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山椒姫、同衾する(13年ぶり2回目)

今回は最後の方だけオリヴァー視点になります。

 避暑で訪れたエンデヴァルドの街。


 街を預かる行政長官殿の話では、流れ者が森に多く入り込み、そのあおりでモンスターの出現が増えているとのこと。


「ちなみに同好会の生徒の実力はどうなんだ」

「ヒラリー様は相手が強敵であっても、防戦に努めて時間を稼ぐくらいなら問題ないと思いますが、ヤコブさんとテオさんは、まだ基本的な筋力・体力トレーニングと、基礎的な剣の振りを身に染み込ませている段階なので……」

「となると、アデル嬢やパティ嬢、グリゼルダ姫と同じく警護対象だな」


 お兄様達と警戒が必要だねという話をしていましたが、背後にこちらを見つめる熱い視線を感じます……


「はぁ~、キリッとした表情のケヴィン様も素敵ですわ……」

(姫様、顔が惚けてますわよ……)


 私達が難しい顔をして話をしているところへ、ひょっこり現われたグリゼルダ様。


 姫様は兄上とは別行動で、私達の歓迎準備を邸の皆様に指示しておられたので、先ほどの長官の話は聞いていませんでしたから、何か不都合でもあったのかと心配している……ように見えて、その実はケヴ兄様に見惚れているようですね……


