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山椒姫、心得を説く

〈王都のリングリッド邸〉


「留学に行ってこいと?」

「今回の留学は王国としても大事な話だ。それにアデレイド嬢たっての頼みとあれば、行かぬわけにもいかないだろう」


 快く私を留学に送り出すという話に、どういう風の吹き回しなのかと、邸に戻ってお父様に真意を問いつめます。


 というか、理由は分かってはいるんですが、お父様に釘を刺しておかないといけないのです。


「一年くらい会えなくても寂しくなどはない。そう仰ったんですね」

「うむ。お前も早晩嫁に出るのだ、いつまでも子離れできんのでは、示しが付かないからな」


 もっともらしいことを言っておりますが、あまりにも()()()()()()()()()、逆に怪しいです。


「夏休みに領地に帰ったときは、たった数ヶ月だったのに、『ケイトはいつ帰ってくるんだ』と、私の帰りを今か今かと待ちかまえていたと、お母様から聞いておりますが?」

「そのときと今とでは状況が違う」


 ええそうですね。状況が違いますね。ですが、だからこそ危険なのです。


「お父様のお考えはよく分かりました。ですが、本当に寂しくはありませんね?」

「そんなこと言って、実はケイトの方が寂しかったりするのか? なんだかんだ言って、ケイトはパパ大好きっ子だもんな」


 えーと、そんなことを言った記憶は前世に遡ってもありませんが?


「いえね、お父様が寂しくない理由が、もし彼女にあるのならば……それは大きな間違いだと申し上げたいのですよ」

「何の話だ?」


 とぼけても無駄ですわよ。


「既に彼女を養女に迎え入れる件、了承された話は伺っております。まさかとは思いますが……私がいなくなる代わりに彼女を……というお考えならば、お父様の神経を疑いますわ」


 私を普通の令嬢のように育てて可愛がれなかったからって、代わりにというのはお門違いです。


「どうせ、実の父と思って遠慮なく『パパ』と呼んでいいんだよ。とか言って、無理やりパパ呼びさせてるんですよね」


 お父様、何故それを知っていると顔に出てますよ。

 直接見聞きしたわけではありませんが、それくらい分かります。戦場では相手に手の内を一切悟らせない思考の持ち主でありますのに、こういう時はどうしてこうまでも分かりやすいのでしょうか。


「そうやって馴れ馴れしくして、嫌われても知りませんよ」

「そんなことはない! あの子も本当の家族みたいだと喜んでおる。ケヴィンもネイサンも可愛い妹が出来たと喜んでおるわ!」


 へー、ほー、ふーん。ケヴ兄もネイ兄もすでに落とされているのですね。随分と易い城門ですこと。

 いや、ハナから守る気も無く、城門を開放していたのかもしれませんね。


「つまり私はもういらない子扱いと言うことですね」

「どうしたらそういう結論になる?」


 どういう結論も何も、あの子を愛でるから私がしばらく家を離れても問題ないということですよね。




「父上、只今戻りました……って、なんだケイトも帰っていたのか」

「お帰りなさいませケヴ兄様、ネイ兄様。なんだとはひどい言い方ですね」

「いやそのあれだ……留学の準備で色々と忙しいのかなと思ったので、まさかここで会うとは思わなかっただけだ」

 

 すでにお兄様達の中でも留学は既定路線なんですね。


「お父様、只今戻りました」

「おう、お帰り~」

「お帰りなさい。リリア」

「ケイト様!」


 二人の兄と買い物にでも出かけていたのでしょうか。リリアちゃんが一緒に帰ってきました。

 いえ、今はリリアちゃんではありませんね。


「リリーディア、私達はもう姉妹なのですから、ケイト様呼びはもうやめなさい」

「あっ! そうですよねお姉様」


 薄々お気づきの方もいたかと思いますが、我が家の養女となり、新しく家族の一員になりましたのは……そう、ベルニスタの元王女、リリーディア様です。


 元王女とは言いますが、王女だという事実は一度も公になった事は無く、例の一件の調査過程でそれを聞いた私達や王家の皆様の一部のみが知る情報です。


 また、ベルニスタも彼女が王族であることを認めはしないでしょう。

 

 すでに隠世との関係は諸国の知るところとなっていますが、当のベルニスタは第3王子が頭目であったにもかかわらず、未だに関与を否定しており、王女に身分を偽らせ、犯罪組織に荷担させていたという事実が加われば、人非人の大悪党と、よりその名声(?)が大陸中に鳴り響くこと請け合い。


 トランスフィールド王国が不当に王女を拘束していると彼らが言い出せば、彼女の出自に話が至りますので、彼らがそのことを口に出す心配は無く、むしろ暗殺で口を封じる可能性の方が怖いです。


