山椒姫、仲良くなれそうで安心する
「お兄様の婚約者? 笑わせないで! 貴女にお兄様は渡しません!」
ティハルト殿下とアデル様が和やかな雰囲気のところへ、突如嵐のように現れたグリゼルダ王女殿下。
(これが例のブラコン王女様か……)
こちらに来る前に話は聞いていました。
王子妃の座を狙うご令嬢は大勢いたが、一番の難関がこの妹君とどうやって折り合いを付けるかということ。
生半可な女には渡さないと常に意気込んでおり、兄に寄ってくる令嬢への当たりのキツさは、羽虫を追い払うがごとくであるという。
幼い頃こそ仲の良い兄妹だと微笑ましかったが、そろそろ婚約者を本格的に選ぶという年頃になっても、お兄様お兄様ではさすがに困るということで、最近は姫が突撃してくると、ティハルト殿下の命で即座にその場から排除されるというのがお約束になっているそうです。
ということで、今もまた護衛と侍女に連れられて自室へ強制送還されました。
「妹が迷惑をかけた」
申し訳なさそうに殿下が謝っています。
それ以前に突撃されないようにしろよと言いたいところですが、兄君のこと以外では至極まともなお姫様だし、突っかかるときも基本的にご令嬢のマナーがなっていないところを責める感じで、あながち間違ってはいないせいで微妙に面倒臭いようです。
「言ってることはもっともな部分もあるから、無碍にそれを全否定するわけにもいかなくてね。よくありがちな嫌みたらしい物言いなのは否定できないから、そういうのを毎回窘めるしかないんだよね」
殿下も苦労しているのですね。
ですが、そういうときに効果的な一言があるんですよ。
「そんなこと言ってるとお前のことキライになっちゃうよ。とでも仰れば治まるのではないですか?」
ウチにもおります。親ばかのお父様とブラコンのお兄様達。
だいたいその一言で治まるはずなんですが……
「それはすでに試したんだよね」
ああそうでしたか。やはり同じ悩みを持つ方はやることも一緒ですね。
グリゼルダ姫に関しては、それをやってしまったら、「お兄様に嫌われたら生きていけなーい!」と言って自室で飲まず食わずの籠城戦。
泣き喚きすぎて2日目の夜に脱水症状を起こし、ホントに涙も涸れてしまうという笑えない状況になってしまい、以後腫れ物に触るような扱いになってしまったそうです。
「だから婚約者が決まっていらっしゃらないのですね」
「うん。それが大きいね」
アデル様が婚約者として来ると決まり、この国のご令嬢達が一斉に手を引いたのは、国同士の決め事だからという諦めのほかに、この妹ゴミ……違う妹君が面倒臭いという理由もあるようですね。
「アイツがまた絡んでくるようなら、適当にあしらってくれて構わないし、面倒なら私にすぐ言ってくれ」
「いいんですか? そんな適当で?」
「アレもいい年だ。そろそろ降嫁先も本格的に決めなくてはいけないし、いつまでもお兄様お兄様ではな……」
アイツとかアレ呼ばわりですが、そこは実の妹。面倒臭いといいつつ心配しているのは、この方の優しさなんでしょうね。
「令嬢としてのあり方がよろしくないということで責められるのであれば、アデル様なら大丈夫かと思います」
見てください、この凜々しいお姿。頭のてっぺんから毛の先までガチガチに完璧な貴族令嬢ですよ。
「ケイト。そう言うときは、毛の先じゃなくてつま先よ。なんで髪の毛限定なのよ」
「もちろん髪の毛以外も完璧ですわ」
髪の毛とそれ以外で分ける意味が分からないと仰いますが、アデル様の金髪ドリルは完璧ですもの。
「アデルのその……髪型はこだわりがあるのかな?」
「い、いえ……結構癖毛なものですから……ムリに矯正するより、どうせならバッチリ縦ロールで巻いた方が見栄えがいいかなと思いまして……あまりこういう髪型はお好きではありませんか?」
「髪型の好き嫌いは特にないが、アデルの金髪ドリルは凄く良く似合っている。とても可愛らしくていいと思うよ」
ファッ!? ティハルト殿下、貴男は天性の女殺しですか!
あのアデル様が……赤面させながら「髪型を可愛いと言って頂くなんて初めてです。あ、ありがとうございましゅ」って、若干語尾噛んでるじゃないですか!
悪役令嬢な見た目と恋する乙女の表情。ミスマッチにもほどがありますわよ!
「ケイト、余計なこと言うんじゃないわよ」
アデル様……まだ何も言ってませんよ。
それに、赤面&ちょっと涙目でそんなこと言われても説得力がありませんわ。
それにしても……そこまでお兄様に執着するのはなんででしょうか?
