山椒姫、剣術を披露できる……のか!?
ノルデンでの学園生活が始まりました。
学校の制度は母国と変わらず、私、パティ、ヒラリー様は2年生、アデル様は3年生に在籍します。
この学園では学年ごとの基礎科目を除けば、選択科目は全学年合同で実施するという、トランスフィールドの学園とは違う変わったシステムで、一人だけ学年が違うアデル様と講義でご一緒する機会も多いのです。
もちろんその中で能力、学力に応じた班分けがあるので、受講内容は班ごとに違いますが、班の枠組みを超えて、その場で上級生が下級生をサポート出来るというメリットもあったりします。
「何故でしょう……ヒラリー様はガッツリ武芸や戦術の講義をお受けになるのに、私のこのカリキュラムは……何かの陰謀でしょうか?」
アデル様のカリキュラムは淑女教育と政治・経済学が半々くらい、パティは淑女教育3割、残りは薬学と鉱物学、ヒラリー様は、ほんのわずかの淑女教育を除いて、残りは剣術や軍学に全振り。
私もヒラリー様と同じようにしようかと思ったら、何故かアデル様とほぼ同じカリキュラムをすでに組まれておりました。
「陰謀じゃ無いわよ。ケイトは淑女教育のために学園に入ったのでしょう? しかも武芸に関しては、学園で訓練する必要ないとも聞いているわ」
おそらくお父様や宰相閣下の仕業ですね。
母国の学園で淑女課程だったのは、アリス様の近くに居続け、かつ、私が護衛であることをあまり悟られないようにという、半分方便です。
武芸の腕は鍛えないとすぐに鈍りますし、自己鍛錬だけでは心許ないですので、定期的に身体を動かす時間は必要だと思いますのよ。
「そんなこと言ったって、貴女もいずれ伯爵夫人になるのは確定なんだから、私やアリス様ほど深く学べとは言わないけど、履修しておいて損はないわよ」
正論です。ごもっともです。仮にも男爵位を持っているのに、政治も経済も何にも知りませんじゃ格好が付かないのは事実だし、伯爵夫人となれば同様にそれなりの知識は持っていなければなりませんが、ノルデンに来てまでやらなくてはならないとは……
「もしかして……いえ、もしかしなくても、サボる気だったんでしょ?」
「あ……あら、オホホフォ……グホッゲホッ……な、何を仰いますのやら、アデル様も人が悪いですわ」
「人が悪いも何も、『ケイトは自分の目の届かないところに行ったら、絶対にサボるはずだから、油断無く目を光らせておくように』とアリス様から申し送りされているのよ」
そんな……ひどい……濡れ衣です。アデル様がいじめるわ。
ねえ、ヒラリー様、パティ、酷いと思わない?
「え? アデル様の仰る通りです。ケイト様と手合わせしたら死人が出ますよ」
「ケイト様って、しょっちゅう予想外のことをなされるのに、これに関しては予測がつきましたよ」
おのれ……裏切り者どもめ……
「ケイト、留学して羽を伸ばそうとは思わなかったの?」
「そんな……国を代表して来ているんですよ。そんな邪な考え持っているわけがありません」
「ホントに……?」
いえ、まあ、毛の先くらいは……、いや、これくらい……、すみません、半分そう思ってました。
アデル様の圧に押し負けました。
アリス様といい、アデル様といい、将来の王妃候補ともなると勘も鋭ければ、先を見据える目もお持ちなんですね。そんなことで申し送りされていたとはキャサリン一生の不覚。
「そういうわけだから、学園の中では私とほぼ同じ講義を受けてもらいますわ」
ガッカリです。寂しくって泣けてきます。
わざわざオリヴァーと離ればなれになってこの仕打ちとは、あまりに鬼畜です。
あー、羽を伸ばしてノビノビと剣を振るうつもりでございましたのに……
「まあでも、私も悪魔じゃないし、あまりギチギチに縛るのもかわいそうだから、クラブ活動は好きにしていいわよ」
「クラブ活動……ですか?」
クラブ活動は母国の学園にもありましたが、どちらかというと平民層の方や寄宿舎で暮らす地方出身の方など、時間に余裕のある皆様が思い思いに自身の興味のある分野の学芸やスポーツなどに興じる活動でありました。
王都の邸から通う高位貴族などは、家でも勉強やレッスンのある方が多く、あまり参加されている方はおらず、私もその一人でございましたが……
「そうか! ここでは私達も寄宿舎生活ですものね」
「私は王城で学ばないといけないことが色々あるから参加出来ないけど、貴女達は興味のある活動があれば参加してみるといいんじゃない」
それはつまり、クラブ活動で思いっきり身体を動かしてこいということね!
