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山椒姫、尖った屋根の国で尖ったお姫様に遭遇する

 王都チャールトンを出発して8日。ようやくノルデンの都、ベルハーフェンに到着です。

 普段よりゆっくりと移動したこともありますが、故郷に帰る道のりの倍以上の時間ですからね。世界は広いですわ。


「こっちの町並みは私達の国とだいぶ違いますね」


 まず私達は王城へと向かっておりますが、通りに並ぶ建物が特徴的。

 何がと申しますと、黄色やピンク、オレンジなどの明るい色で塗装された外壁と、これでもかというくらい急な傾斜を付けた屋根が通りの両側に立ち並んでいるのです。

 お住まいの方も尖った方が多いのかしら?


「ノルデンの冬は長いからね」


 ここノルデンはトランスフィールドの北に位置しており、国全体で降雪量の多い地域なのです。

 国土の南に位置し、不凍港を擁するここベルハーフェンは比較的温暖な地だそうですが、それでも多いときは膝の高さくらいまで雪が積もることもあるそうで、日照時間の短い冬の間は、街全体が陰鬱な空気に包まれやすいので、建物だけでも明るい色にしておかないと気が滅入ってしまうという事情があるそうです。

 また、尖った屋根も積もった雪が屋根に貯まらず、すぐ下に落ちるような工夫なんだそうです。


 トランスフィールドでも降雪地帯はありますが、そこまで積もる地域となると、高山にでも上らないとお目にかかれません。


 高山……フィル兄様に連れて行かれた冬山登山訓練……

 やめよう、あれはマジで死ぬ。雪に埋もれて本気で死ぬかと思ったわ。


「逆に夏は日の沈まない地域が北の方にあるらしいわよ」

「へえ~、それは寝付きが悪そうだ……それにしてもアデル様はよくご存じですね」

「そりゃこの国の王妃になるって話で来ているんだから、それくらいは知ってて当然でしょ」


 そうでしたね。そのための留学ですものね。

 ちなみに長い付き合いになりそうだということで、留学に向かう途上、アデレイド様から普段は愛称のアデルで構わないと許可を頂いております。


「ちなみに寒さには強い方なんですか?」

「うーん、そればっかりは慣れるしかないわよね」


 寒さに慣れる……寒さに慣れる……凍っても平気……


「言っておくけど、この(ドリル)は凍っても武器にはならないからね」

「まだ何も言ってませんよ」

「言いそうな顔していたわ」


 アリス様といいアデル様といい、私の扱いが雑ですわ。


「毎回真面目に貴女の相手をしていると、疲れてしまうもの」


 じゃあなんで連れてきたのよ……


「見知らぬ異国の地、気心の知れた人間だけのときは、私も楽にしていたいからね。ただ、いざというときは頼りにするわ」

「了解です」


 そのうち馬車は王城へ到着し、国王陛下との謁見の儀に臨みます。






「何もしていないのに肩って凝るものなの?」


 陛下との謁見が終わりまして、私が「はあくたびれた~」と言いながら、肩を回したり首を左右に曲げたりしているのを、アデル様が不思議そうに見ています。


 夜には晩餐会が開かれるということで、今は準備を兼ねて控え室で休憩中。

 今くらいはリラックスさせてもらわないとやってられません。


 留学生の代表として謁見に臨んだのはアデル様と私。本来留学生ごときが謁見などおこがましいのですが、今回は事情ありの留学なので、先方からの申し出で実施されたもの。


 陛下に取ってみれば義娘になるであろう方ですから、彼女が謁見するのは分かる。しかし、何故私まで一緒なのですか?


「男爵様だもの」

「そうなんですけどね……」


 爵位こそ低いが、男爵だって立派な貴族の一員。

 国として正式に招待した相手が貴族家の当主であれば、爵位を問わず賓客として遇するのが常識ですし、ついでに謁見させておけば双方メンツが立つというところなのでしょう。


 自慢じゃありませんが、ああいう場は私には不向きです。ついでくらいに思っているなら、呼ばなくてもよかったのにと個人的には思っています。


「だから爵位なんていらなかったのに」

「しょうがないわよ、救国の英雄、山椒姫様だもの。今ならただの令嬢の私より公式の地位は上なんだから。謁見しないわけにはいかないでしょ」


 そんなことをブーブー文句垂れしておりましたら、ドアをノックする音がしましたので、アデル様が入室を許可しますと、ティハルト殿下の執事と名乗る、いかにも仕事が出来そうな初老の男性が、殿下がお呼びであると伝えに来ました。


「殿下が? 先ほど謁見の場でお会いしたばかりですが」

「晩餐会まで時間もございますので、お話をできればと。お越し頂いたばかりでお疲れとは存じますが、ご足労願えませんでしょうか」

「私一人ですか」

「いえ、リングリッド男爵様にもお目にかかりたいと申しておりますれば、ご一緒に」


 一応本人了承という形を取るために、アデル様からどうする? と聞かれますが、王子の申し出を断るわけにいきませんので、首肯して殿下の私室へと案内されます。




「ようこそ参られた。お疲れのところ呼び立ててすまない」

「ティハルト殿下。改めまして、トランスフィールド王国クイントン侯爵家の長女、アデレイドでございます」

「アデレイド嬢、今は私的な時間ゆえ堅苦しいのはよそう。気楽にハルトと呼んでもらって構わない」

「では私もアデルとお呼びください」


 ティハルト殿下は現在この国の学院に通う2年生。アデレイド様が一つ年上の姉さん女房になります。


 プラチナブロンドの髪は短く刈り込まれ、鍛えた体つきをしているせいか、あまり王子様という雰囲気は感じませんが、その言葉遣いや態度からは、なるほどさすがに王族としての教育をキチンと受けているなということがよく分かる仕草です。


