少女、切れ味が鋭い(物理的に)
殺人、出血シーンあります。ご注意下さい。
「ねえクソ野郎のアルベール、いや、隠世の首領クソミシェル王子様」
逃げるミシェル王子達の前に立ちふさがった私。
持っていた剣を抜くと、彼らに向けて突きつけます。
「貴様、何者だ?」
「待て」
「殿下?」
いきり立つ側近を抑え、王子が前に出てきます。
「キャサリン嬢、こんな所で何をしているんだい?」
「貴男達を捕まえに来たと言ったら?」
私の言葉に1人の側近が、女ごときに何ができると笑い出します。
「そう思ってるんだったら、さっさとかかって来なさいよ。手を汚す仕事は人に押しつけて、自分では何も出来ない能無しの皆様」
普段こんな煽られ方をしたことも無い貴族の坊ちゃまは、私の煽り文句に怒り心頭とばかりに向かってこようとするところを、王子が制します。
「女だからと油断するな。あの女、鬼の娘だ。ナメてかかると痛い目を見るぞ」
「ならばなおのこと、この場で血祭りにしてくれましょう!」
「待てと言っているだろうが!」
王子が止めるのも聞かず、血気にはやった側近2人が斬りかかってきますが……
(甘い!)
明らかに訓練すらまともにしていないと思われる、彼らのブレブレの一太刀を受け流し、大怪我をしない程度に1人は腕、1人は肩口を切りつけますと、2人は痛みにのたうち回ります。
さすがは騎士団が丁寧に手入れした剣だ。どこぞのボンボンが飾りで腰に佩いていたのとはモノが違ったわ。剣の切れ味が良すぎて、ちょっと切り傷つけるくらいのつもりだったんだけど、思ったよりザックリいっちゃったね。
あーゴメン。って、謝る必要ないか。相手は私を殺しにきているのだ。殺られる前に殺る、戦場では鉄則よ。
「人の話も聞かず、相手が女とナメてかかったのが運の尽きよ。王子様、随分と優秀な部下をお持ちですわね」
「フッ、元より部下などと思ってはいない。コイツらはそれぞれの家から死んでも惜しくない程度の人材として集められたボンクラ達だ。最悪、今回の事件の生け贄として使えばいいかなってね」
「で、殿下……」
王子は足元で蹲る側近を一瞥すると、ためらうこともなく二人の心臓を剣で一突きにします。
「今までご苦労、最後に俺が介錯してやったのはせめてもの餞だ。ありがたく思え」
「どこまでも腐り果てたお方ですね」
「今の俺には最高の褒め言葉だ」
うん、最高に狂ってやがる。人を人ともおもっていないその態度、だからこそ……
「実の妹まで道具として使うような男に情なんか無いか……」
「アイツは実に優秀な暗殺者だったよ。最後の最後でとんでもないヘマをしでかしてくれたんで、過去形だけどね」
最後にヘマをしたのは彼女ではなくて私なんだけどね。
「その衣装を見れば分かるよ。まさか伯爵令嬢ともあろう者が芸人に成りすますとは……君と初めて会ったときにもっと警戒しておくべきだったよ」
「後の祭りですわ。お・に・い・さ・ま」
「兄などと呼ぶな!」
「あらいやだ。偽りとはいえ、一度は愛を囁いた女にそんな態度をしては悲しいですわ」
「……人をおちょくるのが好きみたいだね」
「その台詞、貴男に言われるとは思わなかったわ」
2人の間に一触即発の空気が流れます。
「1つ聞かせてほしいんだけど、なんで王子様が侯爵令息の名を騙っているのかしら?」
「ラヴァール侯爵家はベルニスタの裏工作部隊、つまり隠世の元締めだからさ」
ん? 質問の答えになっていませんよ。
「この国には随分と邪魔されたからねえ。お陰で前侯爵は信用がた落ち、威信を賭けた遠征も君の父上の前に大敗北し、隠世も壊滅。建て直しのために王家が直接管理することにしたのさ」
とはいえ、万が一王家が犯罪組織を支援したとバレては支障がある。
そのため、妾腹の子として生まれ、王子としては表に出なかったミシェル王子が、隠世を統括する象徴として前侯爵の甥と出自を偽って表舞台に登場したのだ。
幼い頃はあくまでもお飾りの頭目であったが、部隊の再編が進んでゆくうちに、成長した彼は部隊の運営などで力を発揮し、現在は実質的に彼らのリーダーとして行動しているのだ。
「王子として日の目を見なかった俺が、国を動かす日がようやく来たというのに! トランスフィールドを我が手中に収めれば、正妃の子というだけで王位だの公爵だのを継ぐのが当たり前と思っている兄達を、超えることが出来たのに!」
「くだらない……」
「何だと……」
「要はあれでしょ。お兄様達にコンプレックスがあったんだよね。正妃の子と妾腹の子の違い、持つ者と持たざる者の格差、アンタがそれで歪むのは一向に構わないけど、他人を巻き込まないでほしいわね」
格差社会の闇なんてどこの世界にもあるわよ。私にもあったけど、人様に迷惑かけた覚えはないわ。
え? 揉乳の刑? アレでエマのお乳が爆乳になったじゃないって?
