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山椒姫、仲間と切磋琢磨する

 色々あった夏季休暇も終わり、季節は秋。

 と言いたいところですが、さすがは北国、朝晩は既に秋を通り越して寒さすら感じさせ、長い冬の訪れをひしひしと感じさせます。


 エンデヴァルドでの夏合宿では多くのものを得られました。


 まずは鉱山焼きのレシピ。


 森でのキャンプを終えましてから、ティハルト殿下にグリゼルダ姫、アデル様を連れて店を訪れ、自慢の新名物に皆で舌鼓を打ちました。


 特に肉好きのグリゼルダ様はお気に召したようで、王宮の料理人をここで修行させたいと申されるほどの入れ込みよう。


 私が連れてきたのが、まさかの王族だったとは気付かなかった女将さんは、「王族の皆様がお召上がりになるような物では……」と恐縮していましたが、当の姫様が美味しい美味しいとバクバク食べてましたので、折角有名になるチャンスなのだからと、利用するようアドバイスして差し上げました。


 料理人を受け入れることで、近いうちに王家の食卓に鉱山焼きがレパートリーに加われば、そこから貴族の皆様に徐々にその名が知れ渡って、エンデヴァルド発祥の新名物と認知されるはず。


 そのときに『グリゼルダ姫が絶賛する元祖鉱山焼きの店』というお墨付きを与えてもらえば、商売繁盛間違いなしという算段です。


 留学期間が終わる前には、ベルハーフェンでも鉱山焼きが食べられるかもしれませんね。……って貴女は美味しい食べ物を探しに行くのが目的だったのかですって? ご心配なく、これはあくまでも副次的な産物です。






「おりゃーっ!」

「……っと、まだまだー!」

「これならどう!」

「おわっと!」


 ほら、こちらが夏合宿の成果の大本命。剣術同好会の皆様のレベルアップです。


 ヤコブさん、テオさんは実戦を通じて不足していた技術を着実に習得。更に剣の腕に磨きのかかったヒラリー様を相手にしても、そう簡単に崩れることもなく打ち合うことが出来るようになっています。


 優勝できるかどうかはともかく、今の彼らには間違いなく実力が備わってきております。


 その証拠に……


「見学ならもう少し堂々とご覧になってはいかがですか? エカルトさん」


 物陰に隠れてこちらを覗いていたのは、レーマン侯爵家の三男エカルトさんとそのお仲間達。


 私が声をかけるとギョッとしていましたが、まさかあの程度の隠れ方で気付かれないと思っていたのでしょうか?


「これはキャサリン嬢、ご機嫌いかがかな」

「ご機嫌かと問われれば、のぞき見されて気分はよろしくありませんね」

「のぞき見とは失敬だね。たまたま用があってこちらに来たら、相も変わらず君達が無駄な練習しているのが見えただけだよ」

「あら。でしたら普通に声をおかけになればよろしかったのに」


 エカルトさんは虚勢を張っておりますが、研究用の農場や温室しかない学園の裏山に彼らが用があるはずなどありえないわけで、どう考えても偵察にやってきたのだろうとしか思えません。


 一番の狙いはヒラリー様でしょう。ベルハーフェンに戻ってからもヒマがあれば手合わせをしておりましたおかげで、今では3年生のトップクラスの男子でも敵う相手はそうそういないほどになりました。


 どこで手合わせしていたかと申しますと、王城にある王家専用の練習場です。


 アデル様が足繁く王城に通うお供と称して、私とヒラリー様も同行。アデル様が殿下の愛の海に溺れまくっている間、グリゼルダ様の手引きでコッソリと練習場をお借りして、ガンガン打ち合っておりました。


 王家があからさまに介入するのはマズいですが、私達はアデル様のお供として参上し、帰るまでの間ヒマ潰しをしていただけですから無問題。 


 時々、ケヴ兄やネイ兄も手合わせいただきました。これも彼らがたまたま王城に顔を出したときに、たまたま顔を合せて、たまたま時間があったので胸をお借りしただけですので無問題。


 姫様的にもケヴ兄と合法的に会うことが出来るので、誰かに見とがめられることのないようにするための対策もバッチリ。かなり協力的でした。


 ケヴ兄と仲が深まるのはよろしくないのではと? それは諦めました。


 むしろ姫様の方からケヴ兄に会うため王城から足繁く通われる方が、衆人の目を考えるとデメリットが大きいと判断し、城内で会えるよう手はずを整えたという方が正しいですね。


 姫様が城から出て出歩くことで振り回される、彼女付きの侍女の皆さんもそれの方が助かると好意的ですし、何よりあと半年ちょっとで私も兄様も母国に帰るわけですから、決定的な一線を越えぬ限り、一時の恋の夢を見せてもよかろうとティハルト殿下とアデル様が仰いますので、ホントにいいのですか? とは思いましたが、利用出来るものはとことん利用させていただきましょうと割り切っております。




「それでいかがですか。ヒラリー様を打ち破る手立ては見つかりましたか?」

「彼女が強いのは認めるが、1人で当家の誇る精鋭に3連勝は難しいでしょう。手立てなど考えるまでもありませんな」

「1人で? ご冗談を。私どもには頼もしい戦士があと二人おりますわよ」


 たとえヒラリー様が強敵であっても、連戦による消耗は計り知れないでしょうから恐るるに足らずと、余裕の姿勢を崩さなかったエカルトさんに対し、あれをご覧になっても同じ事が言えますかと目を向けるのは、ヤコブさんがヒラリー様と互角に打ち合う姿。


