少女、恋バナで恋バラされる
ようやく学園入学でございます
入学の前日、学園生活の注意事項というか、それぞれの立場的な扱いを再確認しました。
エマとサリーは実際にアリス様の侍女として雇用されているので、その立場のままお仕えし、有事の際も基本的には彼女達が対応。
私はあくまでもアリス様の友人で、淑女教育を受けに来たただの伯爵令嬢という立場。
常日頃から敵をなぎ倒していては、さすがに警戒されるでしょうから、本当に力が必要なときが来るまでは、小柄でか弱い令嬢を演じることになった。
幸い、武芸の腕前は家族と騎士団の一部(と先日の婦女暴行未遂犯)しか知らないし、外の人間には漏れないよう隠しているので、世間的にはやんちゃな野猿だったご令嬢がようやく淑女教育に乗り出したのだなという認識であったため、それほど疑われることもないでしょう。
それに周囲を警戒するとか、誰も見ていないところで暗躍するのであれば、問題ないですしね。
さあ明日は入学式よ!
◆
「学生の妹がイタズラで制服着てきたって……そんな理由ある……ククッ…」
「8歳か9歳くらいに見えたって……いくら何でも失礼プフッ…失礼すぎますわよね…」
「不審者は絶対に入れない、守衛の鑑ですね。フフッ……」
3人とも友人が恥ずかしい思いをしたというのに、なぜ笑う……
入学式の当日、意気揚々と学園の門をくぐり、入構者を確認する守衛さんに「ごきげんよう」と挨拶したのが運の尽き。
見事に捕まりました。不審者として……
守衛に捕まる幼女の画、行く人行く人それはもう珍獣を見る目でしたわよ。朝っぱらから恥ずかしくて仕方ありません。アリス様がいなかったら入ることも出来ませんでしたわ。
「もう、笑ってないで早く会場に行きませんこと」
「フフフ…そうね。早く行かないとね」
3人の思い出し笑いが止まらないので、入学式を行う講堂に行くよう催促します。
会場の席次は前から爵位順なので、公爵家のアリス様は最前列、私がその次の列なので、後から行くと目立ってしまいます。朝から十分目立ったので、これ以上はごちそうさまです。早く行くよう急かします。
ちなみにエマとサリーは真ん中の列くらい、それより後ろはほぼ平民出身の方になります。
元々この学園は貴族子弟の通う学校でしたが、何代か前の国王の治世で広く才能ある者を集めるため、平民にも門戸を開くようになり、今では貴族と平民の比率が約半々です。
入学前の学力は、家で十分な教育を受けられる貴族の方が平均点は高いのですが、平民層の場合、成績が自分たちの進路に直結するので、在学中の成績の伸びが大きく、遊びほうけている人間は一気に置いてきぼりを食らってしまいます。
そんなわけで時々、不真面目な貴族vs真面目な平民で諍いがあったりしますが、どう考えても学業に専念しない方が悪いので、貴族の方も平民に負けないよう努力するというのが一般的ではあります。
また、クラス編成も貴族平民関係なく成績順で編成されます。
とは言っても、クラス全員が在席するのは一部の共通科目と朝夕のホームルームだけ。あとはそれぞれの専門科目を受講します。
例えばアリス様なら淑女教育ハイレベルクラスのほか、政治経済や外国語などの授業、エマやサリーは侍女としての教養、料理、裁縫、護身用の武術などになります。
私? 私はほぼアリス様と同じカリキュラムです。私も一応伯爵令嬢ですからねオホホホホ。武術は実力がバレるからダメと言われた訳じゃあありませんからね、決して。
「只今から、チャールトン王立学園の入学式を執り行います」
入学式が始まりました。
「みなさん入学おめでとうございます。生徒会長のジェームズ・トランスフィールドです」
学園長の話とか色々あってから、生徒会長であるジェームズ殿下が挨拶されます。
私が今、殿下と申し上げたように、彼こそがこのトランスフィールド王国の第一王子。つまりアリス様が婚約者候補筆頭に挙げられているお相手。現在学園の3年生。
殿下が壇上に上がると、その顔を間近で見るのは初めての平民の方も多いのか、すこしどよめきが起こります。