「ということで、見学に行きたいと思います」
放課後、アデル様はティハルト殿下に連れられて王城へ向かい、パティは学術研究系の同好会を見学に行くということでひとまず別行動となり、ヒラリー様と二人でクラブ活動の見学に向かいます。
「ケイト様はやはり剣術ですね」
「もちろんです。剣術同好会という活動があるのをさっき確認しました」
募集案内は校内の掲示板に張り出されており、活動紹介だったり、見学随時歓迎とか、体験会開催などの文字が躍る、色彩あふれるポスターで新入生の目を引こうと宣伝に余念がありません。
「ケイト様と剣術の訓練が出来るなら、自分にとっても役に立ちますのでありがたいです」
ヒラリー様は最初から私に合わせてくれるつもりだったようで、剣術同好会の名前を出すと、やはりそうきましたかと納得の表情をする反面、そんな募集案内張り出されていましたっけ? と疑問に思ったようです。
「うん。すごく目立たなかった」
それはもう掲示板には他の連絡事項とかどこに貼るのよってくらい、各クラブの募集案内で埋め尽くされておりました。
どこかめぼしいところはないかなあと見ておりましたら、各クラブからの勧誘の声かけが来るわ来るわ。
私の顔と名前が一致しない上級生は、募集案内を物色している生徒がいたら、新入生かと思って声をかけてきますよね。私の背格好は新入生と言っても疑いは持たれないくらいですからね。
さすがに強引に見学に連れ出すなどの不調法をされる方はおりませんが、勧誘され続けても困りますので、とりあえずまだ決めかねているのでとやんわり断りその場から少し離れると、ありましたよ剣術同好会の募集案内が。
正規の掲示板だけじゃ足りないから、追加で掲示板代わりに使われてた端の方の壁の、一番すみーっこの方にそれはもうひっそりと、むしろ誰にも気付かれたくないのではないかと勘ぐるくらいにコッソリと貼られておりました。
「ケイト様、それ大丈夫ですか……」
「うーん、一応学園公認の同好会であるのは間違い無いんだけどね……」
不安になる理由はその募集案内。
募集案内なのに集めよう勧誘しようという意思が感じられない体裁のそれは、まず色が無い。挿絵とかカラフルな色使いは無く、黒文字単色のみ。
格闘系の活動ならば、無骨で硬派な感じを出すのにそういう手もアリですが、書かれている文字がおとなしすぎる。
太字でドーン! みたいな記載は一切無く、単純に活動内容と活動場所がつらつらと書かれたその文は、綺麗な文字の書き方講座ですか? くらいに流麗な文字だったので、剣を振るう父や兄、騎士団の皆様みたいなのが書いているのを想像していた私は、それが剣術同好会の募集なのかと二度見しましたわよ。
「活動場所もおかしくないですか?」
「普通は訓練場とかを使うと思うんだけどねえ……」
書かれていた活動場所は学園の裏山にある敷地の一角。他の運動系や武闘系のクラブは運動場や専用の訓練場があるはずなのに、それらとは完全に隔離された場所です。
「ここ、アレですね。薬学用の薬草園とか植物学用の温室、農学用の畑があるところですよね?」
「どうやらその一角の空き地を間借りしているようですね」
改めて見返して、この同好会不安しかないな……
剣術の訓練に精励するとは書いてあったが、もしかして訓練に精励するイケメン達を愛でる令嬢の会とかそういう趣旨の同好会ってことはないですよね!?
「とりあえず行ってみますか? もし肌に合わなさそうなら見送りにすればよろしいかと」
「そうですね。見てみないことには分かりませんもの」
ということで、初めて裏山に足を踏み入れることにいたしました。
果たして、私の剣術を存分に披露できる場はあるのでしょうか!?
お読み頂きありがとうございました。
次回は6/5(土)に投稿します。
よろしくお願いします。




