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山椒姫、強がりを言う

「それでは最終登録メンバーを発表します。パチパチパチパチ〜」

「今更変更なんてありませんのに、わざわざ発表することはないのでは?」

「試合前だということを感じていただくためにも、一応形から入りませんとね」




 本番を明日に控え、間もなく出場選手登録の締切が迫ってます。これまでは大会出場の可能性があるメンバーを全て仮登録としていましたが、今日の申請で正式に出場する選手が確定となるのです。


「まずは先鋒、ヤコブ・ドルクセン。目標は相手の先鋒を潰すこと。最悪引き分けでも構いません」

「頑張ります」

「中堅、ヒラリー・ウラン。ヤコブさんの残り物を片付けてください」

「後片付けは大の得意だから任せてください」

「そして大将は私、キャサリン・リングリッド。とは言っても、私は戦わないという約束だからね。二人に全部託します」


 そしてリザーブにテオさん。怪我は完治していないので出場は出来ないけど、共に汗を流した仲間です。最後まで一緒に闘うという意味でも選手登録はしておきます。


「まあ他に組みようが無いから、最終登録と言っても特に何か変わった訳ではないんですけどね」




 今回は全部で16チームが出場。初日は4組ずつ、4つのブロックに分けて、総当りのリーグ戦。


 そして各組の上位3チームが翌日の決勝トーナメントに進みます。場数を踏んで学生の技量を向上させるのが目的なので、最初からトーナメントにはせず予選リーグという形にして、最低3試合は戦えるようになっているのです。


 決勝トーナメントは、各組1位が1回戦で勝ち上がった2位又は3位のチームと2回戦から対戦。いわゆるシードというやつですね。1試合少ないというのは有利です。


 これを出場選手3人、リザーブ2人の計5人で戦い抜きます。


 不動のスタメン3人+万が一のときのスペア2人という構成のところもあれば、ほぼ横並びの実力の5人をローテーションでやりくりするなど、チームによって戦略は様々。


 所属選手の多いチームは、調子の良し悪しで選手変更するなんてことがよくあるようですが、私達は仮登録イコール本登録なので入れ替えようがなく、当初の計画通りのメンバー。


 ……と言いたいところですが、ヒラリー様が聞いたという、ヤコブさんのお母様とレーマン侯爵の過去の一件がやや引っかかります。


 直接的な妨害というのはあまり考えられませんが、何があるか分かりませんので、予防線を張っておきましょう。


 どんな予防線かは内緒です。何事も無ければ披露することもない手の内ですので。




「これで登録は完了。リーグ戦の組分けを確認しに行きますか」


 決勝トーナメントは、どこにどの順位のチームが入るかだけ決まっているので、あとは自分たちがどのブロックに入っているかです。


「レーマン家はAブロックか」

「チーム隼ですね」


 レーマン家の家紋である隼を冠したチーム名。テオさんが襲われたときに残していった証拠品にも隼の家紋が入ってましたね。


「で、僕たちはCブロックか」

「え? ヤコブ君、どこ?」

「あれですよ、チーム山椒」

「……何ですかこのネーミング」


 ヒラリー様はチーム名がご不満のようです。

 登録時にチーム名は何かと聞かれたのです。まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったので、咄嗟に出したんですが、ダメでしょうか。


「普通に剣術同好会で良かったのでは?」


 剣を振るう機会も無いのですから、せめてチーム名に爪痕を残すくらいの我儘は許してくださいよ。


「チーム名で勝敗が決まるわけではないですしね。それに、チーム隼とは順当に行けば当たるのは決勝だから、悪くない組割りですよ」

「既に1位通過した気になっているとは。随分と楽天家だねぇ」

「何の用だ、エカルト」




 相変わらずタイミングよく現れる方ですね。こちらがやって来るのを狙って待ち構えていたのかと思うくらいです。


「たしかに1位通過なら当たるのは決勝だろうけど、大丈夫ですか? 見たところ、Cブロックはウチ以外の有力チームが固まっているようですけど」


 エカルトさんは大変だねぇとニヤついていますが、その真意は「この組み合わせでは予選通過も危うそうだが、1位通過などと大言壮語していると恥をかくぞ」ということでしょう。


 彼の言うとおり私達のブロックには、近年準優勝が続き、今年こそはチーム隼を倒して優勝を掴まんと意気込む強豪チームが同居。残りも侮れぬ実力を持つチームとあって、4つのブロックの中では一番激戦が予想される組分けです。


「随分嫌味な言い方をされるんですね」

「これはこれはキャサリン嬢。いやね、3人のうち女性が2人もいるチームなど初めてのケースだからね。無理をして大きな怪我をされては心配だと思いまして」


 他は優勝を狙う強豪ばかり。一方の私達はただでさえ少ない人数からテオさんが抜けてしまい、1つ勝つことも難しいだろうに、こんな組に入ってしまってご愁傷様と言いたいのでしょう。


 余計なお世話です。テオさんを負傷させて自分達の思い通りに事が進んでいると思っているのでしょうが、こちらはヤコブさんとヒラリー様の2人だけで戦うという前提のもと、相手の実力を図った上でいけると判断しての発言しているのですよ。

