少女、ナニをナニする
なんか水戸黄門チックになってしまった…
※女性に対しての不快な表現があります。あらかじめご了承ください。
「私達に何か御用ですか?」
「ヒマだったらちょっと俺達と遊ばないかって声かけただけだよ」
人通りの少ない裏路地に入りしばらくして、後を付けてきた男達から声をかけられます。
アリス様を守るように囲み、警戒を緩めない私達3人。
「裏路地に入ってから遊ばないかとは怪しいわね」
エマがもっともな疑問を呈する。
「そんなに警戒するなよ。俺達第一騎士団に所属してるから身分は確かだぜ」
なるほど……騎士団の人間ね。騎士団を騙っただけかとも思いましたが、話を聞くと所属しているのは間違い無い。道理で気配を上手く消してたわ。
でもね、それは騎士団でも斥候係の任務、彼らは騎士ではない。
何も知らない街娘に騎士団の人間だと言えば、疑い無くホイホイ付いていくとでも思ったのかしら。少なくともここにいる4人は騙されませんよ。
決して斥候係をバカにしているわけではありません。彼らも大事な騎士団の一員。だけど彼らが訓練で身に付けたものは、女の子にイタズラするための力ではない。
所属が違うとはいえ、私も騎士団長の娘。騎士団の名を使って女性を食い物にする愚行を見逃すわけにはいかないので、話に乗ったフリをして鉄槌を下すことにします。
「お姉様、騎士団だって! 私達みたいな街娘が騎士の皆様とお知り合いになれるなんていいチャンスじゃない!」
「何を言ってるの、ケイト……」
アリス様が何かを言おうとしたが、現行犯で捕まえるため、姉妹の体で話を合わせるよう耳打ちする。
「うんうん、ケイトの言うとおりだね。エマもサリーも構わないでしょ」
エマもサリーも一瞬何を言っているんだという顔をしたが、私の目配せで悟ったのか、話を合わせてくれた。
「私はアリス、こっちはエマとサリー。この子は妹のケイトよ。あなた達も名前くらい教えてくれない?」
アリス様がそう言うと、男達も自分の名を名乗る。
(バカだねぇ、これからする事を考えたら名前なんか言わない方がいいのに。それとも、醜聞を避けて訴えることも出来ないとナメてるのかしら)
こちらの考えを知る由もなく、騎士団だと聞いた途端にホイホイ股を開くユルい女とでも思ったのか、男達が品定めを始めた。
「で、オマエらどの娘にする?みんな美人だからどの娘でも楽しめそうだな」
「俺はキラキラ美人のアリスちゃんだ」
「なら俺はスレンダー美人のサリーちゃん」
「じゃあ俺は小柄で可愛いエマちゃんで」
こちらの意向なんか気にもせず好き勝手に言っていると、もう1人の男から待ったがかかる。
「おい、小柄ならケイトちゃんの方がもっと小さいだろ」
「馬鹿言うな。10年もすりゃあいい女になりそうだが、今は小っちゃ過ぎて入らねえよ」
「どうすんだよ、こっちは4人、向こうは3人。1人足りねえぞ」
「だったらアリスお姉ちゃんに妹の分も頑張って2人相手してもらえよ。ついでにケイトちゃんも少し遊んであげればいい」
「ギャッハッハ! そりゃあいいや」
男達の下品過ぎる高笑いに頬がピクピクとひきつる私達。絶対こいつら初犯じゃないな。
「それで、何のお相手をしたらよろしいのかしら」
アリス様、怒りで口調がご令嬢のそれに戻ってますよ。
「はあ? 何ウブなフリしてんだよ。こんな裏路地をホイホイ平気で歩くような子が、これから何するか知らないわけないだろ」
「知らないから聞いているんですけど」
「なら、体で教えてやるよ!」
そう言って1人の男がアリス様の胸に手を伸ばすのを見逃さず、下腹部に正拳突きをお見舞いしてやると、男はその場で悶絶する。
「てめぇ、何しやがる!」
「貴男達がずっと後を付けてきていたのを気付かないとでも? 尾行が下手くそすぎますわ」
「このガキ……」
「裏路地に入ってから声をかけるのも、邪な目的からだろうとは思いましたけど、見事に婦女暴行の犯行現場いただきましたので、騎士団の面汚しを始末いたします。生かしては返しませんわよ!」
フフ、悪を成敗する決めゼリフ、決まったわ。
え……? 発言が悪役っぽい? せめて生かして衛所に突き出せ? はーい了解。
「ガキがつけあがりやがって…… 力ずくでも構わねえ、ボコボコにしてからタップリかわいがってやれ! 泣いても許さねえからな!」
「ええ、せいぜい楽しませて頂戴な!」
◆
「弱い。全然楽しくないわ」
「相手が弱いんじゃなくて、ケイトが強すぎるのよ」
戦闘はあっさりと、それはもうあっさりと終わった。
1人はエマの投げた石礫に怯んだところをサリーが背負い投げ、残りの2人は私の蹴りと鉄扇で一撃ノックアウト。
ボコボコにされた男達はエマが持っていた縄で縛られている。ってか、エマのカバンって何が入ってんの!?
「クソッ、何なんだこのガキ」
「ガキガキうるさいわね。アンタ達も騎士団員ならこの家紋見覚えはないかしら」
私は悪態を付く男達に、持っていた鉄扇を開き、刻印された紋章を見せると、1人だけそれが何を意味するのか理解したのか、口をパクパクさせている。
「第二騎士団……」
「正確には第二騎士団長の家紋。これで理解したかしら」
「どういうことだよ……」
あら嫌だわ。これでも理解できないとは……騎士団員のくせに教養が無さ過ぎですわ。
「私の名はキャサリン・リングリッド、第二騎士団長マルーフの娘、第一騎士団の聖騎士ケヴィンの妹よ。これで分かった?」
「剣聖マルーフの娘……」
「ケヴィン卿の妹……」
「まあ犯罪者として投獄されるアンタ達にはもうどうでもいい話かもね」
男達は間もなく通報を受けた騎士団員に連行された。
私達も事情聴取され身分を明かすことになりましたが、駆け付けた騎士団員もまさかその女性が国の重鎮である第一騎士団長、自分達の上司の娘とあっては、事を公にするわけにもいかず、街娘への婦女暴行未遂事件として処理されました。
男達は余罪もタップリ出てきて、長期間囚人労役を課されるようで、私達の正体がバレる恐れも無いと思います。
「ホントに襲われるとは思わなかったわ」
「まあいい訓練にはなりました」
「常在戦場の気持ちを忘れないことね」
公爵邸に戻って反省会と称したお茶会です。
「でもケイト様はさすがです。男3人を一撃でノックアウトですからね」
エマが私の手際の良さを誉めますが、そこへサリーが「何で下腹部ばっかり狙うんですか?」と答えづらい質問をしてきた。
「身長差があるから、ちょうど当てやすいのよ」
「何をですか?」
「ナニをナニするのがですよ」
男の急所を触るなど、躊躇いは無いのですかと聞かれましたが、殺られる前に殺るのが鉄則です。その辺の女の子みたいに、キャーとか言って恥ずかしがっていてはいられません。
私は既成の枠にはまらない女ですから。
お読み頂きありがとうございました。
次回、ようやく学園に入学します(展開遅くてすいません)