 雑伎団にいては身の安全が保証されないので、我が国が彼女を保護することにしたのですが、問題はその扱いです。


 王家が直接介入して保護しても、ただの平民の少女を何故王家がといらぬ憶測を招くおそれはあるが、ベルニスタに対する切り札として手元には置いておきたい。


「そこで白羽の矢が立ったのがリングリッド辺境伯家……ということですね」


 私にそっくりで、なんだかんだでアリス様やみんなとも仲良しな彼女。


 娘が嫁ぐことになり寂しい辺境伯が、他人とは思えないリリアを養女に迎え入れたという、トンデモ理論。


 ただ、彼女を守るという意味では、当家の養女になるのはうってつけではあります。雑伎団の皆様もリリアの幸せのためにもいい話だと、笑顔で送り出してくれました。


 真実を知らない貴族達は、まさかあのマルーフ卿にそんな一面があったとはと驚いているようですが、他家のやることですから大きな支障もなく養女の話は承認されました。


「だからこそワシは彼女を溺愛するように見せねばならん」

「嫌々やっているという口ぶりの割に楽しそうですが?」


 疑惑の目を向ける私に、気のせいだとうそぶくお父様。

 そんなんだから、余計な疑いを招くんですよ。


 養女の話は無事に承認されたものの、ただ一点、根も葉もない風聞が流れました。


「あまりベタベタしすぎると、隠し子疑惑が再燃しますわよ」

「その話はやめろ! お前の母を説得するのも大変だったんだぞ!」


 あまりにもリリアを猫かわいがりするものだから、事実を知らない者の中には「実は彼女はマルーフ卿の隠し子なのでは?」と噂する者もいたのです。


「知ってますよ。『ケイトとそっくりかもしれんが、アイツの外見はお前の遺伝、中身はワシの遺伝だ。ワシの遺伝で見た目があんなにそっくりになるわけがないだろう!』と仰ったんですよね」


 肉を切らせて骨を断つ、お父様捨て身の説得ですわね。


「ああそうだよ。みんなして『言われてみればそうだよね』みたいな顔してさー!」


 そんなにしょげないでください。お父様はワイルドで筋骨隆々な格好いいイケおじですよ。


「ただ、私みたいな可愛い娘が生まれてきそうな顔には見えないと思われているだけです」

「お前までそんなこと言うのか~!」

「お姉様、お父様をあまり責めないでください」

「リリア~、お前はなんていい子なんだ~。実の娘より可愛いぞ~」


 どんだけ溺愛したいのよこの人…… 


「リリア、私は一緒に居てあげられないけど、この人に変なことされたら、持ってるその剣でグサッと殺っちゃっていいからね」

「はい!」


 リリアの元気な返事に、お父様はいきなりなんてことを言い出すんだ! と言っておりますが、彼女が手にしているのは明らかに……


「リリア、その剣買ってもらったんでしょ?」

「はい! お兄様達に私の体格でも使いやすい剣を見立てて頂いたんです!」 


 手にしているのはショートソード。貴族が儀礼や装飾用に用いるような、ゴテゴテした飾りや宝石は一切無く、単純に人を斬ることを第一義とする装備品です。


 既製品ではありますが、お兄様達が選んだだけあって彼女の体格に合ったサイズで、切れ味や耐久性も十分に備えた業物のようですね。


「ケヴィン! ネイサン! オマエら何でそんな物騒な物を買い与えた!」

「父上、リリアは武芸の才がありますぞ。剣術を習っておらぬのに中々の剣裁き、本人も本格的に習いたいと申しますゆえ、扱いやすい剣をと買い与えたまでのこと」

 

 彼女は身体能力も高いし、刃物を扱うのもお手の物。呪術にかけられたまま訓練を受けていた可能性はありますが、その状態でも十分強い。本格的な手ほどきを受ければ私以上に強くなるかも……


 お父様とは違った意味で、お兄様達がリリアに惚れ込んだ理由ですね。

 

 ただ……脳筋兄達よ。妹は鍛えてやる存在と勘違いしていないか……お姉ちゃんはそれだけが心配だよ。


「お父様、私がお兄様達にお願いしたのです。私もお姉様みたいに強くなりたいんです!」

「いや……しかし……」

「お父様。血のつながりは無くても、リリアも辺境伯家の子なのです。着飾って愛でる野望は諦めた方がよろしいかと。私、お父様が無理やり彼女を着飾らせるようなマネをして、嫌われないか心配で戻って参りましたのよ」

「ええ~そんなぁ~」


 父よ、諦めろ……


「リリア、私が言うことでも無いけど、武芸の道は厳しいわよ」

「はい!」

「リングリッドの剣は誰かを殺すための物じゃない。誰かを守るために振るうものよ。分かる?」

「もちろんです!」


 呪術による洗脳が解けた後、彼女は記憶に無い過去の自分の行いに苦悩しておりました。


 当初は犯罪者として処罰する声もありましたが、操られていただけという情状酌量の余地があることや、彼女の出自などから、当家で預かることで身分を保障するということになりました。


 リリアはこの処遇に感謝することしきりで、何か自分が役に立てることはと模索した結果、騎士の道を進むことを決めたのです。


「正しい力の使い方、お兄様達によく教わるのよ。怪我、特に顔だけは傷が残らないように気をつけるのよ」

「はい。お姉様も異国の地での生活、お体には気をつけでくださいね」


 こうしてしばらくの準備期間の後、ノルデンへ向けて出発することになるのでした。



 ◆



「ワシの夢……」

「父上、諦めてください」

「可愛いのに……綺麗なドレスが似合うのに……」

「父上、リリアにまで『お父様なんかキライ!』って言われたくないですよね?」

「ならば……今からオマエらを鍛え直す!」

「は?」「何を仰る!」

「何を仰るではない! 大事な大事なリリアを育てるのだぞ、オマエらが指導を行うに値するか、今からワシの目で確かめてやる!」

「一応俺達聖騎士ですよ!」

「知るか! オマエらだけリリアと仲良くなろうなんてワシは許さんぞー!」

「ええ~とばっちり~!」

「完全に流れ矢だよ~!」

お読みいただきありがとうございました。

次回は土曜日に投稿します。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 美人女性騎士姉妹が爆誕か 素早い動きから剣を打ち合うことなく首を刈るタイプになったりするのかな
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