少女、未だ成長途上〈第二章完〉
本話で第2章完結です。
女なのに男爵とはこれいかに?
女の場合、女爵とは言わないのか?
「何をブツブツ言っておるんだ」
授賞式が終わり、国王陛下やジェームズ殿下を交え、プライベートな場で会食となっております。
さすがは王宮の料理人。見た目は豪勢、味も余程美味しいんだろうと思いますが、今日に限っては何の味もしません。
男爵って何? 聖騎士って何? とブツブツ呟く私を見かねて、お父様が声をかけてくれますが、理解が追いつきません。
だってお父様やおじさまの報奨は事前の打診通りだったのに、私だけ全然違う!
いや、普通に考えれば良い方に変わっているんだから喜ぶべきだろうけどさあ、私まだ学生よ、しかも婚約間近の令嬢よ。聖騎士だの男爵だのに任じて何しようってのさ?
「いやいや、キャサリン嬢が呆然とするのも無理からぬこと。望外の沙汰であっただろう」
「はい陛下。望外すぎて理解が追いついておりません」
私を気遣う陛下から声をかけて頂きましたが、やはり理解できないものは理解できません。
「君の報奨はな、ジェームズが決めたのだ。そうじゃったのう?」
「殿下が?」
「アリスの側仕えになってもらうからね。箔を付けないと」
殿下の中では私がアリス様の護衛騎士になるのは決定事項のようで、折角大功を立てたのだからそれに見合う地位を与えようとなったそうです。
ありがたい話ですが……箔を付けすぎると、本体が見えなくなりますわ。
「ですが騎士を飛び越えて聖騎士とは……さすがにマズいのでは?」
「ただの騎士ではダメなのだ。今回は聖騎士になることに意義がある」
今回の報奨には、女性でも実力次第で地位を得られるというお手本にすることで、女性の社会進出を促進する狙いがあるのだということです。
おじさまは、そうそう立てることも叶わない大功なので、聖騎士に任ずるにはもってこいだと仰います。
「今回の恩賞でネイサンも聖騎士になるんだ。彼と互角にやれるケイトなら問題あるまい」
「文句のある奴はかかってこいとでも言えばいいんだよ」
「挑戦者が多そうですね」
「そのための男爵位だ」
騎士になれば騎士爵、聖騎士になるとその上の勲功爵、特別に大功を立てた場合でもさらに1つ上の準男爵に任じられるくらいなので、今回の私が受けた男爵位は破格中の破格です。
爵位は基本的に男性が継承するもの。まれに女性が継承することはあるが、後継が幼く成長するまでの間とか、婿を迎え入れるまでの間といった中継ぎでしかない。
私の場合、男爵位をもらってもどうしたらいいの? って感じですが、その爵位が私の身を守ることにもなると殿下が申されます。
貴族と呼ばれるのは男爵より上というのが一般認識。
準男爵も貴族といえば貴族なのですが、叙爵される経緯から、どちらかというと貴族ではなく、武功を上げた騎士という見られ方をします。
男爵位を与えられれば、下位貴族とは言え貴族当主になります。
しかも、王太子や王太子妃の覚えめでたいとなれば、ぞんざいな扱いをする者はまずいないだろうというご配慮です。
仮にぞんざいに扱われたら、私から身体的に、僕から社会的に制裁されるだけだよと殿下は笑います。
「それに、マルーフ卿が今回受けた領地はキャサリン嬢に贈与するらしいし、爵位は必要だよね」
「え? そうなのですか? てっきりケヴ兄様あたりを独立させるものだとばかり……」
「ケヴィンもネイサンも『自分に領地経営は向かない。騎士として生きる方が性に合っている』とな。ワシも離れた領地を管理するのは面倒だからな。オリヴァー君が贈与される領地と合わせてちょうど良いのではないか?」
お父様、ケヴ兄様、ネイ兄様、面倒事から逃げたな……
娘に領地を任せるとか、正気の沙汰ではありませんよ。さすがは狂戦士一家。
「まあ難しく考えることはない。暫くはラザフォードから要員を手配するし、領地経営はオリヴァーに任せておればよい」
「おじさま。そのことなんですが、領地持ちの貴族夫人が王宮で護衛騎士をしていても問題無いのでしょうか?」
自分が領地経営に携わる必要性が薄いのは分かりましたが、それはそれで一年中王宮で護衛をしていて領地に寄らない夫人はアリなのでしょうか?
