山椒姫、被害者の気持ちはよく分かる
「そう、それならよかったですわ……」
私達の歓迎パーティーでグリゼルダ姫に話しかけられました。
当たり障りのない挨拶をする様子は、先ほど突撃してきた人物と同一かと思うほど丁寧で落ちついた雰囲気です。
「ただ……アデレイド様のそのドレス、少々派手すぎませんかしら?」
ん? 違った。
やっぱりイチャモン付けに来たんだわ。
直接対決第一ラウンドの勃発ですか……
「そうでしょうか……姫殿下のお言葉とはいえ、紅いドレスなどそれほど珍しくもないと思いますが」
「色もデザインも珍しくはありませんが……お兄様の隣に立つには悪趣味ですわね」
グリゼルダ姫の言い分では、妃とは王を立てる立場であるから、あまり自己主張の激しい衣装では悪目立ちするのでは? と仰います。
言いたいことは分からないわけではありませんが、この場でそれを言うのは完全に意地悪小姑ではないかと思います。
「仰りたいことにも一理ございますが、本日の衣装はティハルト殿下のためでもありますのよ」
艶めかしい笑みを浮かべてアデル様が答えると、姫様はお手並み拝見とばかりに「あら、どのへんがお兄様のためなのかしら」と返してきます。
うん、女の戦いだね。
「僭越ながら、本日は留学生を歓迎する宴でございますれば、主賓は私達でございます。ましてやどういう経緯で私がノルデンへ参ったか、この場にいる者で知らぬ方はいらっしゃらないでしょう」
初顔合わせだからこそ、華やかで艶やかな衣装で着飾り、皆に妃として迎え入れる令嬢がどういう人物であるかをしっかりアピールする必要があるのです。
「私、こういう顔立ちなので、おとなしめの衣装があまり似合いませんの。イメージにそぐわない衣装で現われて、殿下に嫁ぐご令嬢はたいしたことないなと思われて、この国の恥となっては申し訳ありません」
舌好調だね。
アデル様はスタイルがいいので、似合わない服装というのは少ないと思う。
たしかに顔立ちがややキツめなので、派手な衣装の方が映えるのは間違い無いが、清楚でおとなしめの衣装であっても、それに合わせた振る舞いや表情をすることなど造作も無い。
彼女はそれができるからこそ、次期王妃に望まれているのだから。
最初に高貴な印象を与えておいて、これから先の留学期間中に、予想していない清楚で可憐な一面を見せれば、ギャップ萌え必至ですわね。
「それとも姫殿下は、私の祖国がこの国を下に見て、適当に見繕った令嬢を送り込んできたとでもお考えなのでしょうか?」
お、いつものアデル様がジワジワと顕現なされております。
この質問、はいとは言えませんよね。王族がそんなこと言ったら最後、友好ぶち壊しですものね。
さあ姫、どうなさいますか?
「ふふ、うふふふふ」
ん? 壊れたか?
