏さやかと二人でハーバリウムを作った。

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