山椒姫、兄と共に世話になる
今日はこの後予定が入っているので、いつもより少し早目の投稿です。
エンデヴァルドに到着した翌日から、早速特訓の開始です。
「まずはみんなの実力を測らせてもらおう」
ケヴ兄様が一人ずつお相手になり、各自の実力を確かめるようです。
「いきなり聖騎士殿と手合わせですか……」
「心配はいらないよ。実力を見るだけだから、ちゃんと手加減はするさ」
ああ見えて実力は本物なので、皆さんが避けられるかどうかギリギリくらいを攻めるのは朝飯前です。
「ケイトは俺と手合わせな」
「ネイ兄様と? 今更実力を測る必要ないのでは?」
「純粋に手合わせだよ。手加減無しでな」
「私だけ! 逆差別ですわ!」
殺りたくてウズウズしているネイ兄様が、早く殺ろうとせっつきます。
「ケイトと手合わせするのは2年ぶりくらいか」
「そうですわね」
「どれくらい強くなったか見せてもらおう」
「そっちこそ、聖騎士の名に泥を塗るような醜態を見せないようにしてくださいね」
「言ってくれるじゃないか!」
ネイ兄様と手合わせを始めます。
かつて兄達にしごかれていた頃、一番対戦回数が多かったのはネイ兄。
理由は単純に一番年齢が近かったから。と言っても子供の頃の5歳差は絶望レベルで覆ることのない隔たりです。
相手が剣も握ったことのない方なら、5歳差だろうと10歳差だろうと勝つ自信はありますが、相手は戦闘狂一家の遺伝子を受け継ぐ者。一筋縄では敵いません。
ただ、一番対戦回数が多いということで、兄の動きのクセは、もしかしたら私の方が上二人の兄より知っているかもしれません。
そうでもしないと勝つ糸口すら見えませんから尚更ですし、そのおかげで三人の兄のうち、私が勝てる可能性が一番高いのも彼なのです。
「お兄様、手加減! 手加減!」
「聖騎士同士の対戦で手加減するかよ!」
遠慮、なし! 妹に対する思いやり、なし! 私が聖騎士の称号を受けてしまったから、手加減してくれる理由も、なし!
「スゲえ……」
「ハイレベル過ぎる……」
ケヴ兄にさっさと撃退されたヤコブさん達がこちらの戦いを眺めています。
「はぁ……高い目標だわ」
「ヒラリー、末永く私の護衛をやってもらうんだから、こんなことでめげちゃダメよ」
「もちろん努力しますよ、アデレイド様」
少しでも技術を吸収しようと刮目するヒラリー様と発破をかけるアデル様。
「はえ〜、スゴイですわね」
「あれでもまだ、二人とも本気ではありませんよ」
「ケヴィン様、そうなのですか!?」
「あの程度で満足しているようでは、鍛え直さないといけませんね」
「ケヴィン様……カッコいい……」
グリゼルダ様はケヴ兄にレクチャーを受けてます。
ていうか、距離が近いですわ。ケヴ兄もちょっとは遠慮しなさいよ!
「貴殿の婚約者殿は、なんと言うか……スゴいな」
「私の自慢の婚約者ですよ」
「浮気なんかしたら殺されそうだね」
「私には彼女以外の女性はいりませんから、無用な心配ですよ」
ティハルト殿下とオリヴァー。
途中不穏な言葉が聞こえましたが、聞かなかったことにしましょう。
「ケイト、気が散ってるぞ!」
「うるさい! 戦いにはメリハリが必要なんです。お兄様みたいに一本調子では、崩れたら立て直せませんよ」
「誰が一本調子じゃコラァ!」
終わらん……どちらも決定打に欠けている。
打開する手立ては……
「ケイト様〜、ネイサン様〜、頑張って〜!」
「おっ! パティちゃん」
(ここだ!)
