少女、既製の枠にはまらない
タイトルは誤字ではありません
今日はみんなで街へお出かけ。
私達3人でアリス様をどうやって守るかの訓練も兼ねてのお出かけなので、他に護衛は付けません。
いかにも貴族令嬢でございますという格好で、護衛も付けずに街を歩いたら、あのご令嬢は何かあったのか? と余計な詮索を受けます。
そこで今日は、髪のセットも化粧も控え目で、街娘が頑張っておしゃれしてみました! くらいに見えるようなカジュアルな服装。馬車も使いません。
まあナンパ野郎に声をかけられるリスクもありますけど、その程度ならどうとでも料理できますしね。
そして、宝飾店や小物店、アンティークのお店などの街巡り、予約していた洋服店での制服採寸を経て、今はカフェで休憩中。
ちなみに私はすこぶる不機嫌。
「……」
「ケイト様?」
「機嫌悪いですね」
「そっとしてあげて。ケイトのプライドはもうズタズタなのよ」
そう、他の3人が年齢以上に大人びているものだから、どこへ行っても子ども扱い。
宝飾店に行けば、みんなは年相応のブローチやネックレスを見せてくれるのに(高級品店なので、アリス様が身分証明してお買い物)、私には「お嬢ちゃんにはこれかな」って……
ガラス玉の指輪やないかーい!
サイズを測るプロの確かな目で、私の指にジャストフィットしてるのが余計に悔しい。
アンティークのお店に行けば「壊れやすい物があるから気をつけてね」って、完全に子ども相手の注意事項。やるなと言われるとやりたくなるじゃない、店中の物ぶち壊してやろうかと。
極めつけは制服! 私にピッタリのサイズが無い。一番小さいサイズですら袖から腕が出ないとはどういうことですの!
おまけに制服は特別な仕様で、オーダーメイド不可ということで、既製の枠にはまらない女・キャサリン爆誕よ。はまらないではなく、はめるほどのモノをお持ちでない? 余計なお世話よ。
そんな私を生暖かく見守る3人の視線が辛い。持てる者には分からぬ持たざる者の悲しみ。またしても格差社会の闇ですわ。
「ケイト様、ケーキを食べて機嫌治しましょうよ、ねっ」
ブーブー言ってる私にエマがそっとケーキを差し出す。その姿はまさに妹をあやす姉。
私も怒りは収まらないが、お出かけの一番の目的はこのカフェのケーキ。食べずにはいられない。
「そんなに言うなら食べないこともありませんわ。 ……パクッ、モグモグ……おいひー!」
そうこのカフェは最近王都で一番人気のお店。
王室御用達のパティスリーに匹敵するという噂のケーキの破壊力は本物でした。一口食べただけで幸せの境地ですわ。
「あらあらケイトったらお行儀が悪い。そんなに焦って食べなくても取らないわよ」
「ばって、おんなおいひーくぇーふぃおじゃすおふぃへ、ひんふひっふぉふぉーべわありふぁひぇんふぉふぉ(だって、こんな美味しいケーキを出すお店、リングリッド領にはありませんもの)」
口いっぱいにケーキを頬張りながら喋っているので、何言ってるか分からないが、とりあえず機嫌が直った様子にニコニコする3人。
「ケイト様はよく食べますよね」
「よく食べ、よく動き、よく眠る。健康優良児よね」
「でも普通、バランスよく食事と運動を行えば、体って大きくなりますよね」
……もしかしてまた、格差社会の闇を見せられる展開?
「なんで背が伸びないんですかねえ」
「世間の常識に囚われませんわね」
「まさに既製の枠にはまらない女ですね」
……それ、褒め言葉じゃありませんわよ。
「わらしがひひたいですほ。ひんなのせふぉすこひすすわへてふれたっひぇびゃひはあたいふぁへん(私が聞きたいですよ。みんなの背を少しずつ分けてくれたってバチは当たりません)」
「ケイト様、食べながら喋られると何言ってるか分かりませんわ」
「ホント、お子様みたい」
はしたないわよ、とアリス様が言うので、3人以外には見えないよう、真剣な表情で態と平民の子がはしゃいでいるように見せていると伝えます。
「目線を動かさないで聞いてください。左後ろの方のテーブルにいる4人組の男、2軒前のお店を出たときからずっと後をつけられています」
驚いて視線をそちらに送ろうとするアリス様を目で制します。
「最初は偶然同じ道かなと思いましたが、今もチラチラこっちを窺っていますので、間違いないかなと」
「確かにさっきから姿を見てるわね」
サリーとエマも気付いていたようで、私が隠密の訓練を受けた人間だろうと答えると、みんなの表情が真剣になります。
「暗殺者か誘拐目的か……」
私はアリス様にどうしますか? と尋ねるますが、お茶を飲みながら今日はそのための訓練でしょう。3人に任せますわと落ち着いたものだ。
さすがは騎士団長の娘、肝が据わっていると讃えると、ケイトだって騎士団長の娘じゃないと笑われる。確かにそうでしたわ。
どうするか3人で話し合った結果、店を出てアイツらをおびき出し、目的を吐かせる。
場合によって戦闘になった時は、私とエマで対応し、万が一の時はサリーがアリス様を逃がし、助けを求めることとした。
エマとサリーは真剣な表情で頷く。
「じゃ、行きますか」
私達が店を出ると程なく、アイツらも店を出てこちらに気付かれないよう付いてくる。
皆さん、上手いこと気配消してますが、気付かれてますよ。
目抜き通りを抜けると、あえて人通りがほとんどない裏路地を通っていく。
貴族のご令嬢ならば、なんでこんな所にと思われるだろうが、今の私達は街娘の格好。さして不審に思われてはいない。
「私達に何か御用ですか?」
歩いているうちに、男達の気配が近づいてきたのを感じた私はスッと足を止め、声をかける。
「へへっ、お嬢さん達、女の子だけでこんな人通りの少ない所歩いちゃ危ないぜ」
下卑た目つきでこちらを見る男達。
「どこを歩こうが勝手ではありませんか。それで何の御用です?」
「そんなに警戒するなよ。ヒマだったらちょっと俺達と遊ばないかって声かけただけだよ」
なるほど……真っ昼間から不埒な奴らですわね……