「……なるほど、警戒が必要なわけですね」

「そういうことだから、あんまりあちこちフラフラするんじゃないぞ。グリー」


 長官殿との話が終わったティハルト殿下も会話に交ざります。


「私はケヴィン様がお守り頂けるので心配してませんわ。ね、ケヴィン様」

「ご信頼頂くのは光栄ですが、そんなことを言っては姫に忠誠を誓う王国の騎士達が拗ねてしまいますよ」

「そうだぞグリー。あまり我儘を言うではない」

「王国騎士団はお兄様をお守りするのが一番のお役目。私はケヴィン様にお守り頂ければそれで十分です」


 姫様が是非にもケヴ兄様に護衛をお願いしたいと言うものですから、ティハルト殿下もケヴ兄様も困っております。


「ケイト、どういうこと?」

「姫様はウチのお兄様がお好みのようですわ」

「あら〜そうなの」


 事情を知らないアデル様に説明しますと、面白そうな話じゃないとニヤついていますが、リングリッド家としては結構大事ですからね。


「殿下、姫様がお望みならば、護衛に就かせてやってはいかがですか? ケヴィン殿の実力は私やケイトが保証します」


 アデル様、私の名を勝手に保証人に連ねないでください。

 騎士としての実力は認めますが、今回は姫様の動機が不純なので、そこに関しては保証できませんよ。


「ケヴィン殿、どうする?」

「公使殿が許可するならば」

「ティハルト殿下、折角の機会なので彼にお任せ頂けないでしょうか」


 駐在武官に対する権限は、代理公使のオリヴァーが握っておりますので、彼が否と言わない以上、私が止める話ではありません。


「お兄様、グリゼルダ様をお願いしますね」

「心配するな。誰であれ、指一本触れさせぬ」

「そういうお兄様も、触れてはいけないリストに含まれてますからね」


 触れたら最後、お父様に早馬飛ばしますからねと脅しますと、ケヴ兄様はそこまで分別の無い男ではないと返してきますが、問題は向こうからグイグイ来そうな姫様です。


 醜聞が立たない程度にお願いしますよ……




「なんだよ〜姫様の護衛とか、兄上ばっかり美味しいところを持っていくなぁ」


 脇で成り行きを見守っていたネイ兄様が不満そうです。

 残念ですが兄様、これは必然です。あれですね、女性に対する気遣いが出来るか出来ないかの差ですわ。


「ネイ兄様も拗ねてないで、彼女達をしっかり警固してくださいね」


 むくれていたネイ兄様ですが、パティやヒラリー様達がよろしくお願いしますと頭を下げられると、満更でもないようです。


「ケイト様のお兄様に守って頂けるなら安心です。頼もしき騎士(ナイト)様、よろしくお願いします」

「おほっ、ナ、騎士様か〜いい響きだな。俺に任せておきなさい!」


 パティの社交辞令モリモリ口撃に、鼻の下を伸ばすネイ兄様。

 実の兄ながらチョロいな。パティはお父様が社会適応力低めな分、そういうところは世渡り上手で計算高い子だからね。




「それでグリー、皆さんをおもてなしする準備は出来ているのか?」


 話もまとまったところで、ティハルト殿下が姫様に状況を確認しますと、グリゼルダ様もそうでしたわと相槌を打ちます。


「晩餐の支度も整っております。ただ……」

「ただ? どうした、何か問題でも?」

「今更隠し立てしても仕方ないので、正直に申しますが……すみません!」


 グリゼルダ様が突然頭を下げますので、殿下も何事かと問いますと、準備した部屋の数が足らないと言います。


「私が必要な部屋数を伝え間違えていたようで……」

「空き部屋は無いのか?」

「あるにはありますが、今から支度をするとなると、時間が……」


 足りない部屋数は2つ。ティハルト殿下は、まいったな〜と頭を掻きますと、オリヴァーがならば自分は私と同部屋でも構わないと提案します。


「まだ婚前ではありますが、旅先でのアクシデントなれば、今更同衾したところで醜聞にもなりますまい」


 ちょっと! メチャクチャ平然と、サラッと、とんでもないことを言ってませんか!


 オリヴァーとは既に床を共にした仲(意味深)ではありますが、ここで同部屋ですか!


「ケイト、何をそんなに驚いている? むしろ殿下や姫様など、やむを得ずという事情をご存知の方が大勢いる方が、疚しいところがなくて良いではないか」

「ごめんなさいケイトお姉様。私の不手際でご迷惑をかけます……」


 と、グリゼルダ様に詫びられては、嫌と言うわけにもいきませんが、私は見えてしまいました。


 頭を下げる寸前、グリゼルダ様が舌をペロッと出しながらこちらにウインクしたことを……


(謀ったな、姫様……)


 部屋数を間違えるなんて初歩のミスです。彼女の性格を考えたら、むしろわざと仕向けたと考えたほうが道理がいく。


 足りないのは2部屋、1つをオリヴァーと私にあてがい、もう1つを……


「それではもう1つは私とケヴ……」

「ならば私とアデルが同室になれば解決だな」


 姫様がおずおずと提案するところへ、ティハルト殿下がアデル様と同室にすると被せてきました。


「え? イヤイヤイヤ! お兄様はダメです!」

「おいおい、オリヴァー殿とケイト嬢にはお願いしますと言っておいて、何で私はダメなんだよ」

「殿下、私と弟の二人で同室でも構いませんよ。騎士団の共同生活で相部屋は慣れてますから」

「ダメです! ケヴィン様は私と同室です!」


 姫様、やっぱりそれが目的ですね。

 だけど、護衛対象と護衛が同室は無理があるわー。


 と、みんなが感じていたようで、姫様の発言に即応して、「なんで?(ティハルト殿下)」「どうして?(アデル様)」「俺と?(ケヴ兄様)」「ダメでしょ(私)」と集中砲火を浴びて撃沈。


 グリゼルダ様、石像と化してます。

 ちょっと考えればわかりそうな展開ですが、恋をするとポンコツになるのは万国共通なのでしょうか?


