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山椒姫、ご指名される

<話は少し前に遡る>


 学園の卒業式で殿下とオリヴァーを見送ってから数日後、私は宰相府に呼ばれました。

 応接室に通されると、集められたのは私、アデレイド様、ヒラリー様、パティとそれぞれのお父様達。


 私はお父様ではなく、エドガーのおじさまが代わりに来ています。

 遠くない未来にお義父様となる方ですので、問題はないでしょうが、何故お父様は来ないのでしょうか?




「留学ですか?」

「急な話で申し訳ないが、是非にと頼まれてね」


 話の主は宰相クイントン侯爵閣下。アデレイド様のお父上です。


 かなり突然の話ですね。そういうのはかなり前から計画されて打診されるものかと思っておりました。


 そして、私が留学のメンバーに選ばれると言うことは……


「行先はベルニスタですか!」

「ケイト、それは世間一般では留学ではなく、殴り込みと言うのだ」


 おじさまの気の抜けたツッコミにめげることなく、宰相閣下が話を続けます。


 留学先は同盟国ノルデン。

 この前の騒動もありましたし、仮想敵国(ベルニスタ)への警戒を緩めることなく、緊密な連携をアピールする一環といったところでしょうか。


「いいねえ、察しの良い子はありがたい。話が早くて助かるよ」


 宰相閣下は、さらにもう一段階踏み込んだ連携を取ることが真の狙いであると申します。


「交換留学で友好を深めるのも必要だが、今回の一番の目的は縁組みによる両国の橋渡しだ」

「縁組み?」


 一番強固な同盟、それは政略結婚。


「誰と誰がですか?」

「ノルデンのティハルト第一王子と、ウチのアデレイドだ」


 クイントン侯爵の祖母は、現ノルデン王の祖父の妹だそうで、又従兄弟の関係にあたる。

 今回名前の挙がった二人は親族と言うには遠いが、我が国の中では一番ノルデンと関わりの深い家なのです。


 しかも現在は婚約者のいないフリーの身。父は宰相を務める侯爵家の娘。言い方は失礼ですが、優良物件です。我が国と繋がりを深めたいノルデンが是非にと望んでも不思議ではありません。


「ティハルト王子には婚約者はいらっしゃらないのですか?」

「ジェームズ殿下と似たような状況と言えば分かるかな?」


 ティハルト王子は現在、ノルデンの学園に通う2年生。私と同い年。

 ジェームズ殿下と状況が似ているということは、現時点では候補はいるが、特定の誰かに決めてはいないということ。


「私が呼ばれたのはつまり、アリス様の時と同じようにアデレイド様の身辺を……」


 私の推測に、宰相閣下はあまりその心配は無いかなと否定されます。


「殿下の婚約者の座を狙っていたご令嬢本人には、割り切れない思いを持つ者もいるかもしれないが、国家のことを考えれば、ここで退くのが最善と考えるであろう。よって、切った張ったの事態にはならんと思うよ」

「では、私が同行する必要は……無いのでは?」

「付いて来れるご令嬢の候補がほとんどいないのよ」


 疑問に答えたのはアデレイド様。

 彼女が私を同行させるよう申し出たと言うのです。


 王権派の失墜により、貴族派と武官派が多く取り立てられ、中には本家を継げない次男三男の方もいて、独身の方も大勢いるそうで、世は空前の婚活ブーム。


「というわけで私と一緒に居た子達も、主だった子はみーんな婚約者捜しで忙しいのよ」


 その忙しい子の中に、オリヴァーを狙っていたあの伯爵令嬢様なんかも含まれているそうです。




「ヒラリー様はよろしいんですか?」

「私は……当分そういう気にはなれないかな……気分転換じゃないけど、環境を変えるのも1つの手かなと思いましてね」


 寂しそうに笑うヒラリー様。

 まだ心の傷は癒えていないのでしょうけど、アデレイド様と共にノルデンへ向かい、そのままお仕えし続け、彼の地に骨を埋める覚悟なのかもしれません。

 それはヒラリー様のお父上も了承しているとのこと。


「パティは?」

「私は平民みたいなものですし、研究の道に進もうかなと」


 例の一件でヒラリー様を治療した後、しばらくクイントン侯爵家の庇護下にあったこともあり、パティはその才を随分と侯爵家に買われているようで、ノルデンには薬学の他にもう1つ、彼女が興味があるという鉱物学の研究に向かいたいとのことで、留学生の一員に推挙されたそうです。