「ふふ、アデレイド様失礼いたしましたわ」
グリゼルダ様がにこやかに微笑みながら、謝罪を口にします。
王族という立場から頭こそ下げはしませんが、その言葉はハッキリと非礼を詫びるものです。
「予想以上に頼もしい方で安堵いたしました。まあこの程度のイヤミ、サラッと跳ね返せるくらいでなければ、お兄様はお預け出来ませんもの」
兄君を慕っているのは事実ですが、それは敬愛という意味。
姫殿下の発言から想像するに、アデル様が王妃として相応しいか、自分の目で確かめたかったようです。
「本当に妃の地位を欲するなら、私くらい蹴落としなさいってのに、ウチの国のご令嬢達はだらしないものだから」
いずれ王となる兄君に半端な者は迎えたくないと、寄ってくるご令嬢達にキツく当たり、ふるいにかけていたらしいが、国内に姫様のお眼鏡に叶うご令嬢はいなかったようで、それならば他国から迎え入れてはと進言されたようです。
「トランスフィールドでも婚約者選びの真っ最中だったようなので、失礼ながら調べさせて頂いておりましたのよ」
うーん、ご令嬢達がだらしないと申されてますが、仮にも王女様に向かって、そうそう刃向かっていく方もいらっしゃらないですよね。
私だってアリス様やアデル様と王子妃の座を争うなんてことになれば、気後れしてしまいますわ。
それでも、結果として我が国との縁組みという結論になるあたり、よきご判断であるとは思います。
隣国であり古くから友好関係を築いている我が国が相手であれば、得られる利益は大きいものになりますので、それならばとアデレイド様のほか、アリス様やダイアナ様も調査していたようです。
妃になるのは一人だけなので、選ばれなかった方が現れるのは必然ではありますが、それらの方も然るべき身分のご令嬢ですから、縁組みをするのに不足はありません。
ただそれに関して、選に漏れた余り物を頂くという思いは一切ないということをグリゼルダ様は強調されます。
「小国とはいえ、王妃を迎え入れるのです。アデレイド様のことも十分に調べさせて頂き、その為人、迎え入れるに相応しいと陛下も判断したからこそ縁談をお願いしたのです」
「お気遣い頂きありがとうございます。姫殿下に失望されぬよう努力いたしますので、どうぞよしなに」
「ええ。正式にお義姉様と呼べる日を楽しみにしておりますわ」
ティハルト殿下に続き、こちらも良好な関係が築けそうで安心しました。
が……1つだけ気になることがあるので、発言の許可を求めます。
「貴女はたしか、リングリッド伯のご息女……ああ男爵様とお呼びしたほうがよろしいかしら」
「私の名前をご存じとは光栄です。リングリッド辺境伯の長女でキャサリンと申します。ケイトとお呼びくださいませ」
「それでケイト様、何をお聞きになりたいのかしら」
「お話させていただいた限りでは、ティハルト殿下は、いずれ王位を継いでも全く問題ないと思えるほど、優秀なお方とお見受けします」
なので、姫殿下がそこまでお心配りなさらずとも心配はいらないように思いますが、そこまで兄君の婚約者を厳選しようとなさるのは何故ですか? という素朴な疑問をぶつけてみます。
「損な性格よね。わざわざ私が首を突っ込む話じゃないんですもの」
それでも出来る限り幸せになって欲しいと願う彼女は、兄君が幸せになる条件の第一として、まずは王としての責を全うすること。
王となる以上、国の乱れては幸せになれるはずもないので、国の行く末を考え行動し、常に兄と共に歩んでいく覚悟を持った女性に妃になって欲しいと願っているとのこと。
ついでに言えば、一人の男として兄を愛してくれればなお良しということだそうです。
それは本人であったり国王陛下がお考えになることでは? と思うのですが、お節介焼きな性分なのよねと、姫殿下は笑います。
「鬱陶しいと思われているかもしれませんが、お兄様が好きなのよね」
しみじみと語る姫殿下。もちろん異性としてではなく、一人の人間として尊敬するという意味ではあります。
「そのお気持ち、よく分かりますわ」
いますよね、鬱陶しいくらいに構ってくる家族。
ウチにも若干4名ほどいます。私を除いて5人しかいない家族のうちの4名なので、若干なのかと言われると違いますかね。
自分のことを想ってくれるのは分かりますし、悪気がないのも分かりますが、悪気が無い分、始末が悪い。
さすがに姫殿下みたいに、2日も絶食籠城されるほどではないにしろ、邪険にしてショボーンとされれば罪悪感はありますので、強くも言えませんが、かと言って放置するほど心は広くありません。
一言で言うなら鬱陶しい。
なので、気持ちは分かります。
ええ……ティハルト殿下の気持ちが。
なのに何故でしょう? 姫殿下は「そうよね、分かるよね」と私の言葉に我が意を得たりとばかりに食いついてきました。
「ケイト、姫殿下は確実に誤解しているわよ」
「そうですね。私がティハルト殿下側の立場だったと言わなかったせいですね……」
この会話で一つ分かったことがあります。
事情はともかく、こんな感じでご令嬢達に当たっていたから、姫殿下友達いないですわね。
お読みいただきありがとうございました。
次回は6/2(水)投稿になります。
また、本日短編「婚約者選びは慎重に~ある王族の婚約騒動記」を投稿しました。
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