 ヒラリー様が手加減しているとはいえ、堂々と打ち合っている姿を見て、エカルトさんの表情が曇ります。


 もちろん秘密の練習には、グリゼルダ様の彼女の忠実な犬(?)であるヤコブさんも一緒に招きましたが、今までの経緯から、彼を姫様が呼び出すのはそれほど不自然ではありませんでしたので、こちらも疑われることもありません。


 おかげでビシバシ訓練が出来ましたので、その努力した分だけ強くなりました。

 それ以外でもヤコブさんは時間があればヒラリー様と訓練を重ねていたようで、面倒見のよい彼女も根気よく付き合ったことで、より成長したのです。


 副作用として、二人の男女の仲も少し進展したようですが。


「ヒラリー様ばかり注目しているようですが、ご覧のとおりヤコブさんとテオさんも強くなりましたのよ」


 学園の剣術の授業でも成長の一端は垣間見えたはずなのですが、レーマン侯爵家チームの皆様はハナから歯牙にもかけぬ相手とノーマークだったようで、エカルトさんのみならず、回りの方も「まさかあの二人がここまで強くなっているのか!?」と驚いているようです。


「そちらのチームの皆様の実力が如何ばかりかは存じませんが、彼らも易々と打ち負けるほど弱くはありませんので、大会に参加される方には油断して足元を掬われませんよう、くれぐれもお気を付けあそばせとお伝えください」

「う、うむ……まぁ少しは様にはなってきたようですが、優勝するのは当家以外にはありえぬ。せいぜい悪あがきするがよろしかろう」

「ええ。せいぜい悪あがきさせていただきます。エカルトさんのチームを打ち負かすくらいには……ね」

「言うだけならいくらでも言えますからね。楽しみにしておりますよ、我々と当たる前にトーナメント表から名前が消えてしまわないよう祈っております」


 エカルトさんは私の微笑みに何か含むところがあると感じたようで、一通りの強がりを言うとそそくさと退散していきました。


「何だったんですか、アイツら」

「おおかたヒラリー様の戦い方を見て弱点でも探りに来たのではないでしょうか。その実力は学園の騎士志望の生徒の中でも有名ですから」


 ヤコブさん、テオさんがエカルト一行の偵察の理由を探ると、ヒラリー様が「それで来てみたはいいけど、ヤコブくん達が予想以上に実力が付いていたから慌てていたってわけね」と付け足します。


「ヒラリーさんには色々お世話になりました」

「あの程度、どうってことないわ。ヤコブ君の手助けになったならそれでいいわ」

「大会が終わったら何かお礼をさせてください」


 ヒラリー様は礼などいらぬと言いますが、ヤコブさんがそれでは気が済まないと申しますので、少しの間考える素振りをすると、ならば美味しいご飯でもご馳走して欲しいわと提案されます。


「そんなのでいいんですか!?」

「ちゃんと美味しいお店を探しておきなさいよ」

「分りました。二人でゆっくり美味しいご飯が食べられるお店を選んでおきます!」

「ふえっ! ふたっ、ふた、ふたり!!」


 ヤコブさんの「二人で」という単語に慌てるヒラリー様ですが、個人的なお礼なのですから何も問題はありませんでしょうし、お二人とも婚約者のいない身でありますから、ちょうどいい機会ではございませんかと援護射撃させていただきます。


「うぅ……そういうことではなくて……みんなで祝勝会的なイメージだったんですが……」

「やる前から勝った後のことを考えるなどらしくありませんね」

「ケイト様まで! ホントにそう思ったんですよ!」

「はいはい、祝勝会なりお疲れ様会は別に開きますから、ヤコブさんとのお食事はそれとは別にごゆっくり楽しんでいらっしゃいな」


 ヒラリー様の性格を考えると、100%勝てるとしてもその後のことに言及するとは思えませんので、照れ隠しのために取って付けたような誤魔化しの言葉でありましょう。


 と、それを指摘しますと、違います違いますと、顔を赤くしてまるで乙女のような仕草で照れております。……ってか、ヒラリー様は乙女だから、「のような」と言っては怒られますね。こめかみ鷲掴みで私の足が宙にプラプラ浮いている画が浮かびますわ。


「ケイト様は意地悪ですね」

「何を今気付いたようなことを仰いますの。今更ですわ」

「さすがはアデル様を金髪ドリル様と呼ぶだけのことはありますね」

「それ、今関係あります?」




 訓練は厳しいけれど、オフになれば和気藹々の剣術同好会です。


「さあ、剣術大会まであと1ヶ月。このまま頑張れば優勝も夢ではないよ!」

「おう!」


 こうして訓練を通じて連帯意識も実力も高まり、私抜きでも本当に勝てる手応えをと感じてきたのですが、やはりというか何というか、そう簡単に事は運ばせてくれないようで、大会が目前に迫ってから、卑劣な妨害の魔の手が私達を襲うことになるのでした……

お読みいただきありがとうございました。

次回は7/31(土)投稿です。

よろしくお願いします。

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[一言] >一時の恋の夢 明らかにプレデターな肉食姫が一時の恋で諦めるだろうか
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