「それでは部屋割はこれで。係が晩餐の案内に向かうまでは、各自部屋で寛いでいてください」


 ティハルト殿下の声かけで、石像(グリゼルダ)様は置いといて、部屋に案内されます。


(だよねー)


 案内された部屋は豪華そのもの。

 そりゃ王族が使う御用邸だもんね。立派に決まっている。


 ただなぁ……と私が目をやるのは奥の寝室。


(ベッド1つだけ。だよねー)


「ケイト、どうかしたの?」

「いやー、ベッド1つだけだなぁって」

「大きいサイズだから二人でも十分でしょ」


 オリヴァーがやけに平然としてますが、この自信というか、動じない雰囲気は何なんでしょうか?






〈オリヴァー視点〉


 グリゼルダ姫の手違いで部屋が足りないと言うので、ケイトと同室にするよう思わず口にしてしまった。


「オリヴァーくん……」

「何でしょう、ケヴィン殿」

「婚前で同衾とは随分と胆が太いねぇ……」


 あ、ちょっと怒ってます?


「これは旅先での思わぬアクシデントでございます。決して邪な考えがあってのことではありません」

「まぁそういう事にしておくよ。ただ、手出ししたら親父に殺されるから気をつけろよ」

「良く分かってますよ」


 手出ししたらさすがにマルーフ殿へ報告せざるを得ないという警告でございますね。ラザフォードの人間はそんなヘマはいたしませんよ。


 そして部屋に入ってみると、予想通りと言うか、やっぱりベッドは1つだけ。


 ケイトも気にしているが、なんとか誤魔化して晩餐会への出席も終わり、後は寝るだけだ。




 寝るだけ……なんだが、これが一番の難関になるとは思わなかった……


(寝られん……)


 隣にケイトがいると意識するだけで目が冴える。

 気になって彼女の様子を覗えば、向こうも同じようで目をパチパチしていた。


「寝られないのかい?」

「なんだか無性にドキドキしてます」

「僕もだよ。一緒に寝るのは初めてじゃないのにね」


 と、平静を装ってはいるが、前回はまだまだ子供の時代。同衾という言葉の意味すら知らず、無邪気に「一緒にねんね〜」とか言って、後で真実を知って青くなったような無知だった頃の話。


 今となってはこれがどういうものか、知らなかったら逆に神経を疑われる状況だ。


「今からそんなことじゃ、結婚したら毎日寝不足になるぞ」

「それはそうですが、落ち着かないものは落ち着きません」

「腕枕でもしてあげようか?」

「ひょっ! ひゃ、ひゃ、ひゃ()ずかしいです……」

「今更遠慮する仲でも無いだろ。ほらおいで」

「は、はい……」


 腕枕をしてあげようと、首元にそっと腕を伸ばし、彼女はおずおずと頭をもたげる。


「はぁ〜温かいです」

「寝れそうかい?」

「はい、いい夢が見られそうです」

「おやすみ、ケイト」

「おやすみなさい」


 しばらくすると、いつの間にかすうっと寝息を立てて眠りについた彼女を改めて眺めてみる。


 この一年で大きく背を伸ばしたが、それでもまだ女性にしても小柄な部類。


 彼女があれほどの戦闘力を秘めているなど、初見で誰が想像できようかという、一見したら華奢で小柄なご令嬢。


(このまま眺めるだけというのも、中々に苦痛だな……)


 我慢だそオリヴァー。紳士たれオリヴァー。決して後でマルーフ殿に怒られるのが怖いからではないぞ。


「ふにゃ……ダメですオリヴァーしゃま……」

(フォッ! 気取られた?)


 ……って、寝言か。


「ふにゅう……かわいい赤ちゃんでしゅね〜」

(おいおい……どんな夢見てるんだよ……)


 いかん……ケイトが夢の中で想像していることを想像しようとしたら、寝られなくなってしまったぞ、これは……




 翌日、理性と欲望の狭間で一晩中逡巡しまくったせいで、一睡も出来なかったオリヴァーは、キャサリンに散々心配され、他のメンツには「あぁやっぱり」と、憐れみの目を向けられるのであった。

お読みいただきありがとうございました。

次回は7/3(土)投稿です。

よろしくお願いします。

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