少女、狂戦士の血を改めて実感する
「さて、そろそろお仕舞いにしましょうね」
白い舞台衣装のまま参上したせいもあって、服に付いた返り血がより鮮やかにその凄惨さを物語る中、血を流し跪くミシェル王子に向け、優しく微笑む私。
自分で言うのもおかしい話ですが、見方によっては狂気に駆られた女のようでもあります。
「や、やめろ」
「やめませんよ。貴男は今までそう言ってきた人の命を何人奪ってきましたか? 自分だけは命乞いして助かるとか……都合の良いこと考えちゃ、ダ・メ・で・す・よ(はあと)」
血の臭いって人を狂わせますね。私の場合、一族に伝わる狂戦士の血が疼きます。
……ウソです。ウチは狂戦士の家系ではありません。結果として狂戦士になっただけで、私はごくごく普通の伯爵令嬢ですわ。
「リリアちゃんの記憶を改ざんして(バキッ!)」
「リリアちゃんを禁呪で縛り付けて(ドゴッ!)」
「何人もの罪の無い人を殺させて!(グリグリッ!)」
「お前はこの手で始末してやる!」
「ケイト、待て!」
後を追ってきたオリヴァー様とネイ兄様の叫ぶ声で、トドメに蹴っ飛ばそうとした脚がすんでの所で止まりました。
何を蹴飛ばすか? お約束のナニですよ。
「オリヴァー様、ネイ兄様」
「ケイト、怪我は無いか!」
他の方の目があるというのに、そんなものは気にしないとばかりにオリヴァー様は私を抱きしめます。
「お、オリヴァー様、服が……血塗れになってしまいますわ」
「構わん」
構ってください! 私が構いますわ!
「オリヴァー君、それは後でゆっくりやってくれないか……」
ネイ兄様がそれとなくオリヴァー様を引き離します。
このときばかりは男女の恋心を解せないネイ兄(だから彼女が出来ないのよー!)に感謝ですわ。
「で、この肉の塊は?」
「まだ死んでませんわよ」
「殺そうとしてたよな?」
「蹴っ飛ばそうとしただけですわ?」
「ソコを蹴っ飛ばすとマジで死ぬぞ」
男にしか分からない痛みだそうです。知りたくもありませんが。
「とにかく、この男は重要参考人だからな。身柄は騎士団で預かるから、お前は取りあえず家に戻れ。今のお前はホラーでしかない」
血塗れの白服を身にまとい、片手には剣、限りなく死体に近い何かを足元に転がす、髪を振り乱した少女……
しかも指摘されるまで気付きませんでしたが、思ったより目が血走って爛々としているようで、どこをどう切り取っても狂気の沙汰にしか見えないようで、一緒に来た騎士団の方も若干引いています。
「私が美少女過ぎて、よりホラー感が増し増しなんですね」
「バカ言ってないで早く帰れ。ウチはただでさえ武闘派一家と思われているんだ。お前のその姿を大勢に見られては、余計に狂戦士一家だと思われてしまう」
お兄様も狂戦士一家という認識は持っておられたのですね。
「それに、そのうち父上も帰って来るから」
はい? 何でお父様が?
「あれ? オリヴァー君言ってないの?」
「すみません。何て説明しようか迷っているうちに言いそびれました」
「どう言うことですの?」
なんてこった……まさか暗殺者討伐にお父様まで駆り出されているとは……
しかも呼び寄せるエサに私を使ったですと!
オリヴァー様、お父様を呼んだという事は大きなリスクを背負ったことになりますよ……
ベルニスタが攻めてくる可能性? それはフィル兄様がいれば大丈夫です。
問題なのはお父様がこのタイミングで王都に来られたということ。
「お父様は事件のことをよく分かっていますよね?」
「そのために呼んだからね」
「私が重要な役割を果たしたことも知ってますね?」
「作戦の肝だからね」
「では、邸に戻ってこの姿を見られたら?」
「……あっ!」
親バカのお父様のことです。「おんどりゃー、ウチのケイトに何したんじゃ、このボケカス!」となります。
その怒りの矛先が誰に向くでしょうか?
(1)戦ったベルニスタの連中
(2)潜入捜査に向かうのを許可したオリヴァー様
(3)取りあえず総責任者のラザフォード公爵閣下
「全部」
「正解!」
「いや、でも、そんな大事にはならないだろう?」
「大事にはならないと思いますが、お父様は暫く領地には帰らないで、私を構い倒す未来が見えます」
そうなると、暫くは二人でイチャイチャする事も出来ませんわねぇと言いますと、ネイ兄様も当たらずとも遠からずと乗っかってきましたものですから、オリヴァー様は大急ぎで帰り支度をします。
「ケイト、帰るよ! マルーフ卿が邸に戻ってくる前にお風呂に入って着替えないと!」
事後処理をネイ兄様に全て任せ、オリヴァー様は私を馬に乗せると全速力で邸に戻ります。
「やれやれ、義弟殿にも困ったものだ」
二人の行く後ろ姿を見届ける兄ネイサン(20才独身、彼女いない歴=年齢)であった。
◆
「遅かったな……」
うん、遅かった。
むしろそっちの戻りが早くない?
大急ぎで馬をとばして邸に戻った努力も虚しく、お父様は先に邸に戻っており、私の帰りを今か今かと腕組みして待っておりました。
まるで朝帰りの娘を叱る父親のようですわ。まだ夜は明けておりませんが。
ていうか、王宮の方の事後処理どうしたのよ? まさか仕事放り出して帰ってきたわけじゃないよね?
「そんなものは全部エドガーに押しつけてきた」
お父様も戦闘の余韻でしょうか、目が血走って爛々としています。
こういうのを見ると、やはり私はこの人の娘なんだなあと改めて思います。
普段はノホホンと温厚な父ですが、戦場に立つと相手に鬼と呼ばれるのも頷ける程の苛烈さと、相手の考えを読み切る、研ぎ澄まされた思考の持ち主になります。
いや、ここ戦場じゃないから。私の思考は読まなくていいのよ。
「ただいま、お父様。任務を終えて、無事に戻りましたわ」
「怪我は……無さそうだな」
「お父様の娘ですよ。そう簡単にやられたりしません」
「そうか……よくやった」
お父様はそのまま私を軽く抱きしめると、お風呂で汚れを落としてこいと一言だけ言います。
「マルーフ卿、王宮の方は?」
「問題ない。数が多くて多少手こずりはしたが、ワシとエドガーがおって負けるはずも無かろう」
お父様とおじさまは、なんだかんだ言っても長い付き合いのコンビですものね。
「オリヴァー君にも世話をかけたな。言いたい事は色々あるが、今はみな疲れておるだろう。まずはゆっくり休め」
お父様はオリヴァー様にも労いの言葉をかけると、そのまま邸の中に戻っていきました。
「あれ? 案外拍子抜け」
「あんまり怒っている感じはなさそうだね」
「油断できませんわ。私がお風呂に入っている間に『オリヴァー君、男二人だけでちょっと話しようか?』ってなるかも」
「怖いこと言うなよ」
騒動は首謀者の逮捕により、幕を下ろしました。
まだまだ事後処理とか、背後関係の調査などはあるでしょうが、ひとまずは一件落着かな?
今日は久々にグッスリ眠れそうです。
お読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。