「うげっ!!」
パティの声援に、一瞬でしたが意識が全部持って行かれて、がら空きになった兄の横腹に渾身の一撃を加えます。
「勝負あり! 勝者キャサリン」
ケヴ兄様が終了を宣言します。
「お兄様まだまだですわね」
「なっ! ちょっと油断しただけだ!」
「あら〜、そのちょっとの油断が命取りと、常日頃から仰っていたのは、どこのどなたでしたっけ〜。女性の声援くらいで気を取られてはね〜」
女っ気の無いネイ兄ですから、パティの声援にデレッとしましたね。パティ、ナイスアシストですわ。
「ネイサン様ごめんなさい。私が余計な声をかけたから……」
「パティが謝ることはないわよ。油断したネイ兄様が悪い」
「悔しいがその通りだ。パティちゃんが気にすることはないよ」
気にすることはないよとフォローしますが、本格的な実戦訓練など見たこともないパティは、本気でネイ兄様のことを心配しており、手当をしましょうと言ってきます。
「大丈夫だよ。騎士団の訓練ではこれくらいの怪我いつものことだから」
「ダメです。怪我は早く治療するのが一番なんです」
女性に構われるという経験の無いネイ兄は、グイグイくるパティに若干引き気味です。
「お兄様、手当してもらいなさいな」
「この程度で?」
「お兄様が大丈夫でも、パティが気にしているんです。彼女の望みを叶えてあげるのも優しさですわ」
ここまで言ってようやく「ああそういうことか」と気付くネイ兄様。ニブチンにも程があります。
「じゃあ、パティちゃん。世話をかけるけどよろしく」
「はい。ではあちらで」
なんかイイ感じではありませんか。
いえ、決して二人をくっ付けようとは思いません。ケヴ兄とは違う意味で女性に紹介出来るような兄ではありませんので。
それに、自分で気付くなら文句は言いませんが、ニブチンですから多分無いでしょう。そこまで世話を焼くつもりはありません。
「じゃ、次は俺と殺るかケイト」
「兄二人と連戦とか地獄」
「お姉様、やっちゃってください!」
姫様、それは無理。
おおかたケヴ兄が怪我したら私が手当します! を狙っているのでしょうが、万全ですら勝ち目は薄いのに、コッチは既に一戦交えてヘロヘロなんですよ。
「それなりに打ち合った後、手加減するから適当に一撃かましてこい」
「お兄様、姫様に手当してもらいたいんですか?」
「あんなキラキラした目で期待してるのに、かわいそうじゃん。レディの期待に応えるのも騎士の務めだ」
「仕方ないですね……」
ムリムリと断るところに、ケヴ兄様がボソッとそんなことを囁いてくるので、仕方なく相手にします。本当に後でどうなっても知りませんよ。
「ネイサンに勝ったくらいで調子に乗るなよ。アイツは我ら四兄妹の中で最弱だからな」
ケヴ兄、その口上何よ。その四の中に私も入ってますけど。そういうのは四以外の方に言うセリフではありませんか?
「えっ! 俺最弱認定!?」
ネイ兄様も煩い。今負けたんだから事実でしょ。
「デカイ顔をするのは俺に勝ってからにしろ!」
(わざとらしいわー!)
仕込みありの出来レースのため、ケヴ兄様のセリフがわざとらしく聞こえてしまいます。あんまり笑わせないでください。
ってな感じで、兄弟喧嘩第二戦の始まりです。
「お兄様、手加減してくれるんじゃないんですか」
「見え見えの手加減したらバレるだろう」
確実にこちらの疲労や体力を測って、ギリギリを攻めてくるケヴ兄様。勘弁してほしいわ。
「そろそろだぞ」
「はいはい。盛大なやられっぷりをお願いしますわ」
アイコンタクトでここぞとばかりに打ちかかり、お兄様をなぎ倒します。
「おお、痛え……」
「ケヴィン様、大変! 大丈夫ですか!」
「いやー、妹に華を持たせようと思ったら、殊の外派手にやられてしまいました」
「いけません。すぐに手当をしないと」
「このくらい大丈夫ですよ」
「ダメです。私が手当をして差し上げますわ」
姫様、欲望がタダ漏れです。嬉々として怪我人に手当を申し出るのはおかしいですよ。
「それではお手間をかけますが、手当をお願い出来ますか、姫様」
「ええ、ええ、もちろんですわ」
ケヴ兄様がわざとらしくお願いすると、グリゼルダ様は兄の手を取り、こちらですと連れていきます。
だから、笑顔隠しなさい。
「ふぅ……さすがに最初から連戦はキツイわ」
「お疲れ様、ケイト」
一通り練習メニューをこなして、休憩を取っていると、オリヴァーが労いに来ました。
「さっきのケヴィン殿のやつ、わざとでしょ」
「気づきましたか?」
「君たち兄弟のことはよく見ているからね。他のみんなは気付いていないかもしれないけど、手加減していたのは分かったよ」
さすがはオリヴァー。かなりギリギリレベルの手加減でしたけど、気付いたんですね。
「とりあえず初日としては実力を見せられて良かったんじゃない」
「初日から身体バッキバキです」
「それはいけないね。僕がマッサージしてあげよう」
待ってください。ここにもいましたよ、お世話したい人が。
「これくらいの身体のケア、自分で出来ますから大丈夫ですよ」
「ケヴィン殿もネイサン殿も彼女達にお世話させたのに、僕にはやらせてくれないの?」
あ、これマズい。ワンコ化するやつですわ。
「あー急に疲れが出てきたな-。誰か優しい方にマッサージしてくれませんかねー(棒読み)」
「誰かなどと遠慮しなくても僕がやってあげるよ」
仕方ないなあと、わざとらしくお願いしてみれば、目をキラキラさせております。
やめなさい。グリゼルダ様と同じ顔をしてますよ。
「ケイト、痛くないか」
「ふぁ~、気持ちいいです」
……と、マッサージをしてもらっていますが、なんだかんだでオリヴァー上手です。
彼も騎士団長の子ですので、それなりに剣の手ほどきを受けており、身体のケア方法もよく知っております。
まあ、何より私のためにってところが重要ポイントですね(惚気)
しかし……ケヴ兄、ネイ兄に続いて私まで、よりにもよって教える側のリングリッド3兄妹が真っ先にケアを受けているとは……
私達、何しに来たんだっけ?
お読みいただきありがとうございました。
次回は7/7(水)投稿です。
また、本日短編「無邪気な王子の疑問」を投稿しました。
併せてお読みいただければ幸いです。
よろしくお願いします。