ティハルト殿下は元々精悍なお顔立ちな上、ウチのお父様を尊敬するほど武芸に興味があるようなのか、鍛えられた逞しい体つき。
ウチのお兄様達と雰囲気が似ており、私的には見慣れているせいか、あまり興味はそそられません。
私にはオリヴァーがいますから(惚気)
ただ、一般的にはご令嬢がキャーキャー言う部類の男性なので、恋愛感情的な目線で兄君を見ておられるのかと思うと、少々怖いですね。
私も兄達には色々絡まれましたが、恋愛的な目線ではなく、単純に妹が心配なんだろうといった具合なので、グリゼルダ姫もお兄様のお相手が気になっているだけならば、アデル様のことをお認めになれば仲良くなれるのではと思います。
(幸い殿下とアデル様は相性悪くなさそうですし、そのうち姫様とお話しする機会でもあれば、色々情報交換してみたいですね)
そんなことを考えながら、晩餐会への出席準備を整えます。
「立食なんだ。もう少しかしこまった雰囲気だと思いました」
「形式上は留学生を迎える歓迎パーティーってところかしらね」
留学生側が必ずしも高位貴族の子弟ばかりではないことを配慮され、厳粛な晩餐会ではなく、パーティー形式で出迎えられました。
こちらの衣装もそれに合わせるよう、なるべく華やかなドレスで参加しております。
一番のメインはアデル様。
今日の衣装は背中がバッチリ開いた深紅のイブニングドレス。
ハッキリ言って、スタイルに自身のある方でなければ着てはいけない代物。
色合いもそうですが、私が着たら完全に印象がドレスに全部持っていかれるパターンですが、アデル様にはこれしかない! というくらいお似合いです。
「もしかして褒めてる?」
「もしかしなくても褒めてます」
背が高くスラッとしており、顔立ちがややキツめのアデル様が着ると、なんと言うか、まあ一言で似合いすぎ。妖艶で華やかで、今日の主役ですよ。
アデル様を見るのはこの場が初めてという方も多いので、ファーストインパクトとして「この方が未来の国母だぞ」という印象を植え付けるには十分ですね。
「私もいつかそういうドレスが似合うようになりたいです」
「今ならいけるんじゃない?」
「1年前のチンチクリンに比べれば、だいぶ様にはなってきましたが、今日はアデル様を印象付けるためですから、私が派手にするわけにはいきません」
そんなわけで、私や他のみんなは無難におとなしめの色合いでまとめております。
「本日は歓迎の宴を開いて頂き、誠にありがとうございます。今後ますます両国の友好が深まるよう、この留学が実りあるものとしたいと願っておりますので、よろしくお願いします」
会場に入ってしばらくすると、王室のご一家も入場され、国王陛下の挨拶と、留学生を代表してアデル様が挨拶を行い、パーティーが始まります。
「ご挨拶よろしいですかな。私、王国で……」
「お目にかかれて光栄です。私……」
「ティハルト殿下の印象はいかがですかな。殿下は……」
パーティーが始まるや、ノルデンの名だたる貴族の皆様が引きも切らさず挨拶にやってきます。
アデル様が未来の王妃として迎えられるという話は、公然の事実として流れておりますので、当然と言えば当然。
用意された料理に舌鼓を打ち、楽しい時間を過ごす……だけではありませんよね。
「丁重なご挨拶痛み入ります」
アデル様は嫌な顔一つせず、挨拶に来る方に笑みを絶やさず対応しています。
こういうところに高位貴族の令嬢として教育された成果がハッキリと示されており、改めてタダの悪役令嬢ではないと敬服しますわ。
「そういうケイトもしっかり対応しているじゃない」
「そりゃあ立場上、母国を代表してこの場にいるわけですから」
挨拶に来るのはアデル様目当てかと思いましたら、ことのほか私にも挨拶する方が多いのです。
最初こそアデル様のついでみたいな感じの方もいましたが、私がリングリッドの娘と知るや、丁重な挨拶をする方が増えました。
大体はお父様の武勇伝絡み。
一人で千人を討ち取ったとか、一睨みで敵軍が釘付けになったとか、かなり誇張されてますが、身内を褒められるのは悪い気分ではありません。
が……息子を紹介するのはやめてください……
確かにオリヴァーと婚約したのは最近の話なので、ここまで情報が伝わっていないのは仕方ない。
婚約済みのご令嬢が、わざわざ隣国に留学してくるというのが考えにくいのも分かる。
だけど一々断るのも面倒。儀礼的な挨拶が出来ないわけじゃないけど、得意でもないのよ。
「表情筋が痙攣起こしそうですわ……」
「伯爵夫人になるんだから、いい加減慣れなさいよ」
「これも勉強ですね」
「そういうことよ」
「皆様、お楽しみいただいているかしら?」
挨拶が一段落したところでグリゼルダ姫がお越しになりました。
「これは姫殿下。お陰様で皆様にもよくしていただいておりますわ」
「そう、それならよかったですわ……ただ……」
ん? これは直接対決第一ラウンドの勃発でしょうか……
お読みいただきありがとうございました。
次回は5/29(土)投稿です。
よろしくお願いします。




