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山椒姫、不穏な空気を感じる

 今日からティハルト殿下、グリゼルダ姫の避暑に同行しております。


「行き先はエンデヴァルド、『最果ての森』か。およそ避暑地の名前としては想像も付かないね」


 エンデヴァルドはノルデン王国の北端、近くに多く点在する鉱山から産出する鉱物が集積し、その取引商人や鉱山関係者で賑わう街。最果てとは申しますが、あくまでも王国の「最果て」という意味であり、地の果て、辺境の地という雰囲気はありません。


 街の北に広がる森の向こうにも大地は広がっていますが、あまり肥沃な土地ではなく、居住にも適さないので、ノルデンとしては自国の領土とせず、現地に点在する集落で自給自足の生活をするいくつかの少数民族とたまに交易をするのみなんだそうです。


 とはいえ、人の手が入っていない土地なので、流れ者だったりいわくつきの犯罪者などが追っ手を逃れるため、そちら方面へ逃亡を図ることがあるそうで、国境の街であるここはかなり警備も厳重です。


 さらには街の人達も鉱山関係者が多いので、優雅な雰囲気と言うより、泥臭いというか、生活染みているという一面と、風光明媚な山や森、湖が近くに多くあり、王家の避暑地に相応しい雰囲気という異なる顔を併せ持つ街です。


 避暑をしつつ、自然を生かした武芸鍛錬が出来るので、ティハルト殿下はたいそうお気に入りなのだとか。




「知ってます? この時期は太陽が沈むことが無いそうですよ」


 白夜と言うそうです。


 南端のベルハーフェンでも、この時期は夜中と呼ばれる時間まで太陽が沈まず、真っ暗な夜というのは僅かの間しかないのですが、北端のエンデヴァルドは、夜中の間、太陽が地平線の下まで沈まないそうで、一日中、光が消えることなく空に残っており、夜通し真っ暗になることはないそうです。


 しかもお日様が空に登るのも私達が一般的に朝と呼ぶ時間よりかなり早いそうで、気がつけば空は燦々と輝いているとか。


「なので、夜寝るときはカーテン必須だそうですよ」

「へぇ……その知識はこの本に書いてあるのかな?」


 私が知ってるとちょっと威張れる豆知識を披露しておりますと、オリヴァーが席を詰めて私の横にピッタリとくっつき、手元にあった本をヒョイと取り上げます。


「もう~、知ってて聞いていたんですね」

「エヘヘ、ケイトが知らなかったら教えてあげようかなと思っていたけど、ちゃんとお勉強していたんだね。感心感心」


 そう言ってオリヴァーは私を抱きしめて頭をナデナデしてきます。


「うぅ~子供扱いしないでください」

「そんなこと言って、昔からナデナデされるの好きだって言ってたじゃないか」

「それは……嬉しいですけど……いい年なので恥ずかしいです」

「誰も見てやしないさ。馬車の手配をしてくれたグリゼルダ様に感謝だね」


 そうですね……




 今回の旅は片道約3日の行程。

 馬車に乗るのは、私とオリヴァー、ティハルト殿下とアデル様、ヒラリー様とパティの組み合わせ。


 グリゼルダ様はケヴ兄とあわよくば同乗を狙っていたようですが、兄2人は護衛役として馬に乗り、馬車の脇で警護すると言ったものですから、ショボンと1人で馬車に乗っておられます。


 出発前に「これくらい想定内よ……まだ旅は始まったばかり……慌てることはないわよ……」と、ブツブツ言っている姫様が若干怖かったです。




「何だか新婚旅行みたいだね」


 新婚旅行……そんな感覚は持ち合わせておりませんでしたが、急にドキドキするキラーワードが飛んできました!


 こんな二人きりの車内でそんなことを言われると、顔真っ赤になってしまいます。


 そんなことになれば、オリヴァーに可愛いな〜と、嵐のような頭ナデナデ攻撃を受けて、出血多量で死にますわ!


 アデル様にあんなことを言っておいて、愛の海に溺れたのはむしろ私でした! では、みすみすイジられるネタを提供するようなもので、シャレになりません。


 自重です、自重……


「ええ……そうですね。トランスフィールドに戻ってからは、ここまで遠くに来ることも中々無いでしょうからね」

「ケイトが望むならどこへでも連れて行くよ」

「ありがたいお言葉ですが、お仕事があるのも忘れないでね……」

「もちろんだよ。後でやり残して後悔しないように、たくさん思いで作りするからね」

「あはは、お手柔らかにおねがいしますね」


 どうやらこの日を楽しみに待っていたのは、グリゼルダ様に限った話ではなかったようですね……






 馬車を走らせること3日、エンデヴァルドの街に到着。滞在する郊外の御用邸にやってきました。


「風光明媚とは聞いていましたが、思っていた以上ですね」


 事前に聞いていた話では、鉱山の街なのに風光明媚と聞いていましたので、いまいちイメージが湧きませんでした。


 一般的に鉱山の街とは、もっと荒涼とした大地が広がるイメージでございましたが、ティハルト殿下が事前に仰っていたとおり、郊外には森が広がり、透き通るような水面の湖、街も穏やかな雰囲気が漂います。