 

 知らない方から見ると無理無茶無謀と思われているのかもしれません。実際にテオさんが抜けたのは痛手ではあり厳しいのは確かですが、そう仕向けた貴男に言われたくはありません。


「私達もたくさん練習しました。勝負はやってみなければ分かりませんよ」

「勝負する前に終わらなければいいですね」

「馬鹿にするのもいい加減にしてください! 人の心配をなさるより、自分のチームを心配しなさい。油断して足元を掬われて、いきなり初戦から私達と対戦なんてことになっても知らないわよ!」

「何を!」


 余計なお世話とばかりに煽り返しますと、まさかそんなに言い返されるとは思っていなかったのか、エカルトさんのこめかみが若干ピクピクしています。


「ふん! 我々が取りこぼすわけが無いだろう」

「どうですかね…… 私達のことを普段は弱い弱いと歯牙にもかけない割に、頻繁に絡んで来られるのは、ホントは私達が怖いからだったりして?」

「そんなわけ無いだろう! お前らなど我々の敵ではない! まあいい……勝ち上がってくるのを楽しみにしているよ。勝ち上がって来れれば、だけどね」

「ええ、そっちこそ首を洗って待ってなさいよ!」


 言うだけ言ってからフンッと鼻息を鳴らして去っていくエカルトさんを見ながら、ヒラリー様は笑いが堪えられないようです。


「ケイト様、完璧です」

「強がってましたか?」




 ええ、全部演技です。


 残念ながら貴男達が見ないうちに、ヤコブさんとヒラリー様の実力は相当に上がっているのです。


 学園の剣術の授業ではわざと手を抜くように細工し、あからさまに偵察されている放課後の練習では基本動作の反復練習のみと、手の内を見せないようにした上で、実戦形式の練習は秘密の練習場でみっちり行っています。


 何と言っても相手はケヴ兄様、ネイ兄様、私という地獄のカーニバル。ヤコブさんに言わせると、勝てないまでもヒラリー様と戦うときは緩く感じると言ってしまうくらい。


 それでちょっとカチンときたヒラリー様にボッコボコにされてもなお、私達と戦うよりはマシだと言わせてしまう鬼畜ぶり。


 手も足も出ないのは相変わらずですが、こちらの攻撃を幾度となく避けるようになりましたし、剣速も上がり、私達も避けるばかりでなく剣で受け止めて防ぐ回数が格段に増えましたので、実力は確実に上がっています。


 本人は気付いていませんが、今はそれでいいんです。見せるのは、本番になってからで構わないのですから。


 とは言っても、今はわざわざそれを教えてあげる必要がありません。


 なので、戦力にもならない平凡な令嬢を演じている私が、せいぜい強がりを言っているくらいに思われるよう、敢えてあちらのからかいにムキー! と応じて差し上げたのです。




 テオさんが襲撃を受けてから、警戒のために無害なご令嬢を演じるべく、艶やかにたおやかにしておりました。


 そんな私を見て、アデル様は開口一番に「何か変な物でも食べた?」などど尋ねられますので、事情を説明いたしますと、存在自体が冗談みたいなものなのに、随分と酔狂なことをなされるのねなどと仰います。


 かなり頑張っているのに酷い言われ方だと抗議しましたが、頑張るという意識が無いと演じられない時点で不合格ですよと厳しいお言葉。


 昔、アリス様にも似たようなことは言われました。自然に振る舞えるようでなくては淑女とは申せませんと。私としては頑張って演じられるだけでも上出来かと思いますが、やはり上を目指す方は違います。


 それでも一肌脱ぐわよと淑女偽装工作に加わって頂いた上、オリヴァーがこれ幸いと下にも置かぬお姫様扱いで、勤務時間中でありましょうに毎日学園の送り迎えにやって来てくれたおかげで、愛されている幸せなご令嬢ですねとカモフラージュはバッチリです。

 



「どこからどう見ても可憐なご令嬢が強がっているように見えますでしょう」

「それは置いておいても確実にノーマークですね。今頃負けたときに、どうやってからかってやろうかと考えているでしょう」


 ヒラリー様も最近私の扱いが適当です。そこで置いてしまうのは否定と同義ですよ。


「だけどそんな努力も今日でお終い。明日には皆さんの真の姿を大観衆にお見せしようではありませんか! アイツらの驚く顔が楽しみですわ」

「ケイト様、努力と言ってしまう時点でやはり完璧な淑女とは言えませんね。そして、残念ながら貴女は真の姿を見せることはありません。何と言っても秘密兵器ですから」

「えぇ~!!」


 なんて申しますが、全ては頑張ったヤコブさんとテオさんの努力に報いるため、そして手伝っていただいたグリゼルダ様やパティ達のため。私は見届け人として、2人の戦いをしっかりと見させていただきますわ。


 さぁ! 私達の快進撃の始まりですよ!!

お読みいただきありがとうございました。

次回は8/21(土)投稿です。

よろしくお願いします。

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