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山椒姫、罠に感づく

「しかし、妨害するにしてもこんなあからさまな手を使うとは……」


 ヤコブさんの愛の告白も一段落し、改めて卑劣な妨害に対して憤るグリゼルダ姫。


 私も想いは同じです。これまでの流れから考えたら、襲ってきたのはアイツらしか考えられないのですから。


 それほど離れてはいない校舎から寮への途上で狙うことができる者など、学園の関係者が絡んでいなければまずあり得えないでしょう。


 しかし残念ながら彼らの仕業だという確たる証拠はありません。


 法によって国を治める以上、状況的にそう思うというだけで罪に問うことは、国の根幹を揺るがします。


 しかも一見すると事故を装った巧妙な手口。今のところ捜査の手は事件と事故の両面で調査しているようですが、事件として立証するのは時間がかかりそうで、仮に容疑者が特定できても、その頃には剣術大会は終わってしまうでしょう。


「そんな……このまま泣き寝入りするつもりですか」

「姫様、そのことなんですが……」


 グリゼルダ様は歯噛みしておりますが、やはり証拠が何も無いのでは致し方無しとかと思っていましたら、テオさんが襲われたときに、何やら手がかりになるものを手に入れていたと言います。


「顔を隠していたから誰だか分かりませんでしたが、揉み合っていたときにこれを……」


 そう言って出してきたのは家紋が入った袋。


「これは……レーマン侯爵家の!」

「これは動かぬ証拠。これでアイツらを問い詰めれば……」

「姫様、ヤコブさん、それ以上は……」


 ヤコブさんはアイツらの犯行の証拠ではないかと言いますが、私はあえてそれを制します。


 二人は何故止めるのだと訝しんでおりますが、ヒラリー様は私の思うところを的確に把握したようで、二人に対して努めて冷静になるようにと話し始めました。


「私も状況的に襲撃したのは、彼の息のかかった者であることは間違い無いと思いますが、相手が相手です。軽率な行動は控えた方がよろしいかと思います」


 友人という立場とはいえ、グリゼルダ姫は明らかにこちら側ですので、王族の名をもって侯爵家に嫌疑をかけたと見られてもおかしくありません。


 王族の権力を行使して大規模な捜査を行うことは出来るでしょうが、そもそもの発端が学生同士の諍い。


 失礼な言い方ではありますが、王族とはいえグリゼルダ姫は第四王女。直系の現王族の中では、最も王権から遠い位置にいる御方。その方が確たる証拠も無く、学生同士の揉め事を理由に侯爵家を犯人扱いすれば、権力の濫用という誹りを受ける恐れもあります。


「しかし、証拠ならここに……」

「罠だとしたらどうしますか?」

「罠って……まさか!」


 私の問いかけを受け、姫様もどうやら気付いたようです。


「この証拠を自分達を陥れるための罠、こちら側が偽装したものだと抗弁されれば、他に目撃者も物証もない状況ですので、却って私達がレーマン家を貶めるために策を張ったのだと反撃してくるでしょう」


 そうなると、万が一他の証拠が見つからなければ、侯爵家に冤罪をかけたことで、姫様の立場が危うくなりますし、王家と侯爵家の不和を招きかねません。


「そもそもこの状況で証拠を残していったと言う方が不自然です」


 今回の襲撃はテオさん一人に対し複数人での暴行。一時的に揉み合いになることはあったにせよ、他に何の痕跡も残っていない中で、この袋だけがこれ見よがしに残されたという不自然さ。


「撒き餌の可能性が高いですね」

「ヒラリー様もそう思いますか」

「ええ、他の痕跡は一切残っていない。いえ、残さぬように処理したと言う方が正しいですかね。その中で一つだけ残された証拠。怪しいとしか思えません」


 こちらが挑発に乗るよう、わざと残した証拠と見て間違いは無いと思います。


「レーマン家が王家を貶めようと画策しているのですか?」

「王権を失墜させるとか、そこまで深刻な話では無いと思います。彼らの目的はあくまでも剣術大会に私達が出られない、もしくは出てきたとしても万全の状態ではないようにすることが目的かと」


 私達が撒き餌に喰らいついてレーマン家を糾弾すれば、大会どころの騒ぎではなくなります。


 何しろ訴えるのはこちら側ですから、立証責任があります。とても大会に集中することはできないでしょう。


 さらに言えば、新たな確たる証拠が見つからなければ、非難を受けるのは私達です。


「もしそうなったときは、姫様達の若気の至りだからと大人の対応をすれば、レーマン家は王家に貸しができるし、私達は大会に出場しづらくなる。どう転んでも損はありません」

「ならば、証拠を見つければいいんですよね」

「そのときは実行犯の単独犯行として切り捨ててしまえば、そういう者を抱えていたという点で非難は受けましょうが、侯爵家としては痛くも痒くもないですよ。それに、誰が証拠を見つけるのですか? 学生の身分で出来ることなどたかが知れています」