あれは自然成長だ。効果がないのは実証済み、大事なことなのでもう一度言う。効果がないのは実証済みだ。
「アンタだってまかりなりにも王子様なんだから、貧しい平民の子と比べればかなり恵まれた部類よ。人を道具とか捨て駒と見下して……結局アンタだって親の命令でいいように道具として使われていただけじゃない」
「黙れ! 知った風な口をきくな!」
「アンタがこれまでどうやって生きてきたかなんて知らないけど、1つ言えるのは、アンタがコンプレックスの塊だって事よ。腹違いとはいえ、リリアちゃんだってアンタと同じような境遇の子じゃない。それを汚らわしいだの何だのって言うのは……同族嫌悪じゃないの?」
身分の低い母の元に生まれたという、己と似た境遇の妹が洗脳され、操られ、悪事に手を染めていく姿を見て、自分はアイツとは違う、自分は支配する側だと言い聞かせていた。
「そうでもしないと、自分の存在価値が見いだせなかったんだよね。くだらないったらありゃしない」
「黙れ……黙れ、黙れ、だまれだまれだまれー!」
激昂したミシェル王子は剣を手に取ると、こちらを一薙ぎしてきます。
(思ってたより速い!)
油断していたわけではないのですが、側近達のヘナチョコ剣技を見ていたせいか、避けるのがやや遅れてしまい、前髪が少し刈られてしまいました。
「へえ、今のをかわせるんだ。さすがは鬼の子だ、最初に見たときから反応の速い子だとは思っていたが、普段は猫を被っていたんだね」
そう言うと続けざまに剣撃を繰り出してきますので、こちらも剣で応戦します。
「中々やるねえ。だが、どこまで耐えられるかな」
王子様はしたり顔ですが、たしかにそれを大言するだけの腕前です。腐っててもクズ野郎でも、暗殺集団の頭目ですから名ばかりではダメなんでしょうね。
その努力、もっと他のことに使えば良かったのに……
「だけどこれ以上モタモタしているわけにいかないんでね。そろそろ終わりにしようか」
王子の動きが一段と速くなります。
彼はこれで一気に仕留めるつもりなのでしょうが、一向に私が崩れる気配がないのを見て焦っているようです。
「クッ、何故だ。何故このスピードに付いてこれるんだ」
それはねえ……私の方がもっと速いから。
剣の速さには自信があるんでしょうが、お生憎様。私も速さだけならトップクラスの聖騎士と互角にやれるのよ。
それでも中々勝てない最大の理由はパワーの差。一撃の破壊力が大きい相手と戦うと、ぶつかり合うたびに体力をかなり消耗する。
最初こそ善戦はするけれど、戦いが長引けば、どんどん私が不利になる。
ましてやお兄様達と私の速さはほぼ互角、早めに一瞬の隙を突くような攻撃が出来なければ、後はじり貧になってしまうから、一瞬の速さと急所を突く正確性だけは小さい頃から特に鍛えてきた。
アンタも暗殺者の一味だからねえ。似ているんだよ、攻め方が。
もう少しパワーで押してくれば、私の方がスピードが上だったとしても、いい戦いが出来るとは思うけど、残念ながらアンタの剣は軽い。
まるで中身の空っぽなアンタ自身を投影しているように軽いんだよ!
「ねえミシェル王子、私のあだ名を知ってる? 山椒姫って呼ばれているらしいのよ」
「それがどうした」
「山椒の実はね、とても小さいけど色々な用途があるのよ。それに、食べるとピリッと辛いのよね」
「何が言いたいんだ」
「こういうことよ!」
ここまで相手の動きに合わせてそれなりのスピードでお付き合いしていましたが、決着を付けようとこれまで見せなかった最大限の瞬発力を用いて懐に入り込むと、対応しきれなかった王子を袈裟斬りにします。
「グッ……」
なんとか避けようとしたものの、肩口から胸のあたりを切りつけられた王子は、剣を握ることも出来ず、血を流しながらその場に跪きます。
「女だからとナメてかかったのはアンタも一緒だったね。知らずに食べたら痛い目を見る。私が山椒姫と呼ばれる所以よ」
お読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。