「ご挨拶がおくれました。同じく男爵、キャサリン・リングリッドでございます」


 私も続けて挨拶をしますが、公式には男爵として名乗りをしないといけないので、むず痒いったらありゃしません。


「そうか、貴女がかのマルーフ卿の……卿にもお会い出来て光栄だ」


 殿下はどうやら剣術に造詣が深いようで、お父様の武勇伝を伝え聞き、武人の鑑と褒め称え、いつか会いたいものだと仰っております。


 そして、その娘である私に対しても、下にも置かない態度で接して頂いておりますが、爵位持ちとして遇されるのは慣れないし、なによりむず痒くてそのうち全身に湿疹が出来そうなので、気軽にケイトとお呼び頂くようお願いしました。


「来て早々で申し訳ないが、明日から数日間は学院以外にも色々と案内をすることになる。私が案内するので心配はいりません」

「殿下自らとは……お忙しいでしょうに……」 

「いやいや、アデルとは婚約者となるのだ。私がエスコートせぬわけにはいかないでしょう。それに政略結婚とは言え、出来れば幸せな暮らしをしたいと望んでいるので、早くお互いのことを知るために、積極的に交流したいと思っています。もちろん、アデルが嫌でなければですが」


 ノルデン側からの要請で結ばれる縁組みですから、相応の扱いをされるであろうことは想像に難くありませんでした。


 が、殿下の真摯な姿勢は予想を上回るものです。

 我が国への気遣いもあるのでしょうが、政略結婚の意味も理解せず、どこの誰とも知らぬ女と仲良くする気は無い! と言ってぶち壊しにする残念な王子の話は過去から腐るほどありますので、ティハルト殿下の様子からは、それは杞憂であると感じられます。


「殿下のお心配り感謝いたしますわ。私も婚約者として相応しいよう精進いたします」

「アデル、来たばかりで緊張しているかもしれないが、ハルトと呼んでおくれ」

「い、いきなりですわね……」

「言わなければ慣れることも出来ないからね。遠慮無く呼んでおくれ」

「では……ハ……ハルト様……」

「ふふ、君のような美しいご令嬢が婚約者として来てくれて、私も嬉しいよ」


 やるねー殿下、あのアデル様が照れて、顔を真っ赤にさせてる。

 これ、母国のみんなに話しても「ウソだー!」って信じてくれないわよ。


(ただなあ……やるなら私のいないところで頼みますよ……)


「それでは邪魔者はこのへんで……後は若いお二人だけで……」


 どさくさに紛れて逃げようとしましたが、間髪入れずに「お見合いの仲介人かよ」というアデル様の鋭いツッコミで逃げ場を失われてしまいました。


「ハルト様、ケイトがいたたまれないようなので、その辺でご勘弁頂けますか」

「すまない。気が急いてしまったようだな」

(ウソだー! アデル様ったら自分がいたたまれないのを人のせいにしてー!)




 そんな感じで好感触な初対面でございましたが、なにやら外が騒がしいです。


「お兄様はそちらにいらっしゃるのね!」

「姫様なりませぬ! ご来客中でございますよ!」

「うるさーい!」


 騒がしい声の主がこちらの部屋に近づいてくる気配を感じますと、バンッと大きな音を立てて入口のドアが開き、そこにはフリフリのドレスを身にまとった1人の少女が鬼の形相で立っております。


 年の頃も背丈も私と同じくらいでしょうか。大きく違うのはその胸部。

 私は異国の地でも格差社会の闇を見せられるのですか!


「お兄様~!」


 殿下をお兄様と呼ぶその少女は、鬼の形相が一瞬で蕩けたような笑顔に変わり、嬉々として抱きつこうと飛びつきますが、慣れた動きで殿下はそれをヒラリとかわすと、その少女を一喝し止められなかった護衛や侍女を「何やってんだよ」といった表情で睨み付けます。


「グリー! 許しもなく勝手に入ってくるとは客人に失礼だろ!」

「だって~、謁見の場には参加出来ないし、私もお兄様の婚約者という方に早くお会いしたかったんです~」

「アデル、ケイト、すまない。コイツは私の妹でグリゼルダだ」


 少女の名前はノルデンの第4王女グリゼルダ姫。ティハルト殿下の異母妹だそうです。


 彼女は兄のコイツ扱いに不服そうではありましたが、私達に挨拶をします。見事なカーテシーを披露するその姿は、決して教養の無いボンクラ王女には見えませんが、どうして怒られるのを覚悟で突撃してきたのでしょうか?


「貴女がクイントン侯爵令嬢様ね……」


 挨拶もそこそこにツカツカと歩み寄る王女様がアデル様の目の前に立つと、ビシッと指を向けこう宣言します。


「お兄様の婚約者? 笑わせないで! 貴女にお兄様は渡しません!」


 なんだ……ただのブラコン王女様か……

 やはりこの国は、尖った方が多いのかしら?

お読みいただきありがとうございました。

次回は水曜日投稿です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] おお、飛び切りのバカ王女だ どうやって渡さないつもりだろうね まかり間違ってそれが成功したら色々どうなるか考えないのだろうか ちゃんと教育されてる?
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