 もしここで、グリゼルダ様が王族の権力を使ってしまえば、それこそ彼らの思う壺です。


「随分と手の込んだことをされる方達ですね……」

「彼らとしては私達が大会に参加出来なければベスト。戦力ダウンならばベターというところですね」


 重苦しい空気が流れる中、どうなさるのですかと問う姫様に、ヤコブさんが自分とヒラリー様の二人で勝ち抜けばいいと力強く宣言されます。


「大会は勝ち抜き戦だから、二人抜き三人抜きすれば問題はないです」

「問題はないって……ヤコブ、貴男にそこまで勝ち抜く力があるの?」

「有るか無いかで言えば厳しいかもしれませんが、ここまでコケにされたら、結果で見返すしかないでしょう」

「よく言ったわヤコブ君。私と二人でガンガン勝ち上がるわよ」


 ヤコブさんの決意にヒラリー様も力強く同調されます。


「現実的にはヤコブ君が一人、私が二人抜きってところかな。さすがに三連戦はキツイから、一人は倒してよね」

「はい。大会までの間、またご指導よろしくお願いします」

「オーケー、ビシビシいくよ」


 あらあら、キャッキャウフフとは真逆の方向ですが、

二人だけの世界に入っておられますね。


 しかし……お忘れではありませんか? 大会は三人一組。ここに秘密兵器が控えておりますのをお忘れでしょうか?


 私にかかれば、三人抜きどころか、五人でも十人でも……


「ケイト様はダメです」

「医療班は控えてますが、即死では処置できません」

「お姉様、観客には学園の女子生徒も多くいますので、トラウマになるような光景はちょっと……」


 イヤですわ。人を何だと思っていらっしゃるのですか。


「猛毒の棘が付いたる薔薇娘」

「美少女の皮を被った化け物(クリーチャー)

「剣聖の血を濃く継いだ狂戦士」


 皆様酷いです。そして、全員が標語みたいな言い方なのは何故ですの?


「アデル様の受け売りです」


 おのれ、ドリルめ……


「当初の予定通り、お姉様は戦ってはなりません」

「ケイト様大丈夫。私とヤコブ君で勝ち上がりますから」


 うーん、みんながそう言うなら大会に向けて現状で出来る万全の体制を整えるしかありませんね。


「念のために大会までは単独行動は控えますように。特にヤコブさんはヒラリー様なりグリゼルダ様がサポートをお願いします」

「了解です」「分かりました」

「ただ、一度強硬策で来ているので、同じ手を使う可能性は低いでしょう。今後より気を付けてほしいのは、食事に異物を混入されることですね。飲み物食べ物は信頼できる入手経路のものだけを摂取してください」


 万が一に備えて、パティにも協力していただくようお願いしなくてはいけませんね。


「お姉様は大丈夫なのですか?」

「大丈夫ですよ。間違ってこちらに来たら殺します」


「おい旦那、嫁が人殺し宣言しているぞ」

「困りましたね……でも、そんな気の強いところもケイトの魅力ですから」

「あの……お仕事をサボって何をしていらっしゃるのですか?」


 姫様が私を心配して声をかけたと同時に現れたのは、オリヴァーとケヴ兄様。えーと、まだ執務時間中ですよね?


「グリゼルダ様に呼ばれてね」

「大丈夫だろうとは思ったが、来て正解だったな義弟殿」

「そうですね」


 何をそんなに心配しているのでしょう。


「それ、その余裕の姿勢。こんなことになってもなお、ぱっと見で普通のご令嬢が単独行動していては怪しいでしょ」


 オリヴァーが言うには、形だけでも警戒しているフリをしておいた方がいいだろうとのことです。


「それって、オリヴァーの個人的な願望も含まれてますよね」


 虫よけに使うなら、ケヴ兄様やネイ兄様の方が抑止力としては強力ですよね。


「僕では守りきれないと?」

「武力的な妨害に関しては守ってもらう必要はありませんよね」

「お姉様、そう仰らずにオリヴァー様に護衛してもらいなさい」


 姫様は事情がよく分からないうちに、何かあってはとオリヴァーを呼んでいたそうです。


 エカルトさんの罠には引っかかりそうでしたが、危機管理、この場合は身の回りを固めるという基本は出来ていたようです。


「そういうことでしたら、できる限りひ弱なお嬢様を演じた方が良さそうですね」

「演じるだけでなく、本気でおしとやかになってもいいんだよ」

「オリヴァーは私がそんなひ弱な女でもよろしいのですか」

「それはそれでいくらでも可愛がってあげるよ」

「遠慮しておきます。今でも十分に可愛がってもらっていますから、これ以上は身が保ちませんわ」


 オリヴァー、全然足りないんだけどみたいな顔をしないでください。


 以前に比べればだいぶ慣れてきましたが、人前ですとまだまだ恥ずかしいですよ。


「では、これから大会までの間、付きっ切りで護衛を務めさせて頂こう」

「お仕事は忘れないでくださいね」

「大丈夫。一週間やそこら仕事を貯めたところで、後でキッチリ処理するから何の問題もない」  


 そういう問題ではないのですが、みんなの生暖かい視線が痛いのですよ。






「ヒラリー様、お姉様にも苦手なものがあったんですね」

「苦手というより慣れないのでしょうね」

「オリヴァー様は小さい頃からのお知り合いなのですよね」

「そう聞いていますが、何と言うんですかね……小さい頃から慕っていた方と実際に恋仲となって色々と適応できていないのではないでしょうか」

「人の恋路は面白おかしく茶化すのにね」

「まったくです」 

お読みいただきありがとうございました。

次回は8/7(土)投稿です。

よろしくお願いします。

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