「護衛騎士が独身に限るという規定は無いな」
「妻子持ちの騎士などごまんといる」
陛下、殿下、それは男性の場合ですよね?
「男性がいいのなら、女性にも当てはめねば平等ではなかろう」
女性の社会進出は、殿下、ひいてはアリス様の希望だそうです。
先ほど私をモデルケースにと仰っていましたので、そこも含めて……お膳立てされましたね……
「事情は了解しました。ですが、夫となる方の意向は確認しないとですね」
「オリヴァーなら僕がウンと言わせるよ」
「殿下、そういう権力の使い方は感心しませんわ」
「冗談だよ。だけどオリヴァーは僕の考えをよく知っているから、この話も理解してくれると思う。最終的には君達二人の判断に委ねるが、いい答えを待ってるよ」
それ、半ば強制ですよね。と思いましたが、さすがに口には出せませんので、二人でよく相談しますと回答を持ち帰ることにしました。
◆
「お帰り、男爵様」
「知ってたんですね……」
王宮を辞し、一旦公爵邸に戻りますとニコニコ顔のオリヴァー様が出迎えてくれました。
「その様子ですと、これから私が話す内容は既にご承知のようですね」
「殿下はそういうところが抜かりないからね」
話すまでもないかと思いましたが、オリヴァー様のお考えを直接伺うことなく決めてしまうわけにはいきませんので、改めて王宮での申し入れを相談します。
「護衛騎士の件は当然受けるべきだ。結婚するからと言って諦める必要はない」
「でもオリヴァー様は領地経営の必要がありますよね?」
「リングリッド領と違って、他国の侵攻に気を使う必要は無いから、平時は父の部下を何人か貰い受けて、代官として赴任させれば、僕が領地にへばり付く必要はないよ」
つまり大半は王都に滞在されるわけですね。
「君が受領する領地もギャレット伯領と併せて管理するし、男爵位もその領地を継承するための名義的なもので、実質名誉職だから問題ないと思うよ」
「ですが護衛騎士となれば、女主人の役目は中々果たせないと思います」
「それも折り込み済みで求婚したつもりだよ」
女主人としての務めは最低限で構わない。そのためには必要なものは、ラザフォードとリングリッドの両家でフォローしてくれるということです。
「そこまでしてくださるのですね」
「だって……ケイトの夢はアレだ……『美人すぎる女性騎士』になることだろ?」
「そうでしたけど……」
「それを『ケイトをお嫁さんにする』という僕の願いを叶えるために諦めようと考えた」
「…………」
「君は僕の夢を叶えてくれた。ならば、僕が君の夢を応援するのに何の問題がある?」
オリヴァー様はそう言うと、私の前に跪いて、手に取った小箱の蓋を開くと、それをこちらに差し出します。
もしかして……コレって!