「もっと殺伐としているかと思いました」

「昼間は普通の街と変わらないよ。夜になって鉱山から人が帰ってくると一変するけどね」


 ティハルト殿下の言葉に、なんとなく想像がつきます。

 騎士団と鉱山労働者。系統こそ違えど、体が資本、腕っぷしの強さが第一の荒くれ者集団というのは似ていますが、鉱山労働者は完全な雇われではなく、半ば個人事業主なので、集団的な規律という意味では騎士団よりはるかに緩い。


 そんなわけで、夜になって一変するというのは、お酒が入って彼らが度々騒ぎを起こすのが日常茶飯事になっているという意味であります。きっとベロベロになって、チョメチョメな感じになるんでしょうね。


 第二騎士団にも酒盛りで大虎になって、私の前で裸踊りを披露しやがってくださりました方がいましたね。

 そういえばあの方、後でお父様にシバかれてからしばらく見てませんが、生きていらっしゃるのかしら?


(※生きてます。領都から国境線の部隊に配置換えです。キャサリンの前で裸踊りして、マルーフの逆鱗に触れたのが原因なのは言うまでもないです)


「そんなわけだから、夜はあまり出歩かない方がいいよ」


 私自身は襲われても蹴散らすことは容易ですが、蹴散らされた方は捕まれば、私を襲った罪で首と胴がグッバイになってしまいますので、余計な揉め事を増やさないためにも、夜間の外出は控えた方が良さそうですね。




「しかし……寒いですね……」


 太陽が常に低い位置を周回しているので、方角が分からないと時間感覚が狂いそうですが、今は夕方になるちょっと前くらいのはず……なんですが、既に寒いです。ブルブル……


 トランスフィールドの人間にしてみれば、ベルハーフェンでも十分に涼しい。夜なんかは少し冷え込むなあと思うくらいの日もたまにあります。


 そこより更に北へ来たのですから当然ですが、日が落ちる前から既に寒い。って、この時期は日が落ちないのですから、どういう表現をしたらいいんでしょうか!?


「ケイト、寒いならこれを羽織るといい」


 寒くなることがあるので、羽織物を何着か用意するといいですよと、グリゼルダ様からアドバイス頂いてました。


 しかし今、それらは生憎と全部ケースの中。わざわざ出すのも面倒だと薄着で耐えておりましたが、そんな私を見かねたオリヴァーが自身の羽織物を貸してくれます。


「大丈夫ですよ、もうすぐ宿泊地に着きますから」

「遠慮するな。ここに来て体調を崩されてはいけないからね」

「ですが、今度はオリヴァーが薄着になってしまします」

「僕のことは心配しなくていいから、ほら」


 軽く押し問答のようになりましたが、最後はオリヴァーに押し切られて羽織物を自ら私の方にかけてくれます。

 クンクン、はぁ~オリヴァーの匂いですわ。体臭がすごいとかそういう意味ではありませんよ。




「殿下、遠いところ足をお運びくださり、ありがとうございます」

「長官、今年もよろしく頼むね」


 ティハルト殿下を出迎えるため、街の行政長官の方がお待ちでした。

 

「詳しい状況は時間を改めて聞くが、特に変わったことは無いかい」

「鉱山の産出量や民の暮らしぶりなどは変わっておりませんが、森の方がいささか騒がしくなっております」


 長官の話では、どうやら最近、国境を越えてきた流れ者が森の中に身を潜め、機を見て北の大地を目指すという事例が増え、そのせいで住処を荒らされたと思った森のモンスターが、街の方に姿を現すことが多くなったと言います。


「今のところ警備隊の指揮で実害は出ておりませんが、このままモンスターの出現回数が増えると……」

「民の生活に支障が出るおそれありか……」

「申し訳ありません。状況があまり良くないので、行幸はお控え頂くよう進言しようかとも思ったのですが」

「気にすることは無い。いざとなれば我々の警備に就いている騎士も動員するし、今回は頼もしい助っ人も来ているから、大丈夫だろう」


 もしかして随分と物騒なところに来てしまいました!? なんて思っていると、ネイ兄様がボソッと、助っ人って俺達のことか? と呟きます。


「だろうな。俺とネイサンと、あとはケイトの3人は助っ人枠だな」

「私も?」

「さっき国境を越える流れ者が最近増えたって言ってたろ」

「お兄様……それって、まさか……」

「確証は無いが、警戒した方がいいかもしれない。もしまさかが想像通りならば、()()が相手にならないとマズいということだ」


 だとしたらケイトも当事者の1人だからなとケヴ兄様が笑いますが、私は本職? なのでしょうか。


「聖騎士の称号を受けたんだから本職だろ」

「あー、そう言えばそうですね」


 学生の身分なので、どこかの騎士団に所属しているわけではありませんが、騎士の称号は頂いていますので、本職と言えば間違いではないですね。


 相手がモンスターなのか、人間なのかは分かりませんが、みんなの安全を守るということにも気を配らないといけないようです。

お読みいただきありがとうございました。

次回は6/30(水)投稿です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 北極圏はそら寒いわな 多分10℃を大きく超えることは稀だし
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