そうだよねー。超イケメンな上に成績も優秀。顔は知らなくても下々の方まで噂は届いてるよねー。
私も確かにカッコイイとは思いますが、さすがに相手は王子殿下。身分差を考えたら完全に観賞用ね。
「……これから1年間はここにいる者が生徒会役員を務めます」
お祝いの挨拶に続き、殿下が生徒会役員を紹介します。
殿下は生徒会長をされておりますが、一番位が高いから会長をやっているだけで、当たり前ですが普段の雑務は、役員を務める下の位の者がやっています。
その中の1人にアリス様のお兄様、オリヴァー様もいらっしゃいます。
公爵令息のオリヴァー様もここにいるほとんどの人間から見たら、殿下ほどではないが高嶺の花。
眉目秀麗で殿下にも負けないキラキラ具合から、学園では女子人気を殿下と二分する存在です。非公認ファンクラブが有るとか無いとか。
ただ、小さい頃からお世話になっているお兄さんみたいな人だから、私から見ると殿下ほど遠い存在ではないんだよね。
でも実際には公爵令息と伯爵令嬢もギリギリどうにか釣り合いが取れるかなー? くらいの立場なので、あまり調子に乗って痛い目を見ないよう自制しているつもりではあります。
ああー、でもやっぱりオリヴァー様は格好良い、カッコイイな~。(はあと)
「…………れでは新入生退場です。新入生は退場後、それぞれの教室に向かうように」
あらいけない。オリヴァー様に見とれていろんな事を考えていたら、いつの間にか式が終わってしまいましたわ。教室に戻ってみんなと合流ね。
「あんなに近くで拝見したのは初めてでしたが、やはり殿下は素敵な方ですわね」
(エマ、貴女ウチの兄といい、殿下といい、イケメンなら何でも良いのか?)
「まあな。だが我々では高貴すぎて近寄ることも恐れ多いな」
(そうよ。それが普通よ)
「えー、でもタイプかタイプじゃないで言ったら?」
「どストライク」
(サリー、オマエもか!)
「ケイト様はどう思いますか?」
「あのねえ、アリス様の婚約者になる方なのよ。私達が横恋慕してどうするのよ」
「そうよエマ、ケイトは殿下なんか眼中に無いわよ」
「アリス様、そうなんですか?」
(嫌な予感……)
「だって、ケイトはうちのオリヴァー兄様がタイプなんだもの。ね」
(ああー、何故ここでそれを言うー!)
「ええー、ケイト様ってそうなんだー!」
「ケイトったら小さい頃からお兄様がいるとモジモジしちゃってね。そんなものだからお兄様もケイトの事を猫かわいがりするのよ。実の妹が横にいるのに『ケイトの方が本当の妹みたい』とか言うんだから。ごちそうさまって感じよ」
「へえー」
「くっ、殺せ」
女騎士物の小説によくある「くっころ」をまさか言わされるとは思わなかったわ。
仲が良いのは兄妹みたいな関係だからですわよ!
「そういうわけで彼女の恋路を邪魔すると一刀両断されるから気をつけて」
「了解!」
どこの恋路街道を進んでいるというのだ?
そして、エマもサリーも何を了解したんだよオイ。
これは恋バナと見せかけて、勝手に人の恋をバラされる恋バラです。精神的慰謝料請求案件ですわ。
「お話中恐れ入ります。ラザフォード公爵令嬢とお見受けします」
私が恋バラで羞恥の渦に巻き込まれる中、男子生徒が近づいてくる気配がしまして、様子を窺うとアリス様に声をかけてきました。
アリス様は「話し中に割り込むとは無礼ですね」と言いつつ、その男子生徒が発言することを許可します。
「私、アボット子爵家の次男で騎士課程1年ロニー・アボットと申します。下位の者からのお声がけをご寛恕頂き感謝いたします」
「それで、何のご用かしら」
「はい。ラザフォード公爵令嬢様は護衛役をお付けになられていないご様子。差し出がましいとは存じますが、私であれば護衛役のお役に立てるかと思い推参いたしました」
あら、仕官の売り込みですね……
お読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。