「あの時は口約束でしかなかったけど、アリスが婚約者に決定したのであれば、縛るものは何もない。改めて申し上げる、僕と結婚してほしい」
取り出したのは婚約指輪。
分かってはいたけど、とうとうきたかという想いでございます。
「私、剣しか取り柄が無いですよ」
「構わない」
「がさつで口も悪いですよ」
「知ってる」
「山椒姫ですよ。食べたら口の中ビリビリですよ」
「毎日刺激のある生活も悪くない」
嫁にするデメリットを一通りプレゼンするのは、お約束みたいなものですね。
それはちょっと……とか言われたらどうしようかと思いましたが、オリヴァー様は全部受け入れてくれる気マンマンですので、こちらも答えは一つです。
「私、小さい頃からオリヴァー様のことが大好きでした。お嫁さんにしたいと言われてどれほど嬉しかったか……」
「うん」
「騎士とお嫁さんの両立って出来るのかなぁって思ったら……こんなにも色々と手を尽くしてくれて……」
「僕一人の力ではないけどね」
「でも、皆様が手を貸してくれたのは、皆様がオリヴァー様を手助けしたいと思ったからです。私もオリヴァー様の助けになれる存在になりたいです。求婚のお申し出、喜んでお受けし……!」
お受けの「う」くらいで、感極まったオリヴァー様に手荒く抱きしめられ、キスをされます。
早いです。フライングです。
「オリヴァー様、最後まで言わせてください」
「儀式みたいなものだ。もう言う必要もないだろう」
「気が早いです」
「これでも我慢した方だよ」
(瞳のウルウルしたオリヴァー様も美しいでしゅー)
「結婚したら、子供はたくさん欲しいね」
子供! ちょっと前まで幼女と嘲られた私が子を成すですと!
いや子供がどうやったら生まれるかくらい知ってますよ。ここでは言えないけど。
そうかー、結婚するってそう言うことも考えないといけないのかー!
「息子が二人以上できたら、下の子に男爵を継がせるのもアリだね」
オリヴァー様の話が未来を一人歩きしています。
まあ将来像を語り合うのも悪くありませんね。
「これから一生よろしくね」
「こちらこそよろしくですわ」
騎士になる夢も実現しそうだし、大好きなオリヴァー様のお嫁さんになることも出来るしで……
もしかして私、メチャクチャ勝ち組!?
ただ、一つだけ言わせてください。
婚約指輪、大きくてスカスカなんですけどー!
オリヴァー様、サイズ考えましたかー?
え? ケイトはまだ成長しているから、もう少ししたらサイズピッタリになる?
うー……もっと大きくなれ私!
成長期よ、まだ止まるでないぞ!
<第2章 山椒姫、参る! 完>
お読み頂きありがとうございました。
第2章完結でございます。
長かった……当初はもう少し楽に行けるかと思ったんですけどね。
リアル事情で恐縮ですが、勤めている会社で4月に大幅な人事異動があり、所属部署からゴッソリ人材を取られた結果、業務を詳しく知っているのが自分1人だけというヤベー事態になりまして……
ほぼ毎日連載できたのは、個人的な意地と、読んでくれる皆様がいるという希望によるものです。
PV・ブクマ・感想ありがとうございます。
なろうに投稿し始めたときは、素人の駄文なんだから、ブクマなんてあってもなくてもいいやなんて斜に構えてましたが、やっぱり1件でも増えれば嬉しいものですね。
有名作家さんの作品とは桁が2つも3つも違うけれど、確実にこれだけの人が読んでくれているという事実が連載のモチベーションになっているのは、自分で体感したので間違いありません。
本作は当初、この話の後に結婚式のシーンを入れて完結させようと思いましたが、意外と連載するのが楽しくなった&1ヶ月経って仕事の負担が減ってきたこともあり、もうしばらく続けたいと思います。
先にネタバレしておくと、第3章は山椒とドリルのコラボレーションです。
すいません、完全に私の趣味です。書きたくなってしまったんです(笑)
連休中はこれまでちょいちょい思いついた、小ネタによる短編を何本か掲載しつつ、本編の書き貯め(あとは心身のリフレッシュというか、ちょっとグータラしたい)をさせて頂きたく、第3章は5/10(月)開始で考えてます。
毎日掲載は厳しいかもしれませんが、これからも完結目指して書き続けたいと思いますので、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
あと、ブクマをされていない方で、頑張れよ応援してるよとちょっとでも思って頂ける方がいらっしゃいましたら、本当に執筆の励みになりますんで、是非登録お願いします!
長々とした後書き失礼しました。
今後とも、よろしくお願いします!