「それにお父様には少し反省してもらわないといけませんから」

「パティ……それを言うなよ」


 娘に責められて頭を掻くことしきりのパティのお父様。

 はい。毒殺騒ぎの時に行方が分からなかった、アカデミー随一の薬師様です。


 あの時は王権派に謀殺されたとか、監禁されたとか、その身が案じられたのですが、実際のところは……


「行先も知らせず、アッチコッチを歩き回っていたとか……信じらんない!」

「研究の材料があちこちに点在していたからな。あんな魅惑の地に俺を送り込んだのが間違いだ」


 このお父様、パティの言うとおりホントに研究バカなんですね。

 彼の旅は、毒殺を邪魔されないようにしたいが、殺したとか監禁したとかで、計画前に行方が分からなくなって疑われることのないよう、一時的に彼を国外へ追い出すというアカデミー(=王権派)の計画でした。


 目論見通り、彼は連絡もなおざりにして研究に没頭……したまではいいが、予想外にアクティブで新しい研究対象が見つかれば、誰に言うでもなく今日は北、明日は南とアッチコッチを渡り歩き、ついには王権派の監視の目が追いつかなくなったという。


 これが、彼の行方が分からなかった真相だ。

 

「手紙の1つもよこさないで、ケロッとした顔で帰ってくるや『あれ? 何かあった?』じゃないですよ! こっちがどれだけ心配したと思ってるんですか!」


 怒りの収まらないパティは、だったら私も留学してくる! 手紙なんか一切送らないからと言ってこの話を受けたらしい。

 

 お父様、さすがに困っていますが、自分がやったことを棚に上げて行くなとは言えませんし、研究のため優秀な生徒を送るという大義もありますので、渋々ですが留学を了承します。


 


「2人の他に連れて行ける人間はいないのですか?」

「準備期間が短いから、他のご令嬢を連れて行くのは中々に難しい」

「とはいえ将来の王妃としての輿入れ。危険は少ないとはいえ、万全を期したいの。だけど、彼女達を1年も国元から離したら……嫁き遅れになって恨まれても嫌だし、アリス様の側で色々動いていた貴女なら適任だわ」


 アリス様が無事に王太子妃となられた僥倖にあやかるため、その側に仕えていた私を置いておこうという、いわゆる験担ぎの側面もあるのですね。


「なるほど……って、そんな理由で1年も国を離れるのはちょっと困ります」


 さしたる危険が無いのなら、私が行く必要はありません。

 ようやくオリヴァーの婚約者になったんです。これから人目を憚ることなくラブラブな二人の時間を過ごすことが出来るというのに……何が悲しくて1年も離れて暮らさないといけませんのでしょうか?


 ハッ! もしや……


「アデレイド様……伯爵令嬢様が恋敗れた意趣返しですか?」


 そうですよ。あのご令嬢は私がオリヴァーと婚約するって噂になったときに、いの一番に突撃してきたのが彼女です。

 もしかして私、仕返しされてる? 


「あら、私がそんなつまらないことで復讐するとでも思った?」

「じゃあ、私が付けた愛称が気に入らなかったとか?」


 金髪ドリル様。言い得て妙、絶妙なネーミングではありませんか。ご本人はお気に召さないようなので、もしかしたら……


「それは気に入らないけど……そんなことでここまでしないわよ」


 やっぱり気にいらんのか!


「そうじゃないわよ。そうじゃないけど……」

「キャサリン嬢、ああ今はリングリッド男爵だな。(アデレイド)はな、君のことが大層気に入っているようでな。アリス嬢が王太子妃になる前だけでいいから、自分の側に置いてみたいとな」

「お父様! その話は!」

「アデレイド、人は自分を必要としてくれると知れば意気に感じるものだ。わざわざ隠すことはない」

「お父様……」

「キャサリン嬢、私からも頼む。娘の力になってやってくれないか」


 クイントン父娘の会話から、必要戦力として呼ばれているのは分かります。

 それに併せて、お義父様からもオリヴァーにはよく言っておくから心配するなと言われましては断りようもありません。


 が……あと1つ気になることが……


「お父様は何と言っておりましたか?」

「マルーフか? 『ケイトに1年くらい会えなくてもワシは寂しくもなんともないぞ。ハッハッハ』と言っておった」


 何ですと?


 お義父様によれば、お父様の言い方はやせ我慢には見えなかったと仰います。

 あの親バカのお父様が? 1年会えなくても平気ですと?


 構われたら構われたで鬱陶しいですが、突き放されたらそれはそれでなんかムカつきますね……

お読みいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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[一言] ドリル様と婚姻か 浮気でもしようものなら血塗れドリルと化すわけだな
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